第12話 運の悪さ全開
ホブを迅速に討伐していた彼ら三人組。
ホブゴブリンの脅威は去ったけど、彼らの物言いがかなり怖い状況にあった。
自分に対して怒りを露わにしてくるのではないか。
内心はビクビクしている。
いま戦闘の邪魔をしてしまったかも知れないし。
冒険者という認識を示してくれなければ、あの見下しは簡単には消えないと思うからだ。
「ほんとに堪忍してくれな。そして助けてくれてありがとう」
「ありがとうは理解したが、堪忍とはなんの話なんだ?」
「こいつ、俺たちの戦闘を邪魔したと思い込んでやがるんだよ」
「フロントで突っ立ってた奴かよ? 何やってんだ、採取に来たのか」
こんな俺が一人でやっぱり不自然だからな。
採取か。
できれば何かを持ち帰りたい。
それにしても、こいつ……って。
ものすごい礼儀知らずで、口が悪いな。
でも助けてくれてありがとう、という気持ちは本物だ。
「お前、仲間はどうしたんだ? 採取にしても、まるで雇われの書記みたいな風貌だし。こんな所までひとりで降りて来たのか? 大したクソ度胸だな」
「そういや、味方が駆けつけに来ないね。先に入ったんじゃなかったの?」
「フロントに居た時点でぼっちだったとか?」
「それはなんぼなんでも飛躍し過ぎだろ。ここB4だぜ、丸腰で来ていい所だったか?」
「丸腰で? 武器も装備せず。自殺願望でもあんのか、兄ちゃん……」
しかもあの戦闘力でか? と。
自分を知らなさすぎるし、無謀だとも言われた。
放っておくと好き勝手に言われ続けるから、三人についてきてしまったことを正直に打ち明けた。
ゴブリンキングの話題に驚いて、慌てて引き返そうとしていた所だったと。
「あんた、それマジかぁ──ッッ!」
三人は声を揃えて言った。
意外といい奴らなのかも。冒険者だもんな。
そしてリーダーだった人が身を案じて聞いてくれる。
「あんた早いとこ、誰か、上まで送ってくれる護衛を見つけて来なきゃ、やばいことになるで。俺たちは引き返すつもりもないし。護衛はしてやれねぇ、それは理解しな」
「はい、すみません……」
頭が上がらない。
返す言葉が見つけられなかった。
そして人通りが、まばらになってきた。
魔物は時間が経てばまたその場に湧いてくる、リポップ型だとか。
「書記以外マジでなんもできないの?」
「それじゃ、うちらのPTには必要ないわ。俺達自分で筆記するから」
「おい、かと言ってこいつこのまま置き去りで、後味わるくねぇか?」
「ちぃ! あんたどこの何て言うPTなの? 俺達高くつくよ?」
「ごめんなさい、PT名は一応、『スクランブルハンター』といいます。剣士と魔法使いの到着が遅れていて、つい魔が差したっていうか」
「あんま、聞かねえPTだな。なにか記録とか出したりしてねぇのか?」
「俺は雇われ書記だから。でも組ませてもらってる人たちはスゴイ人たちだと思うよ」
「へえ、どうすごいの?」
「異国の王様の直属部隊だそうです。酒場にいた勇者レベルの人もお会いになって感動したとか言ってましたし」
ああ俺。あと、どんだけホラ吹かなきゃならんのだ…。
そのような身分のお方たちが、俺なんかを相棒に選ぶわけがない。
普通ならここで顔色を変えたりするんだが、こんなに腕自慢たちに言ってもピンとこないし、そもそも知らなければ響かないよな。
「それどこの国だ?」
「あの、ずっと西にある草原の国のエクスダッシュ国王だそうですが…」
「おい待て。あの世界平和条約を制定したパシャルビー王の国じゃないか!」
え、そこの王様がそんなに世界的に高名な人だったのか。
ますます、やばいぞ。
早いとこトンズラをかまさなければ。
凄腕の三人は何やら相談して、「あんたをこのままにして、もしものことがあったら俺達の顔が立たねぇから」と。
かと言って引き返すつもりはないみたいで。
俺をゴブリンキングの討伐に同行させる、と言い出したのだ。
「ひえええええぇ‼ 結構ですぅ」
「よし、同意は得られたな。決まりだ!」
いったいどうして、その解釈になるんですかー。
もう決まったと。聞く耳は持たないようです。
結局、キングとの戦闘まで見せつけられたのだ。
そして、やっぱりスライムのときより速く討伐を済ませるのだ。
エンカウントすると一匹を、一人が盾で弾き、ノックバックをとる。
背後に回った一人が帯で目隠しをして、奴が倒れ込みもがいてる所に最後の一人が得意げに急所突きをクリティカルヒットさせる。
連携だが、目にも止まらぬ早業だった。
おめめパチクリ何が起きたのか見極められず、記録もロクにできないでいたら。
親切にも、そうだったと説明をしてくれたのだった。
それで記録をとることができた。
急に親切にしてもらえたのは、名のある王様の側近が仲間だとホラを吹いたためだ。
成り行きでそうなっただけだ。
悪気はないんだよ。
でも発覚すれば、間違いなく投獄されるよな。
自分が悪いんだけど、あの黒いフチの眼鏡のおじさんもだよ。
何てことをしてくれたのだ。
早弁のためにグイグイと勧めるんだから。
参っちゃうよ。もう。
いまさら本当のことは打ち明けられないよ。
この三人のことは早く忘れたいけど、覚えておかなきゃ。
顔をしっかりと覚えておいて、街で二度と出会わないようにしなきゃ。
俺ってば、どうしてこうも無駄な苦労をしてしまうんだろう。
いつかの幼いあの日も、そうだったな。
街の外れでスケッチをしていたら、そのスケッチの画が何かの事件の物的証拠になって表彰でもされるのかと思っていたら、王族の不祥事が関連してたみたいでチャラにされた上に、大事な画を没収されちまったんだ。
筆記道具一式だよ。
没収だよ。
とほほだよ。
いつも全部持ち歩いていたからな。
いまもそうだけど。
なにも持ち合わせない人間が良かれと思い情報提供したら、すべてを失った。
俺が悪いんだけど。
俺は孤児だからな。
いつも身元が不十分なんだよな。
身分を得られないんだ。
じつはですね、まだ平民ですらないんだ。
人前に出るのに途轍もない勇気がいるんだ。
今日まで誰にも過去は語ってはいないよ。腹を割って話せる相手などいやしないが。
もちろん、明日も。これからも、ずっと。
だから、成り上りの勇者レベルを目指すしかないんだ。
だけどその夢も今夜のうちに消えてしまうことになるのかな。
まったく運の悪さ全開の人生だな……俺は。
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