第1話 これはまだプロローグ

高校1年の5月下旬。この俺、梅野うめの 翔太しょうたはいつもの放課後、一緒のクラスになり、仲良くなってきたクラスメイトの佐々木と田中と喋りながら教室から出ると、1人の女子に肩をトントンと指先で叩かれ話しかけられた。


「ちょい…」

「ん?」

振り返るとそこには、鎖骨辺りまで伸びたセミロングでサラサラの明るいクリーム色の髪を揺らした女子。宇佐美うさみ あかねだった。


雪のように白くニキビの跡も無いような綺麗な肌。少し目にかかる前髪に、男なら庇護欲を誘われる155cm程の身長。バランスよく配置された顔のパーツ、髪色に合うような綺麗な明るい茶色の目。そしてぱっちり二重に高すぎず低すぎない鼻、そして小さな顔は男子を虜にさせる様な可愛らしい魅力を持っている。


まさに学年のマドンナってやつだ。入学早々から告白して、振られた奴が何人も居るし。ほぼ常に周りには我先にと男子が居る。その為、別のクラスである俺たちの話の話題に出る事も多い。


「え〜…何…?」

「2人で話したいんだけど…」


その言葉を聞いた男友達の反応は分かりやすいものだった。宇佐美と俺の後ろで2人でコソコソと話始めるが、その内容は俺の耳にも聞こえてくる。

(え…告白?)

(マジか!?宇佐美に告られるの!?羨ま〜)


「ちょいお前ら先行ってろ!後で連絡すっから」

「「へーい」」

そう言って2人はニヤニヤしながら先に階段を降りていった。


「はぁ…ったくよ〜…んで、話しって何?」

俺がそう聞くと宇佐美は、申し訳無さそうにしながら俯き始めた。うん、この時点で絶対告白じゃない。

「家、泊めて欲しいんだけど…」

「誰の?」

「梅野の…」

「いや…は…?」


いきなり泊めて欲しいという宇佐美の要求は訳が分からなかったが、学年で1番モテる可愛い女子に言われた事なんだから、肯定的に捉えるのは思春期男子としておかしくは無いはずだ。とても嬉しい。


だがまだ頭が受け入れきれていない。


なのでとりあえず、否定はせずに理由を聞いてみる。


「えっと…なんで?」

「家出したくて…」

「っ…はぁ!?家出!?」


俺はいきなり言われた事が理解出来ずに、思わずでかい声で反復してしまった。俺のでかい声は廊下に響き渡り、下校中の他のクラスの奴らが俺の方を見てくる。


「ちょっ…///大きい声で言わないで…!」

宇佐美は慌てて顔を赤くしながらも、俺の顔の前に手を出して、口を抑える様にしてくる。

「あぁごめん、てかなんで急に家出?」


「それは…まだ言いたくない…」

「そうすか…で、なんで男子の俺の所に来たの?同じクラスの女子とかの家に泊めてもらえば良いじゃん」

「そんな友達、高校に居ない…」

「え〜…」

予想外の答えが飛んできて思わず、間抜けな声が漏れてしまった。俺と宇佐美は中学から同じで、中2〜中3の時クラスも一緒になった事があり、何回か複数人で遊びに行った事もある。その為、この学校の誰よりも仲は良いとは思っている。


ていうか、中学の時はこんな可愛い感じじゃなかったんだが、いつの間にか高校デビューしていた…髪染めてるし…元々かなり可愛かったのだが、高校で化粧も始めて更に可愛くなった。廊下とかでたまにすれ違ったりした時は、少し話したりしてたのだが…


「宇佐美、友達居なかったのか…中学の時は女子達とあんな「うぇーい」ってやってたのに」

と俺が少しからかう感じで言ってみると、宇佐美は恥ずかしそうにバシバシと俺の腕を叩いてくる。

「痛い痛い」

「やめて…!恥ずかしいから!」


「まぁ良いや教室行く?もう誰も居ないっしょ」

話が長くなりそうな上に、家出ともなると話の内容が重くなりそうな予感がしたのでとりあえず教室に誘う。そして宇佐美を教室に入れ、扉を閉めて、教室の1番後ろの窓の近くにある誰かの机に荷物を置いて椅子に座る。

「まぁ宇佐美もとりま座れば?」

「うん…」


「で、家出するから協力して欲しい感じ?」

「そう、家泊めて欲しい…」

「なんで俺の家?てか、高校に友達居ないとしても、中学の時仲良かった女子とか居るだろ、そいつらに頼めば…」

「だって頼みづらいし…」

「え?なんで」

「だって学校も違うのに、他の人の家にずっと居るのおかしいじゃん…」

「は?え、どゆこと?ずっとって、家出ってどれくらいすんの?」

「1ヶ月くらい…?」

「はぁ!?1ヶ月!?そういうのって普通は、せめて1週間とかじゃないの!?」


(というか「学校一緒でもおかしいだろ」というツッコミも入れたかったが、これ以上は言った所でだな…同じ学校だからまだ楽なのは分かるが…)


その家出の日数に驚愕し、大きく開いてしまった口を手で閉じて再び質問する。

「それでなんで異性の俺の所来るんだよ…」

「今、この学校で仲良いの梅野しか居ないし…丁度一人暮らししてるってたまたま聞いて…」


(誰から聞いた…)は置いといて、まぁ色々あって一人暮らしは確かにしているが…


「それって…家帰るよりも、彼氏でも無い異性の同級生である、俺の家泊まった方がマシって事?」

「そう」

(おいおい即答かよ…)


これはかなり相当なのだろう。制服から見える範囲では、アザとかは見えないので虐待とかそっち方向では無いとは思いたいのだが…


「まぁ…分かった。じゃあ家出については出来る限り協力する。でも1ヶ月近くってなると、宇佐美の親御さんに言わないと無理だわ…俺がまだ未成年とはいえ、最悪の場合犯罪だし」

「それは…」

「宇佐美が親に言いづらいなら、俺が言うとかも出来るし、同伴も出来るけど」


自分で言ってて彼氏でも無いやつが、他人の家庭事情について同伴するというのはよく分からないが…


「親御さんの方は一旦置いといて、先に理由教えて欲しい」


高校に入って1ヶ月程、クラスも違うのにわざわざ話しかけてきたという事は、何かしら事情があるのは分かる。そしてそれはなんとなく察しがついていた。


「もしかして、女子にいじめられてる感じ?」


さっきの泊まりをしても良いか聞ける友達が居ない発言からして女子の友達が居ない…そこから推理した事をそのまま聞いてみた。


俺がそう聞くと宇佐美の顔はさらに下を向き、小さな声が聞こえてくる。


「分かんないけど…避けられてる…みたいな…」


宇佐美は濁しているが、恐らく無視されているのだろう…俺は女子の恐ろしさは知っている(ラノベとか漫画で…)


「それって女子と仲良くなるより先に男子が集まってきた的な感じ?」

「そんな感じ…」

「もしかして宇佐美って初対面の人に自分から話しかけれないタイプだろ」


俺が聞いてみると宇佐美は俯いていた顔をこちらに向けて、少し元気になり返事をしてきた。

「そう!!自分から話しかけるのはなんか緊張しちゃって…」

「それで女子に話しかけれずに距離が空いちゃったと…」

「そうなの!!」

「だからって俺に助け求めんのかよ…まぁ俺もそういうタイプだから気持ちは分かるけど」


今の俺はこんな事を言っといて、可愛い女子に頼られた嬉しさが隠しきれてないと自分でも分かる。


「ていうか、それが家出の理由?」


こんな事を言うのはあれかもしれないが、これなら家出の理由としては少し弱い気がする。俺がそれで終わりか聞いてみると宇佐美は首を横に振った。


「私、今お母さんと2人暮らしで、お父さんと中1の時に離婚したの。それからはお母さんに迷惑かけないように頑張ってた。色々取り繕って頑張ったり…テストも良い点取らなきゃって、家に帰ったらずっと勉強してた…」


宇佐美と知り合ったのは中2からなのでその事は全く知らなかった。確かにテストは毎回良い点だったし、それは高校に入った今になってもそうだ。全教科高得点と噂では耳にしている。


「そっか…ごめんな。さっき変にいじったりして」

「んーん、あれくらい良いよ全然…むしろ嬉しい」

「なら良かった」

俺がそういうと宇佐美はふふっと笑って、またすぐに話の続きをする。


「それで高校入ったけど、高校では上手く馴染めなかったのをお母さんに言えなかった…だからお母さんは多分、私が高校でも中学の時みたいに上手く出来てるって思ってる」


「まぁ、なんとなく理由は分かったけど、なんでこのタイミングなの?」

理由はなんとなく分かった。馴染めなくて家でも気まづい状態が続いている。でも何故この時期に家出を決意したのか少し気になった。


「それは…ついこの間、私のお母さんが再婚考えてて、それを私に相談してきたの。最初は正直嫌だったけど、お母さんが凄く嬉しそうな顔してたから良いよって言った…」


宇佐美は指で髪をクルクルと巻きながら、事情の続きを話してくれる。


「それでお母さんが、1度会わせたいからって言ってきたから、会ってみたら変わるかもって思って「良いよ…」って言った。その3日後位にその男の人を家に連れてきたの。40代位かな…凄く真面目そうな人で私とお母さんの事も「真剣に考えてる…」って言ってた…」


「でも私…どうしても嫌だった…私とお母さんの居場所に、全く知らない男の人が入ってくるのが…気持ち悪くて…でも言い出せなかったの…」

「その男の人は、もう同棲してるって事?」

「まだしてない…でもお母さんはいずれしたいって言ってた…」

「それって再婚についてはどうなん?正直否定派?」


俺が聞いてみると宇佐美は首を横に振った。どうやら再婚については肯定派だが、男の人が受け入れきれなかったという事だろう。相談してから、男の人を連れてくるまでのスパンが短かったのもあるかもしれない。


恐らくこれは一時的に頭が追いついてないような状況なのだろう。情報を整理して気持ちを落ち着かせるという形で家出をするのも、お互いの今後の関係性が良くなる可能性がある。


家出している間に宇佐美は気持ちを落ち着かせて、宇佐美の母親は新しい人とより関係性を近づける事が出来る。なのでこれは決してマイナスな理由では無いと俺は感じた。


(てかいきなり話重すぎだろ、1話で話すような重さじゃねぇよこれ。アニメなら7話とか8話位で話す内容だよこれ)


そして俺は理由を聞いて決意した。

「おっけ、ほんとに俺の家で良いの?最近までお母さんも住んでたから、お母さんの部屋ならベッドとかもあって空いてるけど、それでも良い?」

俺が最終確認をすると、宇佐美は嬉しそうに笑顔になり首を縦に振った。

「うん!」

「とりあえず今日は俺ん家泊まる?」

「泊まる!」

「ちゃんと親には連絡しといてね、後で連絡したかちゃんと見せて」

「分かった」


流石にちゃんと親に連絡したかどうかは確認しないと、後々大事になりかねないのでそこはしっかりしなければ…


「んじゃ、行くぞ〜」

俺は自分の荷物を持って、人の居なくなった静かな廊下を歩いていく。


俺の横を宇佐美は歩いてついてくる。

「なるべく早めに親御さんに今の状況、全部伝える機会作れよ?一応俺も一緒に行くから。親御さんも泊まらせる相手の顔は直接見ないと不安だろうし」

俺がそう言うと宇佐美は俺の袖を摘んで引き止めてきた。そして振り向くと上目遣いで感謝を伝えてくる。

「ほんと…ありがとね…?」


(っ…こいつ、あざと過ぎだろ…中学の時こんなキャラじゃ無かったぞ…わざとやってんのか?こういうのが今の女子との関係の結果に繋がってるんじゃないんですか!!)


今の一言で学年1可愛いと言われてる宇佐美が、俺の家に泊まるという事を実感し、心臓がバクバクと音を鳴らしながらも平静を装う。まず心配したのは夜の運動についてだ。健全な男子高校生なんだからまぁまぁな頻度でしてる。


それなのに学年1可愛い女子と同棲…これはちゃんとノックしてから俺の部屋のドアを開けるようにキツく言おう。俺の部屋鍵無いし。


なんとか気持ちが表に出ないようにしながらも、雑談をしていく。

「生活用品とか買わないとだよな…てかそれに教科書とかも持ってこないとじゃね?」

「は…!」

俺がその事について触れると、思い出したかのように焦り始めた。


「まぁ同じ中学だから家はそんな遠くないでしょ。今から一旦家帰って、服とか取りに行くついでに教科書とか持ってくる?」

「そうする!」

「んじゃ、とりあえず駅まで行くか〜」


そう言って俺と宇佐美は一緒に靴を履き替え、駅まで向かい始めた。今の宇佐美はとても嬉しそうで、まるで修学旅行に行く前日の俺みたいな雰囲気になっている。それ程までに今の家から離れられるのが嬉しいのか、それとも別の理由があるのか…


「とりま歯ブラシとかはコンビニとかで買うとして、洗剤とか柔軟剤はどうする?こだわりあるなら買いに行くか、家から持ってくるかだけど」

「あ〜…良いよ、そのくらい」


そう言った宇佐美の顔は少し残念そうだった。やはりこだわりがあるのだろうか?どうせならこれからも遠慮なく居て欲しいので、ちゃんと聞いてみる。


「ほんとに良いのか?俺ん家でも我慢してたら家出する意味無くなるんじゃね?遠慮とかマジで要らないから」

「ほんと…?」

「別にそれくらい良いよ、その代わりシャツとかのアイロンとかはかけてくんね?俺あれ嫌いだから」


泊める代価として、アイロンがけをして貰えるか聞いてみると、宇佐美はキョトンとした顔の後すぐに微笑んで笑い始めた。


「ふふ…なにそれ、何か意外…アイロン苦手なんだ」

「そうだよ!どうせシワになるしとか思いながら、アイロン掛けんのマジ面倒くさいんだよ…てか、料理とかもある程度は出来るけど、ちゃんとしたのは作れないから…」


料理もいつも自分の為だけに作っている為、栄養バランスなんて考えていないし、とりあえず肉と玉ねぎを炒めれば良いと思っている。


「てか宇佐美って、料理とかは普段すんの?」

「料理はあんまりやらないかも…簡単なのは出来るけど、難しいのは挑戦した事無いや」

「ならこの機会だし、なんか色々挑戦してみるか」

「うん!やってみたい!」


そんな雑談をしながら歩いていると、高校の最寄り駅に着いた。電車の方向は同じなので、とりあえず電車を待ち始める。


「あ、今のうちに親御さんに連絡しとけ〜ちゃんと見とくから」

「分かった!」


そう言って宇佐美はスマホを取り出し、ポチポチと文を打ち始めた。俺は宇佐美のスマホの画面を、少し大袈裟に、それでも決して体は触れないように覗き込んでみる。するとすぐに宇佐美は俺を押し返してきた。


「ねぇ見ないで!後でちゃんと見せるから」

「ごめんごめん」


今の宇佐美はどこか中学の頃の雰囲気に戻っている様な気がした。そりゃ中学の時は普通に話していたってのもあるのだろうが…高校でのこんな宇佐美は見た事は無かった。


これが幼馴染の力か…幼馴染じゃないけど。


俺は宇佐美に言われた後すぐに2、3歩距離を取ってスマホのメモを開き、とりあえず今頭の中にある必要そうな物をメモしていった。


(洗顔泡とか化粧水とかどうするんだろ?俺ん家にあるのだと、肌に合わないとかあるだろうし…)


「洗顔泡とか化粧水とか、あと化粧用品とかはどうする?自分家から持ってくる?」

「ん〜どうしよう…」

「でも全部一気に持ってくるってなると、かなりの量になりそうだな…」


この労力を考えていると、ふと1ヶ月経った後の事が気になった。1ヶ月経っても、宇佐美がまだ家に帰りたくないという状況の場合、どうなるのだろうか…そもそも1ヶ月も居れるのか…


俺としては勿論大歓迎なのだが、宇佐美の親御さんが許可を出すかどうかになる。そこは俺の説明次第でなんとかなる様なものでも無い気がするし…そこは近いうちに来るであろう話し合いの時に聞いてみよう。


「じゃあ絶対居る!って物だけ持ってくね?」

「分かった。後から必要そうになったりしたら、買うなり取りに行くなりしよう」

「ん!ありがと!」

そう言うと宇佐美は、スマホの画面を俺の目の前に見せつけてきた。


俺が画面を確認するとちゃんと『友達の家に泊まってくる』というメッセージが送られていた。(既読にはなっていないし、相手が男だとは一言も書いていないが…)


「んじゃあちゃんと返信きたらまた見せろよ?家に入る前に確認するから」


親御さんの許可はまだ出ていないが、ちゃんと一言伝えるのは大事だと思っている。とりあえず許可が出ると言う前提で行動していく。


そして電車に乗り、先に宇佐美の最寄り駅に降りていく。

「どうする?私の家まで来る?」

「あ〜…行くか」


一瞬(流石にやめといた方が良いのでは無いか)という気持ちが出てきたが、今後行く機会もありそうなのでついて行くことにした。


駅から10分程歩いた所にある、まだ作られてあまり時間は経っていないであろう綺麗なアパートに着くと「ちょっと待ってて!」と言って部屋に入っていった。


20分程して、宇佐美が出てきて少し重そうなリュックを持って出てきた。


「忘れ物とか大丈夫そ?」

「たぶん大丈夫!」

「親御さん居た?」

「居なかった…お母さんは多分まだ仕事だと思う。早く行こ」


宇佐美はどこか少し急ぐように、この場を去ろうとしていた。そこは宇佐美の自由なので、俺は特に何も言わずまた駅に向かい歩き始めた。


「それ持つよ」

少し重そうにして、色んな物が入っているであろうバッグに手を伸ばす。宇佐美は少しの間の後に「良いよ。自分で持つから」と言って少し早足になり先に歩いていく。


「てめぇ!俺がカッコつけて持つよって言ったんだから甘えろや〜!」

どこか重くなりそうな雰囲気を察知した俺は、少しふざけて宇佐美のバッグを持とうとする。


少し強引にバッグの持ち手部分を引っ張ると宇佐美はバッグから手を離してくれた。

「それくらい自分で持つのに…」

「こういうのは持たせる方が良いんだよ、こっちの自己満だし」

「ありがと…」


確かに宇佐美のバッグは少し重かった。沢山の服や化粧品等が入っているのだろう。その重さは、宇佐美の努力の重さなのかもしれないと心の中で一瞬思ってしまった。


(もっと努力してんだろうな…これじゃ軽すぎるか)


「そういや親御さんから返信来た?」

俺が聞いてみると、宇佐美はスマホを取り出しトークを確認する。

「うん、来てる。『良いよ』だって」

「そっか、とりま良かったわ」


(ここで親御さんと会わなかったら、家出について話し合う機会はもう少し先になりそうだな)


親御さんの許可が出た事に安堵しながら歩いていると、突然宇佐美が立ち止まった。


「どうした?忘れもの?」

そう聞いてみるが、宇佐美の顔は前を向いたままだった。宇佐美の見ている方に視線を向けると、そこにはどこか雰囲気が宇佐美に似た美人な大人な女性が立っていた。


状況から察するに宇佐美の母親なのだろう。

「今から行くの?そっちの人は…彼氏さん…?」

少し心配そうに宇佐美に聞いた母親らしき女性は、すぐに俺の方にも視線を向けてきた。


(おいおいマジかよ)

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