第6話 直進魔法 下

ハルトは護衛に付き添われ王宮に帰って行き、残された私たちも裏路地から安全な大学まで退避することにする。


「こっちよ」


エリスの先導により裏路地を抜けていく、いつもお淑やかそうなエリスが実はこんなに薄暗い裏路地に精通していたことには驚いた。いくつかの曲がり角を曲がると、突然目の前の視界が開けた。ここは第8区、王国最貧民街とも揶揄されるスラム街。確かに、ここを突っ切った方が大学には最短距離だけど、通り抜けるには気が引ける。


「ねえ、本当にここを抜けるの?」

「そうね、ここを抜けるのは少し危ないかも……、迂回しましょう」

「いや、この筋骨隆々の俺がいるから大丈夫だ。このままスラム街を抜けよう」


ウルツが筋肉を見せながら提案したことに、エリスは前言撤回し、スラム街を横断することになった。普段絶対に通ることのなりシュバ系人種の往来に、スラム街に住まうハミ系人種の人は奇異の眼を向けてくる。


「ねえねえ、誰の許可をもらってここを通っているのかしら? そこのお姉さん方」

「そうだそうだ、誰の許可をもらっているんだってんだ」


突如、上空から舞い降りて目の前に現れた敵意剥き出しの二人組の女の子達。なぜ敵意剥き出しか分かったか——それは、後ろに人型汎用戦闘兵器—自動人形オートメイト—が、銃口をこちらに向けていたから。


「あなた達こそ、何をしているか分かっているの? 街中で堂々と兵器を携えているなんて、問題どころの騒ぎじゃないわ」


エリスは相手の戦力に怯むことなく食ってかかる。


「あなた、アルワイト大学生ね、無知じゃないはずでしょ。この自動人形の砲弾は対魔徹甲弾で、防御魔法も貫通する。あなた方が魔法で防げるものじゃないわ。だから歯向かう行為がどれほど危険なのか理解していないの?」


さらに食ってかかろうとするエリスを静止し、前に出たのはウルツだった。


「君たちの狙いはなんだ。確かにその自動人形の砲弾は厄介だ。しかし、自動人形のボディーに施された防御魔法は陳腐なもの。こちらは砲弾が発射される前に、自動人形を破壊すれば無力化できる。仮に、無力化できないにしても、君たちは前提からして間違っている。自動人形は王国民を傷つけられないように命令されている。だから、その銃口が火を吹くことはない」


これ以上ない正論を叩きつけるウルツ。しかし、目の前の女の子達は薄笑いを浮かべている。


『モード・ヒューマンリーサル』


突然機械音が鳴り響いた間髪入れずに銃口から、数多の人を殺す用の銃弾が発射される。誰もそのスピードに避けることすらできなかった——。私含め、全員が死んだと思った——が、私たちは生きている。銃弾により舞い上がった土煙が次第に腫れてくると、目の前には見慣れない防御魔法が展開されていた。


「あなたは——、どうして、其方の味方をするんですの?」


小さくつぶやく女の子——、苦汁を飲んだ顔で、目を伏せる。後ろを見ると、後方にいたザイガーが杖から魔法を展開していた。あの攻撃系魔法と言い、この防御魔法といい、見たことのない魔法陣。


直進魔法グラデス・ゲーヘン


ザイガーは女の子達の問いかけに一切答えずに、直進魔法グラデス・ゲーヘンを発動し、一瞬にして銃口を焼き切ってしまった。その気を逃すまいと、今度はウルツが前にでる。


「助かったザイガー、正当防衛として反撃する」


ウルツはそう告げると、剣型の杖を現界させて、強化魔法を付与して、目の前の自動人形に切り掛かる


「それはダメ!」


ほとんど反射だった——、自分がどうしてそのようなことをしたのか問いただされる可能性を考慮することもなく、私は防護魔法をウルツの振り翳した剣と自動人形の間に展開していた。


「ミリーナ、君は一体何をしているんだ」


ウルツからの怒声が聞こえてくる。


「ダメ、ウルツ、それはダメなの」

「なぜだ、俺たちは今殺されそうになっているんだぞ」

「分かってる、だけど、その人形を壊してはダメ」

「そうだウルツ、その人形には自爆装置がつけられている。たたき切ればオレの防御魔法でも皆を助けることはできない。おそらくそいつらは捨て身で自爆する気だ」


思いもよらなかったけど、ザイガーが助け舟を出してくれた。


「そんな機能、大学では学ばなかったぞ、ぞれにどうしてザイガーがそれを知っている」

「彼は、パウゼ家の者だからそういう裏情報を知っていてもおかしくはないわ」


ウルツはまだこちらの言葉を疑っている。すると、ザイガーが皆の前に出て、目の前の女の子達と対峙した。


「なあ、そうだろ」


ただ一言、されどかなり圧迫感のある一言を放つと、女の子達は肩を小刻みに震え始めた。


「ええ、そうです」


先ほどまでの勢いは消え、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。


「命を粗末にすることはやめた方がいい」

「殺すならお前を真っ先に殺すべきだった!」


これまで黙っていた方の女の子が口を開けて、ザイガーに詰め寄る——が、その顔は涙に濡れていた。


「そこの者、何をしている!」


生死をかけた争いは、騒音を聞きつけ集まってきた衛兵達によって収集することになる。

目の前の女の子と自動人形は勢いよくこの場を離れ、城壁の方へと逃げていった。その後、私やウルツ、エリスは防御魔法のことや自爆装置についてなど色々と尋ねたが、全てはぐらかされてしまった。

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