第17話 石標 上
破壊姫が着任してから2ヶ月が経過した。破壊姫は着々と実力をつけてきていて、的確な指示を飛ばせるようになってきていた。時々トンチンカンな指示を出してきて、こちらが生死の境を行ったり来たりしかける時があるからまだ油断ならないが。
それはそうと、ここ最近はハミルトン王国からの無人人形の襲来が少ない。そのせいか、ギースとバンディが恋路に勤しむ暇ができたらしい。奴らはミカが好きだ。それは孤児院にいた時から知っている。
ミカは孤児院では皆の母親代わりで、掃除洗濯家事を担っていた。良妻賢母といった感じのミカに憧れを持つことは至って自然だろう。え、私? 私はいつも外で寝ていたからな、人気があるはずがないだろ。
明日はミカの誕生日——、朝からギースは、
「やっぱりミカは、鹿の肉が好きなのかな? それとも猪かな?」
と、聞いてきた。なぜ肉を贈ろうとしているんだと思ったが、私も天邪鬼な性格のため、フクロウの肉じゃないかと言っておいた。そしたら、なるほどといってフクロウ狩りに出かけて、フクロウの肉を用意したらしい。
一方、バンディはというと
「どの非常食をあげればミカは喜ぶかな」
って、聞いてきた。男どもは揃ってアホらしい、まだ、お花作った冠の方が喜びそうである。聞いたところによると、二人には取り決めがあるらしい。出し抜き厳禁、告白するときは一緒にするという取り決めを男の約束として交わしているとのことだ。男という生き物はよく分からない。取られる前に取って仕舞えばいいのに、変に義理堅い。
だけど、私にはほとんど義理難くないし、優しくないのは生簀かない。この前——、そうだ、ハルト殺害未遂事件の計画に便乗して、ミリーナを誘拐しようとした際、最初はギースもバンディも乗り気じゃなかったのに、ミカが作戦に参加したら途端に名乗りを上げやがった。本当に現金なやつだ。
にしても、人生とはことごとく不思議なものだ。あの時誘拐しようとした破壊姫が、今やコマディアン——、私の手の届く範囲にいる。初めは、最果ての墓参りのために、脅して言う事を聞かせようとしたのに、ミカの奴が、『やっぱり説得して行こう』なんて言うから、計画が後ろ倒しになってしまった。
まあ、そのおかげで、まだこうして生きているわけだし、破壊姫がこちらのご機嫌を取るために、食堂のメニューを変えたり、トレーニング器具を整備したり、整備を整えたりと、色々働きかけしているらしく意外にも生活水準が以前に比べ数段上がったのは怪我の功名だな。
だが、私たちには時間がない。日々、前線は後退し、その度に、ハミルトン王国のヨーク地区との距離は開いていく。
もう時間は残されていない。
「おい、リリー、聞いてるのか?」
回想に集中してしまっていたらしい——、久々にドワーフ地区に現れた敵を撃滅すべく出撃したが、ギースからの無線で我に帰った。
「すまん、少し考え事をしていた」
「おいおい、しっかりしてくれよ隊長さん」
「どうやら、敵は後退を開始した模様」
破壊姫から無線通信が入る。即座にミカもレーダーで確認をする。
「確かに、敵の自動人形は後退しているわ」
「なんだ、じゃあ、今日はこれでおしまいか?」
ギースが操縦桿から手を離し、機体を止める。
「ねえちょっと、あそこを見て!」
突然、バンディが嬉しそうに無線を繋いできた。バンディが刺したピンの位置を確認すると、そこには石の道標が設置されていた。ズームして文字を読むと、『この先、メアリーの墓』と彫られている。
「この石標は初めて見たわ、バンディ、よく見つけたわね」
「えへへへ」
私が誉めると、嬉しそうに笑い、ハッチを開くと石標の近くに駆け寄る。
「ねえ、この石標さ、司令所から近いから、ミリーナも連れてこようよ。ミリーナもナタリーっていう人に興味を持っていたんでしょ」
「確かに!」
「私も賛成! この前話した時、本当にそんな石標あるのって疑っていたし」
バンディ、ギース、ミカはすぐに賛成の意を示したが、私は、まだあの頭がお花畑の女を認め切れてはいない。
「なあ、リリー、そろそろ認めてやろうよ。なんだかんだ2ヶ月間必死に食らいついてきたんだぜ、今までのコマディアンなんか、隊長の罵詈雑言でたった1週間で辞めていったんだから」
「聞きづてならないわね」
「いや事実でしょ」
「じゃあ、私、お姫様に連絡してみるね——、あー、お姫様、周辺に敵影はありますか?」
「いえ、今のところありません。本部も今日の襲撃はないと踏んでいます」
「それなら、少し前線散歩でもしてみない?」
「前線散歩ですか?」
「ずっと司令所だ飽きてきたでしょ。それに今、ナタリー師匠の墓跡を示す石標を見つけたの、見にこない? そうね、司令所から大体10 kmくらい、装甲車を飛ばして20分くらいって感じ」
「そうですね、少し行ってみようかしら」
「そう来なくっちゃ。じゃあ、待ってるから早くきてねー」
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