第4話 攻撃魔法
「ここが私の部屋よ」
連れてこられたのは、パウゼ家の森の中に建てられた小屋だった。
「離れに住んでいるのか?」
「そうよ。離れに住んでいるの。ちょっと待ってて、今着替えるから」
メイド姿に扮してまでオレを追い返そうとしていたミリーナは、部屋に籠り、着替え始めた。着替えるまでゆっくり待とうと思っていたが、着替えながらミリーナがドア越しに話しかけてきた。
「それで、何から始めるの?」
「そうだな。まずは目標を立てよう。依頼書によると、基礎魔力の向上と書いてあるが、とりあえず魔力量と魔力放出量の増強を図ろう」
僕がナタリー先生から受けた最初の講義を思い出しながら、目標を設定する。しかし、ミリーナは何か納得いかないらしい。
「ミリーナどうしたんだ」
「さっきのザイガーの話によると魔力量を上げると、私の死ぬ確率が上がるんじゃないの?」
「そうだ。だから対抗策を2つ考えてある。1つは、オレが定期的にミリーナから余分な魔力を吸う。2つ目は、毎回限界まで魔力を放出しておく」
「なるほど、そうすれば常に魔力量を低く抑えておくことができるということね」
着替え終わったミリーナが部屋から出てくる。魔法使いの正装であるブレザーとスカートを着用している。それ以外にも驚くべき箇所があった。
「ミリーナは、アルワイト魔法大学に飛び級して通っているのか」
15歳と言っていたから中学生くらいかと思っていれば、着ているブレザーとスカートは王国で優秀な人材が集まるアルワイト魔法大学のものだった。
「身分不相応なことはわかっているけど、私の魔力量とパウゼ家の威光によって半ば強制的に飛び級することになったの」
「それは難儀なことで」
「それで、どういった方法が最も効率よく魔力を放出できるのかしら」
「それはもちろん、攻撃魔法だ」
「——あなた、正気?」
真顔で口を開きながら、空いた口が塞がらない状態のミリーナ。
「ザイガーは学校に通っているの?」
「なんでそんなことを聞くんだい」
「だって、攻撃魔法は、もはや学ぶ価値もない魔法だって習わなかった?」
「そんなことは一度も習ったことはない」
もちろん学校に行っていないから習っていないのだが、それ以前に、ハイ爺は攻撃魔法を否定したことはないし、ナタリー先生に至っては、常に攻撃魔法を極めろと、それしか教えてくれなかった。だから、オレにとって攻撃魔法はそんな特別視するようなものではない。ただ、他の人々は攻撃魔法を嫌っていることは知っていたが、ここまでとは変に思われるとは思わなかった。
「魔法は元々魔族との戦争の道具。魔王リヴィーネと人魔協定が結ばれてから魔族と争う必要はなくなり、攻撃魔法は魔族との敵対の象徴として忌み嫌われるようになったのよ」
「それは知っている」
「なら、私は攻撃魔法は学びたくない。パウゼ家の人間なら尚更そこら辺は気をつけないといけないの」
困ったことになった。攻撃魔法への忌避感は想像以上に強いらしい。このままでは攻撃魔法を教えることができない。だが、本人が嫌がっていることを無理矢理教えることはできないし、そもそも魔法を発動させるのはミリーナ本人。本人の意思なしに魔法は発動できないのだから、攻撃魔法を教えるのは諦めるしかなさそうだ。ごめんよハイ爺。金貨を持って帰るからそれで許してくれ。
「わかった。ならば、週2回魔力を吸い取ることと、ミリーナが得意そうな精神魔法の強化、薬剤魔法を教えるから、それらの魔法を極限まで使うことで、魔力量の増強を図ろう」
「それなら、文句はないわ。契約成立ね」
それからオレは、自分が持ちうる精神魔法や薬剤魔法の知識を教え、ある程度魔力を吸い取ってから帰宅した。意外にも、オレはミリーナに魔法を教えることにワクワクしているらしい。
それから数ヶ月、喧嘩もすることもあったが、ミリーナは順調に魔法を上達させていった。
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