第20話 そういえば
この村に神様らしい人物が居ないとわかった勇者一行は、つぎの場所を求めて出て行くようだ。
「やれやれ……。人騒がせだなアンタらも。まぁお国の姫様を思って10年も旅をして来たのには正直、感動したけどよ」
「すっかり迷惑をかけた。すまぬ…」
勇者がリーダーのようで深々と頭をさげて詫びる。
その姿勢に村の衆も気さくに接する。
「いやいや。もう忘れてくれ。それより、つぎこそはお目当ての神様に逢えるように祝ってやりたいと思うのだが?」
気前よくそう言ったのは村長の娘婿だ。
婿殿は景気づけに酒を振る舞って彼らの前途を祝してやろうと提案するのだ。
その言葉が村の衆の耳に入ると。
わあぁぁ! と拍手と歓声が湧きおこった。
みんな大賛成のようだった。
広場で宴が始まるようだ。
「そういえば……リクルが冒険者になるため村を旅立つらしいのだ。彼は今日、その挨拶に訪れてくれたのだ」
「あら、そうだったの? リクルならさっき見かけたわよ。ほらそこに」
「やぁリクル……まだ居てくれたんだね? 君もこっちへおいで。もう心配はいらないから」
見つかってしまった。
でもこれで皆に挨拶をして旅立つことができる。
ちょうど良かったのだろうな。
婿殿と勇者たちが広場に準備された宴用の大きな木製の長テーブル席についていた。そこから手招きをされて呼ばれたのだ。
「いま父上と家内が酒とご馳走の準備に家に帰った。村の者も手伝いにいっている。君も客人だから遠慮なく席についてくれよな!」
婿殿が宴の提案者なのでここを仕切るようだ。
俺にも気さくに声を掛けてくれたのだが。
一部始終を見て置きながら、面識のない者たちと対面するのがどうも気まずくて。戸惑っていると。
婿殿が「ほらほらどうしたんだ? 冒険者がそんなシャイでどうする?」と。
ずんずんと近づいて来て。
俺を赤子のように抱きかかえると、広場の中央に戻り、テーブルの空席にポンと座らせるのだ。
「君はここ。父上の隣が良いだろう」
強引に着席させられた。
仕方ない、ここは素直に歓迎を受けるか。
勇者たちは長テーブルの対面に並んで座っていた。
帽子をかぶっていたが、失礼になると思い、脱いで目線を下に向けすこしだけ会釈をした。
「婿殿? こちらは……どなたかが飼われているのですか? なんとも可愛らしい動物さんですな」
だ、だれが動物さんだ!
思わず声を上げそうになるが、これまでにも経験してきたからな。
だが十数年の間、耳にしなかった言葉で忘れかけていたから。
「はっはは。動物じゃないよ、彼はリクル。えーっと……そういえば。どう紹介すればいいのかな?」
「えっ!?」
婿殿が俺に自己紹介を促して来た。
「俺は、リクル。となりのヘンピ村から来ました。ど、どうも…」
なにを話せば良いのだ。
もちろん、それどころではない。
喋る動物を目の当たりにした彼らが、いったいどういう仕組みなのかと身を乗り出してきた。
婿殿に悪気がないにしても、偏見の眼差しはやはり心地良くない。
「俺は二十年前にも同じ経験をしている……たしかに人間ではないが動物でもないのです。他の種族になります。人間以外の種族には会ったことはないのですか?」
危険人物でないと分かれば、しり込みする必要はない。
こちらから尋ねれば良いのだ。
向こうには賢者もいるのだから。
ヘンリー村長ぐらいの知識を持っていても不思議じゃないから。
「他の種族か……。そうだな……エルフ族やオーガ族に出会ってきたよ。魔物だってそりゃ、沢山だ。トロルやグリフォンに、トレントなどにもな」
「俺はまだここの辺境から出たことがないから、よくわからないけど。ふつうに会話ができたりするのか?」
「まあ、魔物以外はふつうに街にいらっしゃるぜ!」
さっきの狂戦士。
「だが、リクルの種ははじめて見たよ。で、きみは何という種族なのだ?」
「こうなれば、話すしかないのか。あ、婿殿、俺、猫舌だから熱い料理は困ると奥さんに伝えてきてよ!」
「ええっ! そうだっけ。わ、わかった。すみません、しばらく離席します」
ごめん、婿殿。
多くの者に知られたくはないんでね。
「賢者さん、よく聞いて。俺は『ポッポルン』という種族です……」
「…………ま、まさかそんな!」
すぐに反応を見せたのは賢者ただひとり。
それで充分だ。
知る者がいるのなら話がしやすい。
俺も知りたいことがあるのでな。
歴戦の冒険者ほどの物知りはいないと思うから。
きっとヘンリー村長もそんなには詳しくないだろうし、とても聞けなかった。
聖騎士、狂戦士、勇者が賢者の顔をのぞき込んで首をかしげる。
なにをそんなに血相を変えて
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