第25話 ガイザーの独白
『私はそう簡単に死ぬわけがないだろ』
ダンジョン内の全ての罠を踏み抜きながら笑顔でそう言うナタリー先生を思い出す。常に魔族を圧倒し、問答無用で殺し尽くしたあの旅。2年間という短い旅だったが、オレにとっては永劫忘れない旅となった。
旅の途中に、ナタリー先生は娘の話をよくした。夫に似ているだとか、強くて優しい子に育つだろうとか、本当は側にいたかったと、オレにその想いを語ってくれていた。そして、娘には勇者の証があって、正統な勇者で、王族こそ魔王リヴィーネに担ぎ上げられた、偽の勇者であることも教えてくれた。
ミリーナの腕の花びらの字を見るまで、ミリーナが勇者だと半信半疑だったが、ナタリー先生は嘘を言っていなかった。
ミリーナには、ナタリー先生の面影があった。それに凄まじい魔力量。さすがは勇者と大魔法使いの娘だと感心したものだ。この子なら、魔王リヴィーネを討ち倒せるかもしれない。ナタリー先生の悲願を達成できるかもしれないと胸を躍らせたのもつかぬま、彼女は攻撃魔法は習いたくないという。
ただ、これもナタリー先生の言った通りだった。『私の娘は、繊細だろうから、多分理由はどうであれ攻撃魔法は習いたくないというだろう、そう言い出したらほっとけと。状況が、彼女に攻撃魔法を習うように仕向ける』と言っていたが、実際その通りになった。彼女は、戦地の子供達のために、攻撃魔法を習い革命を起こすと言い出した。
全てが、ナタリー先生のシナリオ通りに進んでいる。あの偉大な大魔法使いはどこまで予測していたのだろうか。ただ、ナタリー先生も、ミリーナが魔王リヴィーネに勝利できるかどうかは五分五分だといい、結果はどうなるか分からないと言う。
地平の果てに、魔王リヴィーネの姿が見えてくる。ハイ爺とエーデの時間稼ぎは功を奏して、なんとか永久の杖は手に入れた。彼らの死は無駄にしない。あの頑丈なナタリー先生をも凌いだリヴィーネとこれか戦うことは、現実感がない。しかし、もう後には弾けない。幸運だったことは、ミリーナが今になってもまだおじけついていないこと。このまま行けば、最高の状態で魔王リヴィーネと対峙できる。
さあ、ナタリー先生が自らの死を賭してまで仕組んだリヴィーネ包囲網、それは今、娘ミリーナに引き継がれた。
さあ、ミリーナ行くぞ、革命の時間だ。
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