能力者二大事件と能力について
まず能力の歴史から順序立てて覚えていこう、と言う流れになった。
ただ、その前に。
「華園くん、この考え方を忘れないでね」
灰田さん曰く。
「覚える」と言うのは「運動」。
運動だから疲れるのは当たり前。
鍛えたら強くなれるけど無理な鍛錬はダメ。
疲れたら手を休める事。
灰田さんは「ここ大事だから」と指を立てながら言った。
「じゃあまずは能力の歴史ーー」
歴史などの勉強は文脈と合わせて覚えていくことがほとんど。つまりは、少し時間をかけていく必要がある。ただ今日は俺がノートを取り直すという時間がった。
ノートを取ってから勉強すると言うのは実質復習。
でもこの場合はウォーミングアップになる。
ノートの取り方も資料の全文を書くのではなく、要所を掻い摘むことが重要と教えてもらった。
あくまで一つの単語や内容の前頭、後尾にある文章は付随させて記憶した方がいいとの事だ。
「ーー能力者が台頭するお話ね」
【能力者の発生年代について】
能力の歴史は昨今始まったばかりのもの。
過去に前例はなく、「2025年4月1日」に能力者の発生を確認、これを歴史上初とし、「第一能力者観測日」とした。
どこで発見されたかと言えば人口の多いインドで、だった。
小話になるが初めて観測した能力は綺麗なミルクを生み出す能力だったそうね。
「へぇ…なんか関連性とかあるのかな」
「んー関連性…と言うか一説には能力者がその時に望んだものに近い能力が発現すると言われているわ」
「望んだもの…」
俺はこの能力を必要だと望んだ事があったのだろうか。それはどんな状況だったのだろうか。
「ちなみに私は何故かは知らないわ。振動させる能力なんてどこで望んだのって感じ。こう言う人も多いから一説って言われてる」
「他の説はどんなのがあるの?」
「えっとねぇ……んー…。いや、そのお話は勉強が終わってからしましょ」
「はい師匠!」
2025年4月1日。
この日を皮切りに能力者は増えていき、最初期とされる「1年の間」は「産まれてくる子供にのみ」に能力が宿っていた。
だが、初期とされる「2〜7年の間」から「後発的能力の発現」の確認数が増え、中期ごろには観測しているだけでも「世界人口の28%は能力者」になっていた。
長期に分類される現在「〜15年目」では「世界人口の53%が能力者」とされている。割合の変化はここ3年で止まっており今後も「横ばいになる」と予測されている。
「あ、華園くん。ほんとにごめんなさい。ここの表抜けてた。さっきの話をまとめた表あるの、書いてみて」
「うんん全然! 寧ろ表があるのは助かる!」
【能力者発生年代表】
○2025年4月1日 「第一能力者観測日」
○2025〜2026年4月1日「能力は産まれてくる子にのみ」
○2026年4月1日〜2033年4月1日
「能力の後発的発現が始まる」
「世界人口の28%が能力者」
○2033年4月1日〜2040年
「世界人口の53%が能力者」
*能力者数の増減は今後も横ばい
*上から「第一能力者観測日」「初期」「中期」「長期」
「テストに出るとしたら「初期の〜」だとか「中期における世界人口の何%が〜」みたいに出ると思う」
「へぇ…それもメモしとこ………」
そうしてカキカキと書き込んで。
「ふぅ…これで…大丈夫かな」
「そうね……。うん、誤字脱字なし100点」
「よしっ。……ほんと、書いたノート見返すと師匠と一緒の出来になったって感じする。文字はまだまだだけど自分のノートじゃないみたいっ」
頬を綻んでるのがわかる。
実際自分が成長したみたいで嬉しいんだ。
そんな俺を見て灰田さんはふふっと笑う。
「そりゃそうでしょー、書き写してるんだから」
「へっへっへ。…いやぁ良い師を持ったなぁ」
「そんな、持ち上げすぎ」
「持ち上げてないよ。だって優しいし、勉強に付き合ってくれるしノートはすっごい見やすいし。あれだよ? 俺に取って先生が送ってきた資料って…こう…文字の塊がぶわっ! って襲いくるみたいだったんだよ? でもこれはなんかちゃんと一つ一つ文字ってわかるし頭に残る。師匠が居なかったらわかんないままだったと思う」
師匠に対して師匠の凄さを熱弁する、と言う奇怪な出来事が起きたものの後悔はしていない。
灰田さんは師匠としての格を自覚していなさすぎる。
そんな俺の話を聞いて灰田さんは少し耳を赤くしていた。
「……別に…華園くんもそのうちサラサラ〜ってできるようになるわ」
「ほんとに!」
「ほんと」
「え、ワクワクしてきた!」
これが自分で書けるようになったらそれはもう最高だ。その領域に踏み込みたいと心が成長を求めてくる。身体を侵す疲れをやる気が凌駕して満ち満ちる。
この背中に炎が焚き上がっている気分だ。
「ふふっ。やる気があるのはいい事よ。じゃあその調子でどんどん進めよ」
「はい師匠!」
【能力者犯罪について】
能力の発現の波及に伴い、能力者が関係している問題。それに対する法整備や対応策が後手となっていた。
今は能力発現後は能力者名簿に登録される様になっているが「観測日から初期の半ばまで」は「能力は国で管理されていなかった」。
この「登録義務のなかった期間」は特に能力の事故が多かった。赤ん坊は基本能力の使い方を理解しているようだったが、中には制御できずに暴発するケースがあったらしい。
観測日から1年後。
後発的に能力を獲得し始めた頃、犯罪が多発した。
「軽犯罪と殺人・殺人未遂」が主な犯行だった。
そうした中で能力者が絡んだ歴史的事件が2つある。
1つ。渋谷駅全焼爆破能力者事件
2つ。大阪都心水没湖能力者事件
1.
能力発現から翌年、2026年12月24日に無能力者である
現象系能力者。
「炎能力を有する3人」
「風能力を有する5人」
「雷能力を有する1人」
「爆破能力を有する2人」
に加えて。
「領域系能力かつ能力の増幅効果を有する3名」
「計14名」により引き起こされたテロ事件。
時刻は「午前7時30分」。
電車や人、車が入り乱れる時間に停電を起こし、渋谷駅を爆破。次いで周囲の建物を爆破で崩落させ、下敷き等の二次被害で身動きの取れない民衆を狙い炎の能力を行使。
風の能力で火の勢いと範囲を急速に拡大させ、ものの30分で渋谷区を焼け野原にした凄惨な事件。
死傷者は約26万人にものぼる。
対能力者抑制組織(Anti-ability suppression organization)、通称ALNOが緊急出動。
現場を鎮圧し、消化に至った。
首謀者含め14名には死刑が言い渡された。
2.
大阪都心水没湖能力者事件は2026年2月20日に発生した。
発生時刻は午後14時52分。
大阪府庁を中心に地盤の陥没が始まり、周辺25kmが縦20kmほど大きく窪んだ。
そしてそれを覆う様に現れた水の球体が直後落下し、都市を水没させる。窪みから勢いよく溢れた水は8m程の津波として広がり、住宅地を破壊。
津波による死傷者も出ることとなった。
この事件の死傷者は128万人にのぼる。
なお、対能力者抑制組織(Anti-ability suppression organization)、通称ALNOは未結成であり、主犯とされる人物は不明とされている。
現在も事件の痕跡は残されており、三大都市とされていた大阪はその名を潜めることとなった。
「まとめるとこんな感じね」
【能力者による二大事件】
○東京駅全焼爆破能力者テロ事件
発生日時 : 2026年12月24日 午前7時30分
・計14名によるテロ事件
・死者約26万人
*対能力者抑制組織(Anti-ability suppression organization)、通称ALNO結成後
○大阪都心水没湖能力者事件
発生日時 : 2025年2月20日 午後14時52分
・首謀者不明
・死者約128万人
*対能力者抑制組織(Anti-ability suppression organization)、通称ALNO結成前
・「ALNO」は「大阪都心水没湖能力者事件後の3月15日」に、前身であった「能力者警察部隊」を組織化し、結成したもの。
・またこれを期に「能力発動時に発生する特有の粒子の歪みを観測する装置」を、都市や区に用いれるようにする大型化に着手。世界の研究チームと開発し、2029年に試験運用の開始。2031年に都市部を中心に順次設置。
・2025年1月1日 能力の登録義務化開始
「うわぁなんかもう無理ってなる」
一気に流し込まれる情報に目が滑っていってしまう。今日一日もちゃんと授業を受けていたから万全ではないとは言え、少しそんな自分に滅入ってしまう。
「そうねぇ、でも落ち着いて。少しずつよ少しずつ。毎日続けていれば覚えられる様になるわ」
「うん……」
慰めてくれる灰田さん優しい…。
泣きそう、俺。
「能力者についての歴史の教科書には必ず初めにこの二大事件がでてくる。それくらい大事な話で、能力者は容易くこんな事件を引き起こせてしまうという話でもあるの。華園くんは流石にそんな使い方はしなさそうだけど、ちゃんと覚えておいて」
「わかった…」
世の中には能力を悪用する人がいる。
その前例として二大事件がある。
先生が赤髪の喧嘩の一件で軽く死刑になるって言っていたがこういう背景があってのことなのかと、少し考えてみる。
物事や決まり事には必ず背景が存在していると言うし、歴史を学ぶ上でこの考え方は大切なのかもしれない。
それから細々としたところを復習していき、最後に要点の確認をサラッとした頃には残り時間は50分くらいしか無かった。
少し急足で次の科目に取り掛かる。
次は能力についてのお話。
今日一番重点的に勉強した所だ。
【能力について】
能力には「効果」と「疲労」がある。
使用者が持つ能力に応じて現象が発生する。
それは同じ能力であっても個人差があり、それを「効果」と呼んでいる。
また、効果の特徴として、発動に際してある程度発動者の意思が能力に反映される。
能力の発動と同時に「能力の質に応じて体力が奪われる」。それを「疲労」としている。
そして能力の行使は基本一定的では無いことを抑えなければならない。能力の使用回数や使用時の質により、以降の能力のパフォーマンスは低下していく。
それを「能力限界」としている。
「ふぅ……」
サクサクと解説を進めてもらい、ドンドン頭に入れていく。そして、特に基礎として大切な話とされる話に差し掛かった。単語の多さに圧倒され、頭の中を単語だけが泳ぎ回る。脳が処理しきれていなかった。
ので、時間もないが仕方ないと5分の休憩を挟んだ後に勉強を再開する。
【能力の系統】
能力の効果は13の系統に分類できる。
○精神干渉系
○現象系
○現象干渉系
○人体変化系
○治癒系
○反治癒系
○特殊系
○俊敏系
○怪力系
○時系
○空間転移系
○領域系
○未知系
*上から順に使用者への負担が増加していく
*現象系は炎や水、風など、無から有を出現させる能力をさす
「ぁーずっと単語ぉ…単語が多いよぉ…」
こめかみに指を押し込んで歯を少し強めに噛み合わせる。ボーっとする。思考力がかなーり低下しているのがわかる。
「目がぐるぐるして来たね」
米田くんはそんな俺に灰田さんよりも先に気がついた。
「癒してほしーよー」
回復系の能力は外傷・内傷のほかに疲労自体を軽減する事もできるらしい。
理屈については俺は理解できなかったが、回復系の能力なら基本的に誰もがそうした使い方もできるそうだ。
ただし、人の疲労を癒せても発動者の疲労は癒せない。回復能力はそこそこ疲れるらしい。
だからさっきの癒してーという駄々は冗談だった。
「いいよ、頑張ってるご褒美に」
だけど米田くんは心優しかった。
米田くんだって体力が無限にある訳じゃ無い。
疲れるだろうに、ほんと、ありがたい。
良い友達を持ったものだ。
「ほんとありがとう米田くん」
あぁ、霧に包まれかけていた脳が徐々に晴れていく…。体も何かに包み込まれるかのようで気持ちがいい…。ずっと回復してて欲しい…。
「フル充電です…」
「はーい。じゃあ残りも頑張ってっ」
【能力の代表例】
○精神干渉系
<催眠術><一時記憶改竄>
○現象系
<火焔><鉄雨>
○現象干渉系
<火焔封じ><雨降らし>
○人体変化系
<変化:龍><形状変化>
○治癒系
<回復光><回復領域>
○反治癒系
<奪力><劣化>
○特殊系
<話を記録する能力> <知識をいつでも取り出せる能力>
○俊敏系
<超加速> <光化>
○怪力系
<超力><破壊>
○時系
<遡逆性能力><状態を保存する能力>
○空間転移系
<空間転移><転移扉>
○領域系
<身体能力強化領域><毒素領域>
○未知系
<塩を生み出す能力><能力を抽出する能力>
【能力所有数】
「一般的には1つ」とされている。(70%)
「稀に2つ」とされている(25%)
「極稀に3つ」とされている(5%)
「4つ以上」は未確認
*複数の能力は、所有している能力と関連したものを所有しやすい。
*後発的な発現の場合、20%の確率で2つ目を獲得する機会があるとされている。
覚えていく量はまだまだある。
けれど俺はなんとかそれに食らいつくしか無い。
整えてもらった場面、有効活用しない理由もない。
俺はそれからの時間も休憩を挟みつつ、情報という膨大な精神的物量を脳みそにぶち込んでいった。
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