第22話 盟約 (リクルの冒険者編①)終わり

 

「俺は、これから冒険者になるため、大きな街へ向かおうと思っている」


「なんと魔物退治に目覚めて街へ行かれるのですか。……勇者どの、迷惑をかけたお詫びにアレを差し上げてはどうかな?」


「なるほど。よい考えですね」



 俺の話を聞いた賢者が勇者に向けて相談をする。

 目を見開き、同意した勇者が俺に向き直り、襟元に手を入れる。



「リクル様、人間の街に行って王族に接触する機会があれば、コレをお見せになってください。どうぞ差し上げますので……」



 そう言って勇者が首から何かを外して、手渡してきた。

 手渡されたものを見ると、勲章のようでもあった。



「リクル様、それはわがユルトピア王家の紋章にございます。もし、トラブルに巻き込まれそうになったら、異国のものではありますが良き待遇に変わるはずですから」



 次いで賢者がいった。

 

 どの国のものでも、王家の紋章は軽んじられることはないと。

 王族ゆかりの証ゆえ、持っていれば決して差別や偏見に巻き込まれはしない。

 また拾得物であると疑いを持たれぬように身分を明かす必要があることも。



「リクル様の住まう地域でドラゴンたちに痛手を負わせた、せめてものお詫びのしるしです。リクル様をわがユルトピア王国は守護神として迎え入れます。もちろん、ご自由を縛るものではありません。


 様々な国の王族とこのように守護盟約をなさればその国の者は一切リクル様に手を掛けることはできないのです。またリクル様の方からも。冒険者になられるなら覚えておくのが良いでしょう。王族と神族は守護盟約ができることを」



 その盟約とやらを結べば、双方が危害を加えられない関係が築けるというのか。

 この勇者はその国の王族だったのだな。

 こんなにしてもらっていいのか、と思う反面で別のことが念頭にもある。


 それにしても神様とか、リクル様とか。

 村人たちのように気軽な友達がいいのに。

 すこし堅苦しい関係なんだな……盟約というのは。

 でもトラブルは御免だから回避できるのは有難いから、もらっておくか。



「盟約の件だが、受ける条件がひとつある。必ず守ってもらうぞ!」


「はっ。どのようなことでございましょうか?」



 俺の存在がこの者たちにとって、神なのはわかったが。

 お前たちは何か勘違いをしているのではないか。

 自分たちの都合でコロコロと態度を変えやがって。


 それに気づけぬ愚かさが許せないと厳しい顔で伝えた。



「あなたたちは高レベルの冒険者だ。たいした戦術を持たぬ村の衆に一晩も偽りの圧力をかけたのだ! それに胸を痛めて朝まで村の外で怯えていた者さえいるというのに。自分たちさえ良ければそれでいいとか。そのような輩を、俺は断じて認められないが……」



 俺の言いたいことが伝わったのか、彼らは焦りながら周囲を見渡した。

 今なお、勇者という存在に無礼のなきようにひれ伏している者たちもいた。

 余計なことが耳に入らぬように声を殺して寄り添う親子も見受けられたのだ。



「ははっ──ッッ!! これは村人には大変申し訳のないことをしました!」



 彼らは村々を回って重々詫びをしてまわった。

 村人たちに真実の笑顔が戻り、外で様子を見ていた若者も戻ってきた。

 おびえて村の外に身を置いていた若者が俺の傍に駆け寄ってきた。



「これは、リクルが解決してくれたのか? そういえば何か調査をしてきたんだよな。ありがとうリクル……お礼に」



 お礼に飛びっきりのモフモフをしてくれた。

 若者は喜びのあまり、死ぬほど抱き着いてきた。

 皆の苛立ちも解けて、勇者たちの事情も快く受け止めてくれた。

 勇者が異国の王子だということも併せて前向きに考えてくれたのだ。


 正式に彼らから村人たちへの謝罪があった。

 誠心誠意の謝罪が。

 その行動はとても重要なことだと思う。


 そのまま村を立てば、勇者や王族に敬いの気持ちを持てぬまま生きる者もいたはずだ。


 同様の存在と出会うたびに気分を害さず溶け合えれば、人間たちはもっと豊かな実りを得ることだろう。

 いずこの民であれ、気持ちを拭ってやれないようなら味方に欲しいとは思わない。


 改めて皆で宴の席についた。



「それでいい。姫様を救うのは何のためか。善良に生きる民のためだということを忘れないようにな。そして──色々とありがとう。あなたたちも早く、パナプットに会えるといいな」


「リクル様……? パ……パナプットとは……何のことでございましょう?」


「たぶん人型のやつの名前だよ……」



 4人は顔を見合わせた。

 目を白黒させている。

 俺は彼らに思う所を述べてやった。



「その名は、俺が人間のことを見る度、自然と頭の中に浮かび上がっていた言葉だ。きっとそいつのことだと思うのだ……いやそう感じるのだ」


「り、り、リクル様ぁぁぁぁぁぁぁ!!! ありがたき幸せェ!」



 涙を洪水のように流して、泣いて喜んでいる。

 脱水で倒れてしまわないか心配になるぐらいに。

 名前がわかったぐらいで何になるんだ。

 顔や背格好が分からなければ、行方探しはまだ険しいだろう。


 だが彼らにとっては救いであり、大きな希望となったのかもしれん。

 それならそれで良かった。


 俺を守護者として受け容れたのだから、村人たちには守秘としてくれるはず。

 なにも言わなくても旅立てそうだ。


 さあ、酒と肉をたらふく頂いてから出発するとしますか。

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名もなき草原に咲くⅡ ゼルダのりょーご @basuke-29

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