第18話 石標 下
装甲車を走らせること20分、私は運転できないため、付き人の役割を果たしてくれている少佐が代わりに運転してくださっている。最初は、石標を見に行こうとする私に、コマディアンが司令所を離れるなんてあり得ないと、止めようとしたが、私は、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
今ここで、彼女たちの元に行かなければ、もう二度と心を通わすチャンスを失うかもしれない。2ヶ月間待ちに待った相手からの誘い。私は、何がなんでも石標の元に向かおうとした。そんな私の気迫に押され、少佐は渋々承諾してくださった。
平野を装甲車が唸り声を上げながら走り抜ける。彼らの戦場——、こんなにも視界が開けて、身を隠すところもない場所で戦っていたのか。
地図上では平野だと分かっていても、実際に現地に足を運ぶと恐怖が身を震わした。
「もうすぐで着きますよ」
少佐の言葉を聞き、前方を見ると、道の分岐点に4体の自動人形が等間隔に停止していた。
席表の前にいたリリーとミカ、ギースはこちらに気づき、手を振ってくる。バンディは辺りを警戒しているのか、自動人形に搭乗している。
「お待たせしました」
「こっちこっち、お姫様」
ミカが石標まで私の手を引く。
「ほらね、実在したでしょ」
得意げなミカを横目に石標を見ると、『ナタリーの墓、この先』と彫られている。
「確かに、実在するんですね」
「そうでしょ、どう? お墓参りしてみる気になった?」
「そうですね、気になりますがやはり危険です。この先は、我々シュバール王国のコントロール下にありません」
「もう、そこはリップサービスでも行ってみたいって言っておくものよ」
ミカが頬を膨らませながら軽く怒っている。それをギースやバンディが嬉しそうに眺めている。ああ、この二人はもしかして、ミカのことが——、これこそ野暮だろう、言わないでおくに越したことはない。
「そろそろ、戻りますよ」
装甲車に乗っていた少佐が私へと声をかける。そろそろ帰投しようと告げると、皆、各々の自動人形に搭乗しようと歩き出した。
「げ、ミリーナちゃんがここにいるとなると、魔力供給されてないやん、魔法電池で帰らないといけないのかー、ゆっくりしか走れないじゃん」
「自分が呼んでおいて何言ってるんだ」
リリーに叱られて、ベッと舌を出すギース。そして、ギースがコクピットに足をかけた時——、一瞬だけ、計器から警報が鳴ったかと思った瞬間——、事件は起きた。
ドゴン
騒音が辺りに響き渡り、土煙が巻き上がる。
何が起きたか一切わからないが、いち早く反応したのはリリーだった。
「敵襲! これは、穴の大きさ長距離砲? そんな兵器今まで見たことがない。点呼!」
ミカとギースがすぐに声を上げる。少佐も私の名前を必死に叫んでいることから生きていることが確認できる。
「リリー、バンディから応答がない!」
ギースから怒鳴り声が聞こえてきた。あたりの土煙りが晴れて来ると、少し離れたところに、大破した自動人形が転がっていた——、バンディの自動人形が。
すぐさまミカがその自動人形に駆け寄ろうとするが、リリーがそれを静止する。
「皆、すぐに装甲車に飛び乗れ、相手の未知の兵器だ。逃げることを最優先する」
「ちょっと待ってリリー、バンディを、バンディを助けないと」
「レーダー感あり! 次弾来るぞ!」
ギースがコクピット内の計器を見て叫ぶ。
「破壊姫——、あんたなんとかできないの?」
「なんとかしてみるけど、どうなるかわからないわよ」
「打開策があるなら、早くなんとかして!」
空を見る、魔力探知には引っかからないが、レーダーには無数の砲弾が降り注いでくることが見て取れる。
「
空一面に防御魔法陣を敷ければよかったが、この平野を覆うほどの魔法を出せば、私でさえ一瞬で魔力が枯渇してしまう。だから局所的に、最も近く、私たちに致命傷を与えそうな砲弾だけ選択的に——防ぐ!
次から次へと絶え間なく降り注ぐ砲弾——、ただ、私の魔法陣もなんとか耐えている。このまま10分程度であれば、耐え続けることができそう。
「なんだこれは、大きすぎる」
再びギースが叫び、レーダーを見ると、先ほどの砲弾の点の数倍の大きさの点がこちらに数個向かって来るのが見てとれた。
上空に目を移すと、先ほどよりも巨大な砲弾? いや、もはやあれは砲弾と形容するのは間違っているかもしれない、巨大な丸い何かがこちらに向かって降り注ごうとしている。
「あれが当たれば確実にここら一体が吹き飛ぶぞ、破壊姫、お前の防御魔法を私たちの周りに球状に展開したとして、防げそうか?」
「いや、あの質量から生み出される爆発には耐えられない」
「ならば、万事休すか」
「まだ諦めるのは早いわ」
「何か手があるのか?」
「あるわ、だけど博打要素が大きい」
「今は少しでも生存確率が大きい方に賭けるだけだ」
あの巨大な砲弾を打ち抜き、空中で破壊する魔法を私は一つだけ持っている。今まで忌み嫌ってきた魔法が、ここで役に立つとは人生何が起こるかわからないわ。ただ、ザイガーには感謝しないとね。
さあ、果たして私は撃ち抜くことができるかどうか——、考えても仕方ない。私は、この子たちを守りたい、子ども一人守れずして、革命なんて起こせるわけがない。
いくわよ、ミリーナ・パウゼ。これまでの人生を賭けて、あれを破壊する。
「直進魔法」
最大火力、最大密度の魔力を勢いよく放出する。直進魔法は音速を超え、一直線に砲弾へと向かっていき、そして貫いた。
その瞬間、砲弾は空中で爆発し、破片が当たり一体に散らばった。
「おいおいおい、破片もさっきの砲弾より大きいですよ」
ミカが目を丸くしながら空中を見る。
「
すぐさま、防御魔法を展開する。今日ほど、自分の魔力量に感謝した日はないわ。
砲弾の嵐が一旦止み、レーダーからも影が消えた。その瞬間を見計らい、ギースとミカは、バンディの機体に近づき、ハッチを開ける。頭から血を流したバンディがそこにはいたが、まだ息があるらしい。二人は、バンディーを装甲車まで運ぶと、少佐は皆を乗せて、アクセルを踏み抜く。
「どうしよう。バンディの出血が止まらない」
「止血テープは? もうないの?」
「もう使い切ってしまったわ」
ミカとリリーが一所懸命、応急措置をするが血が止まらないらしい。
「ちょっと退いて、私も治癒魔法が得意なわけじゃないけど、止血ぐらいできると思う」
以前大学の教科書で読んだ魔法式を思い出しながら、魔法を発動する。
まだ少し、血が流れるが、先ほどよりは出血量が減った。このまま医療班の元に間に合えば——彼は助かるかもしれない。
が——、司令所に戻った私たちは驚愕の光景を目にすることになる。司令所が吹き飛んでいたのだ。
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