第9話 最後のガギー
アーティファクト。
そのような物が人類の手に発掘されてもう数年になる。
魔法具が次々と改良され便利な装備品となって売られるまでに発展した。
発掘当初は魔法研究者の尽力により、冒険者ギルドにシステムが設置された。
設置されたシステムは受信機の端末だ。
冒険者は全員、【スキル接続】という有料コンテンツの施しを獲得したのだ。
金がまったく掛からないわけではないが。
冒険初心者にもやさしい設定料金だから。
それからの世界は今や、金さえ積めば【スキル接続】という現象がその身に宿る時代となった。
それが登場すると。冒険者界隈に波乱が吹き荒れた。
多くのお抱え書記は、当然その任を解かれた。
もともと頭脳派の連中が高額で引き受けていたので、うまく転職していく奴がほとんどだった。
俺はガギーとマミーに見放されたら行く当てなどない。
しばらくの間は同情で使っていてくれたが。
「なあガギー、俺の居場所はここしかないんだ! 頼むよ、なんでもするから!」
「無茶いうなよ? おめぇには確かに世話になったさ。そしておめぇが無能なんかじゃないことは良くしっているから。けど…こればかりはよぉ。頼む、他を当たってくれ」
「他ってどこ行きゃいいんだよ!」
「おめぇも
ガギーが俺に解雇を言い渡して来たんだ。
わかっていたさ。
でも俺なんかどこも雇ってはくれないし。
どこの冒険者からも無能扱いされて、今さらPTに加えてくれやしない。
すべて門前払いに終わる。
ガギーにいま見放されたら俺は永遠に路頭に迷ってしまう。
「…可哀そうだと思って、新世界に少し乗り遅れてもおめぇを使っていたらよ、おめぇをあんなに労わっていたマミーが置手紙を残してPTを脱退していたんだぜ? ギルドの規定で脱退申請を拒めないから俺は大事な相方をなくしちまったんだ!」
「…………そんな、マミーが…」
「いまや、たったの1秒で出来ちまう作業をおめぇの手作業に任せて何時間無駄にすりゃいいんだよ? いい加減悟れや! マミーも時代が変わったから使えるものを利用して賢く生きるのが冒険者でしょ? って、そういって俺まで置いてけぼりにしちまいやがった…。だが、それが正論だろっ!」
冒険者なら金を持たぬ者はいない。
魔力帯や貴重な素材を得て、それらを然るべき施設や機関に売るのが冒険者だ。
様々に物を売買しながら成り上るのが冒険者という商売なのだ。
冒険者とは、金策の達人なのである。
またそのように成り上がれた者だけが勇者レベルと呼ばれるのだ。
だからこの自動書記の【スキル接続】をしない奴など今時どこにも居なかった。
そうだよ…。
今でも原始人のような働きしかできない俺なんかもう用済みになったのだ。
文官ですら魔道具を利用し、仕事をこなす時代である。
直筆などもう世界には無用の長物なのだ。
すべては自動書類へと代替わりし、筆記用具は時の流れとともに化石となっていくだろう。
あの遺物が世に登場して以来、職を失った者も多いと聞く。
だが元より有能なやつは何とでもなるさ。
俺などがそれを手にした所で何ができる?
自分が処理していた作業を超高速で代わってしてくれる奴が現れただけだ。
そいつの方が何万倍も優秀で、しかもマシンだから疲れ知らずだ。
その動力源も「魔力帯」を素材にするので冒険者は益々優遇される。
自称書記だった俺は組んでいた冒険者たちとは違う。
戦いにおけるスキルは皆無だ。
かと言って生まれつき貧弱な俺は人工血液を受け容れる勇気など持ち合わせてはいない。
俺から、唯一できる仕事を奪った憎き存在だ。
あの魔道具という奴は。
「まったく…世の中は便利になったものだな」
住み慣れた街の高台から快晴の夏の空を見上げていた。
肌に心地良い風が俺に時折爽快感をくれる。
貧困層でひしめき合う住宅街から見上げても青い空は青い空のままだ。
全く同じ景色を皆と成功していたあの頃の俺も見上げていた。
仲間となら険しい洞窟の奥底までもピクニック気分で歩けた。
戦士らを先頭に俺は後を行くだけだった。
彼らより分け前は少なかったが、たった半年でマイホームを持たせてもらった。
だけどこのような流れで収入減を断たれた。
無職になってからは手持ちの金も底をつき、その家も手放すしかなかった。
幸せだった日々の暮しに終止符を打つ日が訪れようとは、あの頃は夢にも思っていなかったよ。
それも、こんなにも早く…。
蓄えていた貯蓄は収入源を失ってから見る見るうちに底をついてしまった。
こんなにも惨めに。
今じゃ家も手放し、スラム街の片隅でひっそりと暮らしているよ。
気まぐれな風は何の前触れもなく、
俺から全てを取り上げた、憎き、いにしえの魔道具。
一度でも冒険者に携わった者として、所持することを政府より義務付けられていなければ、こんな苦い思い出などとっくの昔に忘れられたものを。
強風がうねり声をあげて、貧困住宅のトタン屋根をガタガタと叩き上げる。
立地条件の悪いオンボロ物件の合間をフード姿でゆっくりと歩いていく。
陽当たりの良くない自宅の部屋を後にして、お気に入りの高台へと上り詰める。
白い雲は早送りにされたように遠くへと流れた。
目に映していた雲がちぎれて遠くに行くたび、思い出す風景がある。
俺達は勢いのある、そして割と息の合ったダンジョン攻略チームだった。
この高台から遠目に映る「
そこは地下へ降りるダンジョンの入り口付近にある詰所になる場所だ。
ガギーとマミーと俺の三人で。
最初に挑戦した、ミレニアムミッド。
発見されてから千年もの歴史があるという、有名なダンジョンだ。
冒険者が数多く訪れるから、初心者でも安心して挑戦できるのだ。
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