第17話 谷の調査
目に見える川沿いを北西へひたすらやって来た。
セコイワの谷に入ってくると、「グルゴロン」の姿は見当たらない。
おおむね一掃されたようだ。
ゆうべのうちに水辺の生き物たちも帰って来たみたいだ。
すこし遠方に森を抜けた山肌が見える。
物質系が元居た場所はその辺りだろう。
谷間を少しの間、散策して回って見る。
戦いの痕を見てみたのだ。
川を挟んで北側と南東側に争いの痕跡が見られた。
北側の方は森へ続いて山肌へと出る。
そちらの方により多くの「グルゴロン」が現れたのだと判断する。
南東側はシンピ村寄りなので多くはない。
シンピ村の討伐隊にも魔法使いぐらいはいるだろうが、北側は地表に焦げ跡がずいぶんと残されている。周辺は谷の水源によって草が青々と生い茂っている。そこに広範囲に渡って火が付き、いくつもの焼け野原ができていた。
これは勇者たちの力量が窺えるものとなる。
大きな火力を惜しみなく振るったという感じである。
魔法を使って一気に片付けたのだ。
燃やし尽くしたということだ。
大抵の魔物に炎は有効だし、火力が絶大なら弱点がそれでなくても息絶える。
勇者は上位職、仲間たちは上級職だ。
グルゴロンなんてザコ同然のはず。
ならば剣でさばいていくことを考えたとき、相手が転がって散らばるのを面倒に思うはずだ。
百戦錬磨なので魔物の性質と戦い方はすでに頭に入っているはず。
であるなら、つまり最初からレアドロなど狙っていないことも視野に入れなければ。
魔物の残骸すら残らぬほど、跡形もなくやってしまっているからだ。
1匹でも見逃がすことは彼らにとって何か都合が悪いのだ。
確率的に一つぐらい出たであろう、ドロップ
そのように見立てるのが、この現状からは自然といえる。
こうなると元からシンピ村の住民に用があったということを疑わざるを得ない。
俺は村のやつらとは長年の交流があるので信用できるようになったが。
まだ交流のない部外者は別だ。
人間という生き物に心のどこかで疑念を抱いてしまうのだ。
勇者たちの取る行動には何かべつの狙いがあるのでは、、、と。
「──と、いうことは……」
村の中に理由をつけて押し入り、長居するつもりでいたことになる。
現に一夜を過ごしたのだから。
村にとどまる確固たる理由があるのなら、ちいさな村であってもうろつくことが不自然ではない。
辺境の村ではあるが、近くに冒険者ギルドの出張所があるわけだ。
あのような高額報酬の依頼を誰が出すと言うのだろう。
「10匹で銀貨5枚だっていってたな……」
それすら疑わしい。
シンピ村の住民が川の魚獲りができないほど、あの魔物が森を越えて山から移動して来るには、その頂上付近に棲息圏があるドラゴンの群れを脅かし、気持ちを荒れさせる必要がある。
直近の山の噴火や地響きの報告もない。
それは近くに住んでいる俺たちにも覚えがない。
そのほかに森や山に大きな異変が起きたことなどの報告や噂もなかった。
日夜暮しを立てるために人々が頻繁に立ち寄る谷だ、その数の魔物を人の手でそっと運んで来たとも考えにくい。
誰かにひと目でも見られていたら、アウトだ。
目撃証言は命取りになる。
魔物を残らず、一掃するのにも理由があるだろうし。
彼らのジョブに偽りがなく実力が本物なら、ドラゴンたちを追い立てて人為的に起こした可能性は充分に出て来る。
ただそれが何のためかは、直接本人たちに尋ねるほかはない。
俺はそれらの仮説の検証……つまり裏を取るために今、山頂に向かっている。
山頂付近につくと「ギィーギィー」と慌ただしい様子で翼竜が数匹、空を舞っていた。
「足音に敏感になっているのか? おーよしよし。怖がらなくて大丈夫だよ! ここに降りておいで…」
俺が谷で疑った内容に符合することが最近起きていないか訊ねた。
彼らと思われる人間達は確かにここへやって来たことを聞けた。
言う通りの行動で、バタつかされ岩石の魔物たちが下方へ転がり避難していた。
村から谷へ足を運び、戦闘の現場を調査をし、考察した。
その裏どりのため、森を抜け、山を駆け上った。
俺の問いに答えてくれたことで、一番の被害者が竜達であることも判明した。
これで確認はとれた。
彼らは意図的にシンピ村へ流れ込んでいる。
このまま村へ戻っても、この証言はできないけど。
確証となる竜達の証言は伏せなければならない。
でなければ俺が困る。
だけどコウ村長に状況を伝えてあげねばならない。
現場の痕跡から判断できる可能性の指摘ぐらいは。
とりあえず、シンピ村に戻ってみよう。
それにしても疑問点が残る。
調べたいことがあるのなら、調査の協力を申請すれば良いだけの話だ。
たとえば、彼らの用件は村の中にあるのだ。
そして住民には勘付かれたくはないのだとすれば。
一応、
冒険者となるため辺境の地を離れる決意をしたばかり。
早朝に出て、交流のあった隣のシンピ村に挨拶に立ち寄れば、それでさよならだと思っていた。
そこに珍しく遠方からの来訪者があった。
これに深く関わるつもりなどないけど、別れ際に気がかりなことを残したまま旅立ちたくはなかった。
仮にことがこじれて素性を明かすことになれば、シンピ村の者達もヘンピ村の村人と同様に、俺にとっとと旅立って欲しいと陰で言われたり、思われたりするのが何だか心苦しいのだ。
もうこの辺境とはサヨナラするつもりで旅立つ決心をしたというのに。
人間との関わりとは何だか不思議なものだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます