第21話 智慧と力

 

「まさか……こんな間近に。ほんとうに出会えるとは……。たしかにその様なお姿は……妖精でないのなら有り得る」


「どうしたのだ? 『ポッポルン』とはなんだ? どのような種族なのだ」


「彼こそが私らの探し求める、……竜族の神位に当たる存在ということだ」



 賢者のその言葉に3人は、なにかを思い出したように驚くのだ。

 やはり驚くのだな。



「おい、まさか。あの、神様のことを言っているのか!?」


「そうだ。いまはまだ幼体であられるようだが。──お聞きしますが、あなた様は覚醒済みなのですか?」



 そうか、目の前の賢者は覚醒のことも知っているのだな。

 俺は正直に首を横に振った。



「二十年前のことは話したとおり。村の人たちは攻撃をしなかったので目覚めに至らなかったんだ…」


「そうですか。……あなた様でしたか、私どものしでかした所業を谷や山へ足を運んで調査なさったのは?」


「うん。お察しの通りです。山の手の翼竜たちは証言してくれましたよ。4人組の人間達の特徴を……」



 4人が目的のために、罪なき竜たちをイジメた事実を掴んできたことを伝えた。

 彼らは息を飲み込んで、額から脂汗を垂らした。



「まさか……まじかよ。ドラゴンたちと話せるのか?」


「これ、神様ぞ。言葉を慎むがよい!」



 驚いた狂戦士は率直な意見を俺にぶつけた。

 賢者が俺を神だと強調し、軽んじることを抑止する。

 先ほどまで村人にすら驚異の存在だった彼ら勇者PTが、辺境暮らしの俺のような名もなき者に深々と頭を垂れ、ひれ伏すように敬意を表してきた。



「神様はやめてくれ。村人たちには明かしていないのだ……」


「では、リクル様と呼ばせて頂きましょう」



 周囲に目配せしながら賢者がいう。

 まぁ、それなら差支えはないだろう。



「あの山から無傷で帰って来られたのですね。……私たちが足を踏み入れると一斉に襲いかかってきて。よそ者を容赦なく排除する姿勢を示していたのに」


「逆に教えてくれませんか。覚醒とはそんなにヤバいのですか?」



 俺が賢者に向けて質問をぶつけると。

 4人は目を見開いた。

 狂戦士が口を開く。



「なぁ、あんた。覚醒してなくても結構強いんだろ? 一度、俺と手合わせしてくれねぇか?」



 狂戦士、この男は何を言い出すのだ。

 と思えば、賢者が制止して、



「この者が無礼を働きました、どうぞお許しを。まったく馬鹿も休み休み言え。…おぬしと戦っていてお目覚めになられたら、【王神おうじん】クラスの『バハムート』をも凌駕する強靭さを目の当たりにすることになり……おぬし、そこで間違いなく命を落とすことになるぞ」



 深々と一礼して、そのように狂戦士をたしなめた。



「な、なに!?「王神」クラスの『バハムート』が格下だと!? そんなにか!」


「覚醒をされたお姿は巨大な翼竜になりますが……、

 その形態こそが『ポッポルン・ガガー』。リクル様の真の種族名になります」


 巨大翼竜か。

 ヘンリー村長の話で想像はしていたけど。

 もとの姿にも自在に戻れるのかな。



「賢者さん……俺はこんな姿だけど、人型のポッポルンの存在は知っていますか?」


「やはり、それもご存知でしたか。人型の、まさに私どもが捜し歩いているのはその人型の、リクル様のお仲間なのです!」



 え、捜している神様が人型ポッポルン・ガガーなのか。



「いまこの者達も同様に驚いています。そう人型で成長されたポッポルンガガーは言わば賢者で、多くの魔法を使われます。一方、獣型のリクル様は戦士で吐息ブレスや咆哮、飛行力に長けたタイプになるのです。智者タイプと剛力タイプに分かれます」



 彼らが捜しているのが智者タイプで、俺は剛力タイプだったようだ。

 智慧と力を操る者に別れた結果が、人型と獣型だったようだ。



「リクル様、人型のほうにもっと何か……心当たりはありませんか?」



 具体的な手掛かりが欲しいというのだな。


 俺も、たったいま聞かされて知ったばかりだ。

 詳細など知る訳がない。

 申し訳ないが、首を横に振った。



「自分のこともよく知らぬというのに、仲間の詳細までは……」



 知力派と剛力派があり、双方の覚醒型を『ポッポルン・ガガー』と呼ぶ。

 俺は剛力タイプになる。

 魔法系を覚えるのは知力派のやつか。

 そして強力な呪いを解くのもそいつなら容易いと言うわけか。


 でもそれが解っただけでもよい。

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