第19話 お馬鹿さん

 

 押し問答の合間、合間にコウ村長が落ち着いて聞く耳を持つように促した。

 村人たちも、村長の意見を真摯に捉えて前向きに検討するようだ。

 おかげで話し合いにはなるようだ。


 その『尋ね人』の捜索のために討伐の件がでっち上げだったことが暴露された。

「まったく酷いことをしてくれたな」との意見が飛び交った。

 対して勇者たちは素直になれない事情を抱えていて。

 まともに掛け合った所で協力を得られるとは思えなかったと話す。


 村長の娘婿が聞き手になった。


「わかった。話を聞こうではないか。で、その神様ってのはどんな感じなのだ? まさか人間と同様に村の中をうろついているとでも言うのか?」


「おいおい、神様って。天空とかにいて、われらを見守って下さっているようなお方だろ? なんでこんな田舎の村へお越しになるんだ」


「驚くのも無理はない。だがその通りだ。人間の子供の姿をして国々を内緒で巡り、陰から見守っておられるものなのだ……」



 村人たちの疑問符に勇者が答えた。



「神様は『か弱き民』がお好きで、人が大勢いる場所はあまり好まれない。そのように昔から言い伝えられているのだ。われらの仕える国主の姫君が大変な呪いにかかってしまい病床に就いた。僧正や大司祭はもはや神にすがる他はないと口々に申すのだ……」


「いやこれは、なんともお気の毒に。しかし、病なら神様より優れた医官をお探しになったほうが良いのではないですかな?」


「もう、10年以上になる。わが、ユルトピア王国の姫君付きの聖女ですらお手上げなのだ。姫の呪いは、かつて魔王の配下だった竜王を勇者軍が打ち据えたことに端を発している」


「竜王といえば、魔物の親玉のような奴ではないか?」


「かつての勇者と姫は結ばれる運命で。死闘も共にされていた剣姫でもあられた。竜王を滅ぼす寸前で呪いの言葉が勇者に向けて発せられた。愛深きゆえに姫は身を挺して勇者をかばったのだ」


「なんとも胸が痛いお話でございますな」


「最初っからそのように打ち明けてくれりゃあ良いのに…」



 村人たちはそこを疑問視する。



「これまでも背に腹は代えられぬと、打ち明けてきたさ。だが訪ねて歩く先々で足元を見られ、多くの財宝を要求され……噂が盗賊たちを通じて広がった。挙句に神様を見た、施しを受けた…などと偽の証言が次々と現れ、われらを騙すような輩ばかりに出会うようになり、悔しくて。もう素直になれなくなっていた…」


「いや……そうか。それは悲しいな。田舎暮らしをする人間にも悪人はたしかにいるだろう。だが、このやり方は我々に何の恨みがあるのだ。他所の者はどうだったか知らないが。オタクらの目的は金銭じゃなかろうに」



 勇者たちの要求に悩まされた村人たちは、一晩中、金銭を協力し合ってかき集めていたのだと訴えた。


 勇者は村人一人ひとりの悲痛な顔をまともに見れず、受けた指摘を言い訳がましく答えるのだ。



「まったくだ。国をはなれて薄情な現実を突き付けられるあまりに、申し訳ないことをしてしまった」


「事情はわかったが。その神様の特徴がわからないのですか?」


「わが国の古株の神官たちの話では、小さくてか弱き者の姿をしておいでだとか。神官たちは神の啓示を聞くことができるので、世界には女神という存在も確認はされているだろう?」


「まあ。あちこちに女神の像はあり、その存在は信じられてきましたがな」


 

 なんだ、探していたのは女神様だったか。

 そうだよな。

 俺は呪いを解くすべなどを持っていないし。

 もちろん、名乗るつもりもないが。



「情報がそれっぽっちじゃ、探しようがないよなぁ。いっそのこと、神様ぁ、神様ぁって呼びかけていく方が良いかもしれないね」


「男は馬鹿ね。そんなことしたら、神様が逃げていくわよ!」


「どうしてだよ? 困ってるひとを助けるのが神様じゃねぇか……」


「だから神様がいつ、人助けをわたしら人間に約束したのよ? 約束してるならとっくに現れて助けてくれているでしょ馬鹿ね!」



 たしかに勝手な決めつけはよくないね。

 村の奥様方のほうがしっかり話を聞いているな。

 的を得ている。



「かあぁぁぁ! こりゃ一本取られたな」


「それなのに気安く呼び立てたりすれば、面倒を押し付けられるだけだとわかってて、出て来るものですか」


「な、なるほど、ご婦人たちの言う通りだな! これまでに逃げられていた可能性があったのか」



 勇者が身を乗り出して納得していた。

 おい。


 やっぱり男達はどこの方も「お馬鹿さん」だねえ、と村の女たちが愛嬌でめいっぱい笑った。

 4人の勇者たちも、村の男達も頭を掻きながら照れならが笑いあった。


 とりあえずこれで、罪を憎んで人を憎まず。

 といったところに落ち着いたようだ。


 シンピ村の住民たちも人は良いほうだからな。

 双方に恨みが残らなさそうなので、じつに良かった。

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