第11話 奇跡だよ
「自動人形に人が乗っていることを知っていたんだな」
「ええ、ザイガーも知っていたの?」
「流浪の旅をしている時に子ども達が乗っていることを知った。それにしても、まさかシュバ人が、ハミ系人に慈悲の心を持っているとは驚いた」
「王国民のほとんどを占めるシュバ系は、ハミ系を差別している。そして、隣国の無人国家ハミルトン王国からの襲ってくる自動人形兵器と戦わせている。しかも、この事実はシュバ系のほんの一握りしか知らない」
「そのようだ。ひどい話だ」
オレが同調してくれるとは思わなかったのだろう。少し驚いた目でこちらを見てくる。
「あの、聞きたかったことがあるんだけど、もしかしてこの前の女の子達は知り合いだった?」
藪から棒でもないが、突然この前の話を持ち出したミリーナ。多分、会話から違和感を感じたんだろう。隠していてもそのうちバレるかもしれないし、そもそもオレは王国民でもないから、ハミ系の人と繋がっていても問題はない。
「——後から思い出したけど、オレはかつて彼女とその両親を救ったことがあった。少し聞く?」
「ええ、聞かせて、私もザイガーのこれまでのことには興味があるの。
‡‡‡‡
「ねえ、先生、こんな戦場のど真ん中に何日もいるの嫌なんですけど」
オレと先生は、シュバール王国とハミルトン王国のちょうど真ん中、戦闘地域のど真ん中に陣取っていた。陣取っていると言っても茂みに隠れているだけで、1週間続いている戦闘が終わるのを今か今かと待っていた。
「、我々は流浪の旅人、資金集めは難儀する。しかし、こういう戦闘の後、ましてや魔法を使う自動人形の戦闘の後には価値ある魔法石が落ちているものだ。それを拾って換金しないと我々は飢え死にしてしまう。そうなれば、悪い魔族を殺せないではないか」
「死人から奪い去るのは気が引けます」
「そうか。そうだな、普通は自動人形同士の争いだから気が引けることはないが、シュバール王国側には人が乗っているからな。だけど、わしはただ奪うのではない、奇跡を信じながら奪うのだ」
「先生、何を言っているのかわかりません」
「今にわかるさ」
その二日後、戦闘が終わった。結果はシュバール王国側が撤退、前線を後方に下げることになった。
「さあ、始めようか」
先生と一緒に魔法石の回収を行う。同業者らしき人物が何人かいたが、皆、無言で拾い続ける。ただ、誰もシュバール国側の自動人形を解体しようとする者はおらず、皆がハミルトン王国の無人機から魔法石を取り出している。ただ一人を除いて。
奇しくも、その一人は先生だった。先生は丁寧にコクピットを開け、一回一回手を合わせてから魔法石を取り出していた。側から見れば奇人だった。この人でなし、これまでもそう思ったことは何度かあったが、この時は強くそう思い、口に出そうになった。先生は淡々とコクピットを開け続ける。
「ほら、奇跡が起きた」
先生の呟きを聞きつけ、そばによると、コクピットの中には3人いた。大きな男と小さな可愛い女の子が2人。男は娘を連れて戦場に出てきたらしい、一家心中とするつもりだったのだろう。
だが、娘だけが生き残ってしまった。
「さて通するザイガー。お前の弟子にしろ」
「え、先生、勝手なことを言わないでください」
「そうだな、弟子となると荷が重いか、ならばお前が面倒を見ろ、孤児院に送り届けるまで」
それから2ヶ月ほど一緒に旅をした。初めは全くなつかなかったが、色々と魔法を教えるたび距離が縮まっていった。そして、2ヶ月後、シュバール王国への滞在許可がおり、晴れてシュバール王国に入国した後、彼女達を孤児院に預け入れた。
その時、オレはわかっていた。彼女達がたどる運命を——自動人形として戦地に送られる羽目になることを。しかし、先生にもオレにも彼女の人生をどうこうしてやる力はなかった。そして、これ以上2人を連れて旅を続けることも厳しかった。だから、孤児院に彼らを預けた。
「先生、あの後、あの子達は——」
「自動人形に乗せられるだろうな」
「ならばなぜ、助けたんですか」
「ならば、見殺しにすればよかったと?」
「いえ、そういうわけじゃ」
「ザイガー、この子達の今後の人生の選択肢を考えたことがあるか?」
「いや、ないです」
「この子達を放置すれば、死ぬか、人攫いに見つかり売られるか、自動人形に乗せられるかだ。これにわしは第4の選択肢を生み出すことになる。それが魔法を教えること。魔法を使えれば、後の人生なんとかなろう、もしかすると魔族を倒してくれるかもしれん」
「それはあまりにもご都合主義やしませんか?」
「ザイガーよ、わしはこの選択肢がわしが持ちうる中で、最もベストな選択肢だと思うし、人生とはそういうものだよ」
————
そんな彼女達と偶然の再会は、驚いたが同時に嬉しくもあった。まだ戦地には送られずに生き残っていた。勝手に救い出し、勝手に孤児院に預けた負い目があったが、少し緩和されるのを感じた。そして、人とはつくづく都合がいい生き物だとも。
「だから、彼女達はあなたを前に大人しくなったのね」
「まさか、オレのことを覚えているとは思わなかった。それに恨まれていると思いました。なぜあの時死なせてくれなかったのかって」
「——忘れるわけないと思うよ。助けてくれたんだから。それにあの子達の目の中の希望は潰えてなかったわ」
「そうか?」
「そうよ、絶対。私にはわかるの」
精神系魔法が得意なミリーナならばわかるのだろうか——、いや、あの時魔法を使ってなかった。故に、人の本心などわかるはずもない。
「ねえ、ザイガー、もしよかったら一緒に、子ども達を助けない?」
「それは、どうやって?」
「——革命を起こすの」
「それはいくらなんでも——」
ミリーナの頭の中はお花畑なのだろうかと思ってしまったが、口にはしない。
「決行は、私が戦地から帰ってきてからになってしまうけど——」
「いや、少し頭を冷やした方がいい、革命を起こすということは王族を殺すこと——、ハルトを殺すことになるぞ」
「——そうね、少し飛躍し過ぎたかも」
「ただ、もし仮にだ、もし仮に、オレが革命に協力すると言ったならば、本気で実行するか? ハルトを殺す勇気はあるのか?」
オレの目をしっかり見据えるミリーナ——、自分自身に覚悟があるかどうか問いただしているらしい。
「私は、ハルトは話せばわかってくれると思う。ただ、他の王族は、もし折り合いがつかなければ——実力行使もやむ負えないと思っているわ」
「じゃあ、攻撃系魔法も覚えた方がいいな。戦地に行くにしても革命を起こすにしても、自らが戦えない奴は信用されない」
「——そうね、私も覚悟を決めるわ。そうなんだけど、一つ問題があるの」
「問題とは?」
「私、攻撃系魔法を使うと、魔法が暴走してしまうの」
攻撃系魔法を使うと魔法が暴走——寝耳に水だった。
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