第23話 手紙
あなたがこの手紙を読んでいるということは、ナタリーの弟子のガイザーから手紙があなたに手渡されて、ナタリーが立案した、何世代にもわたる壮大な作戦が実行に移されたということだと思います。
大魔法使いナタリーは私の自慢の娘です。そして、大魔法使いナタリーは、初期の頃から気づいていたのです。シュバール王国の王族が、魔王リヴィーネによって滅ぼされていたことを。その中には、私の姉、リコッタも——。そして、魔王リヴィーネは、分身と変身魔法で、王族になりすまし、人魔協定下では、表で堂々と魔族を批判することができなくなってしまったことを逆手にとって、リヴィーネはこの国を牛耳ってしまったのです。ハミルトン王国との戦争も、リヴィーネが自動人形に乗って死んだ子どもの魂を捕食するために、戦線を激化させていったのです。
だから、大魔法使いナタリーは、魔王リヴィーネを殺すことを画策した。しかし、重大な問題が立ち塞がりました。ナタリーは勇者の花嫁、勇者ではなかった。この世界の理により、魔王を討ち倒せるのは魔王か勇者だけと決まっているのです。ナタリーは、この世界の大原則を変えようと旅をしたようですが、結果は——変えることはできなかった。旅を終えて私の元に立ち寄ったナタリーの悲しいそうな表情は今でも忘れられない。
しかし、その数ヶ月後、光明が見え始めました。そう、ミリーナが生まれたことによって。あなたの右腕の花びらのアザ、それは、あなたのお父さんと全く同じアザ、つまり勇者の証です。ミリーナの実の父親は、あなたが生まれる以前、人魔協定が結ばれる直前に、単身、魔王リヴィーネに挑み敗れ、殺されてしまいましたが、その勇者の因子はしっかりと受け継がれていたのです。
これを知ったナタリーと私は、決めたのです。この子が魔王リヴィーネの暴虐を止める最後の希望だと、だから、最後まで隠しとうして守り抜かねばならぬと。すぐにナタリーは、魔王リヴィーネに組みする魔族の討伐と、将来の協力者を探しに旅に出ました。そして、私はあなたには厳しく接するようにしました。なるべく、周りに出来損ないの娘とみられるようにするため。でも、ミリーナは優秀だったから苦労しました。一旦、あなたの優秀さがバレて、軍に連れていいかれてコマディアンにされたときは、生きた心地がしませんでした。そのまま魔王リヴィーネにみつかり食い殺されるのではないかと。
あの時の記憶は思い出したくないものでしょう。しかし、しっかり胸に刻み前に進みなさい。あの子たちは魔王リヴィーネがいなければ、死ぬはずはなかった。魔王リヴィーネさえいなければ。これ以上犠牲を出さないためにも、必ず魔王リヴィーネを討たなければならない。
魔王リヴィーネを討つには、
あなたの進むべき道は、ナタリーが必死に集めた協力者、弟子や仲間が切り開いてくれる。だから、進みなさい。そして世界を救いなさい。
私は、今頃リヴィーネに殺されている頃でしょう。奴の強さは、よく知っている。これまで、優しくしてあげることができませんでした。本当に申し訳ないと思っています。もし可能ならば、世界を救ったのちには、幸せに暮らしてください。
エーデおばさんから、いや、エーデおばあちゃんからの手紙を静かに畳む。私は世間知らずだとは思っていたが、ここまで周りが見えていなかったのかと、少し嫌悪感に襲われた。
ザイガーを見ると、優しい目でこちらを見てくる。ザイガーは全て知っていたんだ。私のお母さん、ナタリーの弟子になった時に聞かされていたのだろう。ナタリーの目的を。そして、私を守るということを。
森を抜け、平地を駆け抜ける。この地方の象徴的な花である彼岸花が赤く生い茂っている。
「この先は——」
地形的に、ドワーフ地区を走り抜けていることは理解できた。そして、このまま進むと——ハミルトン王国の国境にぶつかる。それは、ハミルトン王国の無人人形が大量に集結している地点でもある。
「ザイガー、このままでは、無人人形と穿頭になります。迂回しましょう」
「いや、そんな時間はない、ハイ爺とエーデの時間稼ぎもそろそろ終わると思う」
「しかし、ザイガーの魔法で、前方の敵を一蹴できるの?」
「いや、無理だ。そんなことすれば、この後控えているリヴィーネとの戦いに支障が出る」
「では、迂回を」
「迂回なんてひよってんな、破壊姫」
突然無線から聴きなれた声が聞こえてきた。
「まさか、リリー?」
「私もいますよ、お姫様」
「ミカもいるの?」
「ギースとバンディもいますよ。姫様」
「ギース! バンディ」
いつの間にか後方に彼らの機体が集結していた。
「破壊姫、それだけじゃないぜ、周りの自動人形部隊を根こそぎ連れてきたぜ」
リリーの得意げな声が無線から聞こえてくる。
「でもこれだけの機体、どうやって魔力を供給して——」
「へいへい、ミリーナ久しぶり!」
「筋トレしてるか? ミリーナ」
無線から別の声が聞こえてくる。それはエリナとウルツだった。
「私たちもね、実は10年前にナタリーさんにスカウトされていたの。アゴールダンジョンでお母さんがナタリーさんに助けられてね、その時、君たちは将来ミリーナという女の子と知り合いになる、ミリーナが危ない時は手助けをして欲しいって頼まれていたの。まさか、本当にこんなことになるとは思っていなかったけど、話は大体リリーから聞いたわ。私たちも手伝う。それに同級生も何人か手伝ってくれてる。みんな内心、この国の差別に辟易していたの。だから、快諾してくれたわ。世界を変えるために」
「ありがとう、みんな——」
「え、でも、それは命令違反じゃ」
私の返答に応答したのはリリーだった。
「そうだ、命令違反だ。だが、私たちはこの時を待っていたのさ。それに、ナタリー師匠からも頼まれていたしな。勇者の証を持つ娘が現れたら、全力で守ってほしいと。そして、勇者の墓を守る無人人形の防衛戦を突破して、勇者の墓まで辿り着かせてほしいと。だから私たちは破壊姫を全力で護衛する。それに、破壊姫は世界を変えてくれるんだろ? 私たちが自由で平等に暮らせる世界に」
「それは、そうです。私は、必ずあなた方が差別されない世界に変えて見せます」
「それなら、ハミ系自動人形乗り全員で破壊姫をエスコートしないと——、それと、悪かった」
リリーの急な謝罪——、一体何に謝っているのかわからなかった。
「ほら、リリー、ちゃんと言わないとわからないよ」
ミカに言われて、少し大きな声で照れを隠しながらリリーは伝えた。
「初めて会った時、押し倒しただろ、あれさ、お前が本当に勇者の証を腕に持っているのか確かめるためだったんよ。だけど、あんなに痛めつける必要はなかったと、今は、そう思うから、ごめんな!」
「そんなことですか」
「そんなこととはなんだ」
「気にしてませんから大丈夫です」
「そ、そうか、それは、良かった。よし、姫様、墓参りに行こうじゃないか。全軍、破壊姫の全面に展開! 円錐陣形にて突撃する。勇者を死んでも守り抜け」
数千という膨大な数の自動人形が私たちの周りを取り囲み、道を切り開く。未来を私に託すために。
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