第15話 シンピ村

 

 ここへ来るのは久しぶりだった。

 半年ぶりぐらいか。

 はじめて来たての頃は色眼鏡で見られることもあったのだ。

 知らない顔ぶれの前に出ればまた同じ反応を示されるかもしれない。


 都会に行けばそのようなこと、きっと気にしていてはやっていけない。


 コウ村長が村の広場に出て来てくれた。

 村のみんなも俺に久しぶりの挨拶と歓迎の態度を見せて来た。



「もう、くすぐったい……くすぐったい。来るたびにモフらないでくださいな」


「いや村長としてぜひモフモフして歓迎しなくてはならん! 癒されたい……。代表が癒されれば村の皆も癒されるんじゃ。ゆうべから皆ストレスを抱えていたんじゃ。いやよく訪ねてくれたリクルよ」



 村人からの歓声が湧きおこって自分に向けられているのが伝わってきた。

 口々に俺の名を呼んでいる。

 見る目は潤んでいて、うっとりしていた。


 来て見て良かったのか。

 愛される喜びは悪い気はしないけど。

 その歓迎ムードには素直に頷いた。



「ところでコウ村長、困ったことになってるそうですね?」


「いやまあ、心配には及ばぬ。いかに勇者様だとてあまりにも理不尽ゆえ、村の討伐分だけでお引き取り願おうと思っとったところだ」



 コウ村長宅はそいつらに乗っ取られているような状態で、家人がもてなしをしている。いつもなら美味しい紅茶で歓迎してやれるのにと申し訳なさそうに自宅の玄関先を見た。


 いつも以上にモフられる原因はやはり、そこにあるようだ。



「相手はいくら余計に倒したといっているのです?」


「100匹だ。うちの分は10匹だ。セコイワの谷の「グルゴロン」という物質系の奴なんじゃが」



 100匹とは恐れ入ったな。

 そんなに居たのなら、搾取が目的だったと誰の目にも明らかではないか。



「相手はレアドロ目的だそうで。何をドロップするのですか?」


「関節痛などに効き目のあるグルコロッケじゃ。薬剤になるから昔から高額で取引されとるよ」


「彼らは入手できたのでしょうか?」



 コウ村長は残念そうに首を横に振った。

 まあそうだと思ったよ。

 入手できたのなら討伐金など安いものだから、村人と揉めてまで要求しない。



「10匹でいくらの依頼ですか?」


「銀貨5枚じゃよ」



 銀貨5枚か。


 世界の通貨の最小の単位はゴールドで表す。

 この場合、銀貨5枚は50000Gの相場価値になる。

 要求はその十倍で500000G、銅貨なら5000枚、金貨なら5枚だ。

 なんとも厚かましい連中だ。

 一人暮らしなら、月20万Gもあればそこそこの生活は送れるだろう。

 銀貨1枚10000G、金貨1枚10万G、白金貨1枚なら100万Gだと教わった。

 

 俺は衣食住を用意してもらっていたので、給金はなかった。

 たまにヘンリー村長が小遣いをくれた。

 ゆえにまだ銅貨しか握ったことがない。

 


「コウ村長、勇者というのは戦闘のプロでしょう。魔物なら世界中にはびこっていますよね? 討伐依頼もより取り見取みどりではなかと…思うのですが」


「そこなのじゃ、わしらも不思議に思うておったのじゃ」


「彼らのPT編成はどんな感じですか?」


「うん? ほかの3人は賢者様が一人、聖騎士様が一人、あとは狂戦士様じゃが」


「うーん、どれも聞いたことがないジョブですが」

 


 賢者様は何となくわかる気もするのだ。

 頭が良さそうで知識も豊富な方がお成りになるのではないか。



「ほほっ。リクルにはまだ遠い存在かもしれんな。これは上級職と呼ばれるものだよ。たとえば賢者は僧侶と魔法使いをLv100まで極めた者が成れるジョブで。聖騎士は戦士Lv200まで、勇者はその両方の上級職を掛け合わせて成れる上位職に値するものなのじゃ」


「……上級と上位の違いがあるのですね? 上位はさらにスゴイってことか」


「そうじゃ、級よりも格上なのが位になるんじゃ」


「ヘンリー村長にも聞かされたことがあるのですが、勇者にもなれば国から俸給が出ていても不思議じゃない存在だということでしたが……」



 そのように多くの信頼を勝ち取ってきた名のある彼らだ。

 辺境の地でこのように『だまし討ち』のような行為を行使するのはなぜなのか。

 それだけのレベルに到達するには百戦錬磨の修行が必要だったことだ。

 

 ここで油を売るよりも高ランクの依頼をひとつ受けて任務遂行に当たれば良いだけのことだ。


 じつに不思議であるな。

 コウ村長もそれらの疑問は彼らに問うたことだろう。

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