第7話 エリスの来訪
「遅いわよ」
パウゼ家の門をくぐり、そのままミリーナが暮らす離れの小屋に入ると大学の制服を着たミリーナが椅子に座りながらミリーナが不服そうな口振りで歓迎してきた。そして、その前には一昨日あったばかりのエリスと言っただろうか、ミリーナの大学の友達が座っていて、「ヤッホー」と言いながらこちらに手を振る。
「なんで、エリスさんがここに?」
「ごめんね、急にお邪魔しちゃって、若いのにミリーナの家庭教師になるほどの実力を持ち、さらにこの前は砲弾を難なく無力化した——それに見た事のない防御魔法、そんなパウゼ家の秘蔵っ子に少し興味が湧いたから会いにきたの」
やはりあの時、魔法を使うべきではなかったなと少し後悔をする。そんなオレの気も知らず、エリスは笑いながらオレの頭を撫でる。
「私はちゃんと断ったんだからね」
と、不服そうに頬を膨らますミリーナ。ごめんごめんと今度はミリーナの頭を撫でる。
——ジリりり
急に部屋に備え付けられていた呼び出し鈴が鳴り出した。すると、バツが悪そうにミリーナは立ち上がる。
「ごめん、エリスおばさんに呼び出されちゃった。長引いきそうだから——」
「わかった、じゃあ私は少しザイガーと話したら帰るわ」
「そうしてもらえると助かるわ。それとザイガーも今日のところはエリスと一緒に帰って」
「え、そうなると給料は?」
「はいはい、これが今日の分」
ミリーナはコートを羽織ると、そそくさと小屋を後にした。
「ミリーナと育ての親の叔母さんは仲が悪いの」
「育ての親? ミリーナは養子なのか?」
「あれ、ミリーナは伝えてなかったんだ、じゃあ、今のはオフレコで……、そう、ミリーナはパウゼ家生まれじゃないわ。おばさんがどこからか拾ってきた戦災孤児らしいわ。叔母さんは昔、娘を亡くしていてね、代わりの娘が欲しかったんだろうって言うのが周りの言い分。ミリーナって真面目だから、必死に娘の代わりになろうと、誰よりもパウゼ家に相応しい人間になろうと努力してきたのよ。ただ、叔母さんは厳しいから、ミリーナが少しでもミスをすると叱責するのよ」
「代わりの娘か、それは大変そうだ。それにしてもミリーナとは昔からの知り合いのような口ぶりで」
「そうね、もうかれこれ10年くらいの知り合いよ。他にもミリーナの秘密を色々知ってるわよ。たとえば、勇者に憧れていることとか」
「勇者に? 今時勇者に憧れる人なんているのか。それに人魔協定が結ばれたから、勇者なんてもう現れないのに」
「そうね、ってミリーナの話はここまで、ザイガー、あなたの話を聞かせて、私はあなたに興味津々なのだから」
エリスの吐息が頬に当たる距離まで詰め寄ってくる。それに、わざとなのか胸を腕に当てるように絡みついてくる。
「ザイガー、この前は、私たちを守ってくれてありがとうね、あと、ハルトも守ってくれてありがとう。」
「いや、大したことはしてない」
「——やっぱりそうか、あなたは嘘を言っているわ。護ろうとしたのではなく、殺そうとしたんでしょ」
エリスの発した言葉に驚き、エリスの顔を見る。ちょっと間違えばキスでもしてしまいそうな距離にある顔。エリスはじっとオレの目を見つめ続ける。まるで、オレの瞳の奥からオレに関する全ての情報を抜き出そうとするように。
「いや、何を言っているんだ」
「私、人の思考を読むのが得意なの」
「それはなんて言う魔法なんだ」
「魔法なんて使わなくてもわかるのよ。そう言う一族って言えばいいかしら」
「そうなのか、だけど、オレはハルトを殺そうとはしていない」
「あの直進魔法——、見たこともない魔法だったけど、初めはハルトに向けて撃とうとしていた。しかし、砲弾が飛んでくることを察知して、自分の身を守るために対象を変えた。どう? 違う」
軍事パレードの日、ハイ爺が突然来賓席のチケットを持ってきた。情勢を学ぶのも重要だからという理由だった。ただ、予想外だったのはハルトの存在——、ハルトを見た瞬間、モノ言えないほどの恐怖に襲われた——、そう、ナタリー先生と世界を旅していた時、アゴール高原で退治した魔族と戦った時と同じ感覚に襲われたのだ。
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