第18話 神様
「リクル、おまえの言う通りだな。あいつらの様子はゆうべから怪しかったのだ」
「よくよく考えてみれば、やつらにとっての報酬が安すぎるしな。だが狙いはいったい何なのだ?」
狙いはわからない。
首を軽く横に振った。
裏口からこっそりと村長の娘夫婦の家に戻り、調査でつかんだことを基に考えを打ち明けた。
これで村の者には伝わっていくだろう。
村長の娘がコウ村長のもとに行った。
娘婿は村の者が集まる広場へと出て、そっと俺の見立てを伝えに行った。
窓の外から村人たちのざわめく声が聴こえてきた。
ふたたび美味しい紅茶でもてなしをしてもらえて恐縮だが、俺が彼らにしてやれる役目はもうないだろう。
このままそっと旅立たせてもらおうと思う。
支度はすでに整っている、また裏口から出て行く。
家の表側から激しい怒りの声がした。
すこし気になり、足を止めた。
「あんたらの目的が金なんかじゃないのはお見通しだ! 俺たちの村の何を探りに来たんだ!?」
「そうだ、そうだっ! 盗賊じゃあるまいし、プライバシーを侵害せんでくれ。国からの命で動いているわけではないのだろう? 大金を吹っ掛けておいて村に滞在するのが目的だなんて気分のいいもんじゃないぜぇ。まったく!」
あらあら。
村人の中にはストレートな物言いをする者がいるようだ。
そんなにあからさまに、疑う様に言わないほうがいいのに。
これは、よほどのストレスが溜まっていたようだ。
討伐を横取りされたうえに、危うく金をむしり取られて、そのすべてが別の目的で村人には内密でとなれば、お怒りはごもっともであるが。
こういう案件は村長の意向に従い、決定を待つべきである。
「おい、いま何と言った? 俺たちをコソ泥扱いしたのはテメェかっ!?」
「うわっ、何するんだ? 乱暴はよせっ!」
男が声を荒げて、村人に詰め寄った。
胸ぐらをつかまれて、もみ合いになっているようだ。
周囲にどよめきが走った。
村人たちがどんどんと集まってきて、人垣ができていく。
ズッシャ──ンッ!!
辺境の村の足場は舗装のない土の床だ。
砂利と誰かの身体がこすれ合う、大きな音が聞こえた。
おそらく突き飛ばされたものと思われる。
「おい、あんた! 上級職の狂戦士だったな。一介の村人に手を掛けるとか正気か?」
「無礼な物言いをしたのはそっちだろっ!」
「いったいこの村に何の用があるのだ? 村長だっていつまでも下手のままじゃねぇぞっ!!」
村人の言い方が過ぎたのかもしれないが。
冒険者が弱き民に手を掛けるとは?
俺はそっとだが、足早に表通りの様子を伺いに来ていた。
家の角に隠れて人だかりの奥から見ていたが。
狂戦士という奴がひとりだけ外をうろついていたようだ。
「あーあ、やってられん。だから俺はこんな回りくどいやり方は気が進まなかったんだ!」
「そりゃ、どいういうことだ? いま認めたよな?」
「どういうことかは勇者から聞け。ところでずっとお前らの動向を見張っていたが、お前たちは村からほとんど出ていない。この件を調べて来たのは誰だ?」
「誰でも良いだろう! さあ、真の目的を明かせ! できないのなら村から速やかに引き取ってくれないか?」
いま率先して事情を聞き出そうとしてるのは娘婿だ。
そして手の込んだ策を弄したわりに、あっさりとボロを出した気の短い狂戦士。
勇者、賢者も開き直ったら、聞き分けのよい輩とは限らないぞ。
「どうしたのじゃ、騒がしくして」
「村長ぅ! こいつらやっぱり村の何かを狙っていますぜ!」
コウ村長が広場のざわめきに駆けつけた。
その後ろから三人の勇者一行がゆっくりと姿を見せた。
「皆の者、静粛にっ! わしも今、娘から話を聞かされて、この者たちにも率直に伝えたところだったのだ」
「父上さま、彼らの用向きは何だったのですか?」
「それがじゃな……」
コウ村長はなぜか浮かない声を突き出した。
「この方たちがおっしゃるには『神様』をお探しのようなのだ。……えぇーと、誰か心当たりの者がおるなら前へ出て、話を聞かせてやってはくれぬかの」
「な、な、な、……なんですって!? 気は確かか? おめぇさん方?」
よく聞き取れなかったけど。
気は確かか、と村の衆が聞き返している状況から、神様と聞こえた。
なぜ、こんな辺境の村に神様が隠れているんだよ。
馬鹿げた話だと村の衆らと勇者一行はしばらく押し問答をしていた。
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