蘇我ファミリー 2

「取り敢えず、聞きそびれたこと確認しながらまとめたらこうなったわ」


蘇我乃々愛そが ののあ

・能力

【ラブリーマッスル】「怪力系」

*燃費が超悪い

*半径5m以内を対象として怪力の効果のみを付与

*半径5m以内に対象がいた場合でもエネルギー消費は変わらない

*半径5m以内の対象は1人だけ指定して除外できるが基本は無差別対象

*7割の力で厚さ10mのコンクリート壁を一撃で壊せる破壊力

*腕力に寄っている為、脚の速さは大きく変化しない


華園昇也はなぞの しょうや

・能力

【暫定的に超催眠とする】「精神干渉系」

*人体の限界を引き出す

*とんでもない身体能力にもなる

*恐怖や痛覚にもしっかり対応

*持続時間も任意

*この効果を他人に付与できるかは不明(要検証)

*通常の催眠や幻惑も可能


米田健二よねだ けんじ

・能力

高度回復術ハイヒーリング】「治癒系(人体損傷特化)」

*かなり早い治癒速度

*高い治癒力

*治癒後治癒効果が継続する

*燃費が悪い

*治癒力の枯渇から次の回復可能まで30分

*連続使用すると回復力にばらつきが出る

*最大行使可能数は10回


古賀虎宇治こが こうじ

・能力

1【変化(虎)】「人体変化系」

2【エアブロック】「現象系」


1.

*身体能力は基礎を元に26倍

*柔軟性に優れている

*体長は縦2m横3.8m

*爪や牙は鋼よりも硬い

*継続時間は10分

*再度行使するのに30分のインターバル

*使用後の疲労、硬直が5秒


2.

*面積は100立方メートル

*圧縮するほど硬度が高まる

*簡単に足を掬うほどの質量がある

*エアブロック内では呼吸がしづらく、動きづらくなる


灰田抄子はいだ しょうこ

・能力

【震動】「現象系」

*震源地を最大10m先に設置できる

*威力は地割れを引き起こす程度

*最大持続時間は5分

*持続時間に比例してインターバルが決定する

*疲労度はたまりにくいが60分かけての連続使用はかなり厳しい


「と言った感じかな」

「流石師匠! よくまとまってます!」

「メモ取ってあるからみんなに送るね。華園くんはホログラマー届いたら言って。送る」

「はい師匠!」

「もぉ…師匠じゃないってぇ」

「やぶさかじゃなさそうなのおもろ」

「うっさい!」

「いでっ、ぼうりょくはんたーい」

「うっさいばか! 古賀くんのバカ!」


ポコポコと弱々しく古賀くんの肩を殴る灰田さん。恐らくというかまぁ本気ではないんだろうけど、だからこそ微塵も効いた感じはない。

とても古賀くんはヘラヘラしている。


「もぉ……。…一応、みんなの話を聞いた感じの評価としてはうちのチームはとても強い。特に攻撃力が突出してるわ。恐らくクラス随一まであるわね」


そんな高い評価に蘇我さんは「敢えて」なんだろう。ネガティブに告げる。


「見方を変えれば蘇我ファミリーは火力に寄りすぎね! 防御性能に特化した能力は虎宇治のエアブロックだけ。応用的に抄子の震動を使えるくらい。となると攻撃する事でしか守りを貫けないし、守りに特化した攻撃しかできなくなって八方塞がりになってしまうわ!」


それに、と蘇我さんは続ける。


「継戦能力がゴミね! 燃費の悪い能力の虎宇治と私。どっちも前線を張る役割上負傷も消耗も避けられない。回復能力持ちの健二に異常に負担が偏るわ! 短期で詰めきれなかった時、健二を潰された時、この場面においてこのチームは死んだも同然といえるわね!」


だから。


「基本は攻撃が最大の防御を地で行くスタイル。だけどそれは大きな弱点でもあると言うことね!」

「…蘇我さんって、結構頭回るのね」


そう灰田さんが意外そうにめでたし舐めているなか、蘇我さんは嬉々として腰に手を当て、その誇らしげな顔を振り撒きながら。


「当たり前よ!」


と言った。


「私がこのチームを率いているもの! 頭脳は抄子だけどその頭脳に一辺倒もよくないわ! リーダーとして頭脳と共存するのも私の役目よ!」

「「「「蘇我さんの印象変わるなぁ」」」」


なんとも初めの印象が塗り変わっていく感覚。

蘇我さんはいわゆるキャラが濃い部類で、我が強い。つまりは指揮に従わそうな印象がどこかにあった。自分勝手な行動は予想できていた。

そんな予想が、初めに話していた俺と米田くんを「蘇我さん担当」にするみたいな、相性の振り分けを古賀くんと灰田さんが考えるに至らしめたのだと思う。


でも実情はそうじゃなかった。

強情さはちゃんとあるんだろうけど、必要な意見や思考はちゃんとしてくれそう。

勝手に言ってるけど今後もずっとリーダーはあり得ないよね、みたいな評価は薄れていく。


そうしたみんなの驚きが渦巻く中、灰田さんは切り替えて話し始めた。


「蘇我さんの言うとおり、うちのチームは火力が高く守りがとっても弱い。継戦能力の低さからその場で戦闘をするかどうかの見極めが大事。それに一転攻勢の能力で一時的にとは言えこっちの強みを抑えられたら、逃げ隠れしても長期戦、消耗線になって終わりになる」

「…じゃあそれを使われる前に倒し切るだけでいいんじゃないんですかね…」


蘇我さんの言ったこのチームの強みである攻撃は最大の防御という姿勢。実際これで行けば防御は無視でいいだろうと言う見解が俺にはある。そうした俺の質問に灰田さんは首を横に振った。


「基本はそれで構わないし、それが基本の勝ち筋で間違いない。相手に一転攻勢の能力持ちがいて、それを庇うならそれごと削り切って潰してしまうのが理想よ。けど、あくまで理想系。そんな戦い方を相手だって許さない。相手も戦略を立ててくるし、こんなバカ火力を目の前に真正面から戦いに来ないわ。そんなった時、より高度な心理戦が始まる」

「心理戦…」

「まぁ真正面から殴り合うなんて早々させてくれないわね。そんな心理戦が展開されていると結構拮抗状態になりやすいわ。その打開が遅れれば加速度的にこっちが不利な状況になっていく」


要するに。


「勢いが大事なうちのチームの勢いを落としてくる作戦を絶対立ててくるから、理想だけでは成り立たないって話よ」

「なるほど、よくわかりました」


俺の言葉に灰田さんは満足げに首を縦に振る。


「一旦構成の整理をしましょう」


○主砲

・古賀(変化「虎」・エアブロック)

・華園(超催眠)


○最前衛・前衛

・華園

・古賀


○前・中衛

・蘇我(ラブリーマッスル)


○後衛・妨害・補助

・灰田(震動)

・米田(ハイヒーリング)


「基本戦略」

*3枚の前衛で展開。高火力で即時制圧。

*防御陣形の展開は2つ。

・1つは灰田の振動をベースに3人の攻撃で盾役を担うパターン

・1つは灰田と古賀の能力での防御を展開し、他2人の攻撃で無難に凌ぐパターン


【暫定的な強み】

*正面での戦闘が得意

*圧倒的な攻撃力

*短期決戦にとても向いている

*前線維持力が高い

*陣形維持力が高い

*相手の回復能力者を疲弊させやすい

*味方の回復力が高いため負傷した前衛の復帰速度がとても速い

*近距離戦闘ならクラス随一だと思う


【暫定的な弱み】

*継戦の維持は後衛頼りになりがち

*燃費が総じて悪い

*中、長期に渡る戦闘が苦手

*防御に回ると押されやすい

*中、遠距離からの攻撃への対処が難しい

*逃げや隠れる行動は最終的に不利状況を呼び込む


「ひとまずはこんなところかな…」


そうしてひと段落つきそうな頃、俺は。


「ご、ごめ、俺もう……だ…」

「あ、目がぐるぐるした」

「おいよくみろ、めちゃくちゃ速いぞ目の回り方! ギャハハ!」

「くはっ! ほんとね虎宇治! これはあれね! 昇也の特技ね!」

「え、いやちょっとみんな笑ってるけど割と深刻では? え、ねぇ華園くん、大丈夫?」

「……」

「あ、返事ないやつはもうダメなやつだ。保健室いこっか…」

「……」


黙って頷き、気づけば保健室。

俺の正気は横になって少ししたら戻ったが、とても面目ない気持ちに苛まれる。


(もっと早くから能力に頼らない思考力を身につけるべきだったな…)


少なくともさっきの話は瞬間的に覚えておく必要のある情報じゃないと思った。これから何度も反芻して知識として定着させられる余裕がある。

だから能力を使わず聞いていたが、もうなんだろう。

今では聞いていた話を思い出しきれない程にうっすら曖昧だ。灰田さんみたいに知識を引っ張り出して思考する事をしたいのに、こんなんじゃ多分これからもダメな気がする。山田や高貴がくれた助言を参考にはしていくつもりだが、努力の仕方が上手く掴みきれないこともあり助言を思うように活用しきれていない。


「はぁ……」

「覚えること、多かったもんね…」

「ちょっと、厳しかったです…」

「あはは。まぁ山田くん達と話してるの聞いてたから予想はしてたけど」

「…はぁ……」


気づくと米田くんは看護用の椅子に座っていた。背もたれのない、ただのクッション椅子。

どうやら看病を名乗り出てくれたらしい。

ありがたいことだ。


「覚えるって、難しいよね…。僕も多分華園くんと一緒だったからわかるよ」

「え、そうなの?」

「うん。あ、よかったらもっと気軽に話さない? 僕こう言うの確認しちゃう奴でさ、いい?」

「……うん。全然。むしろありがたいかも、仲良くなった感じするし」


そういうと、米田くんは少し笑った。


「確かにそうだね。…あ、てかもう僕としては華園くんも大事な友達だよ」


ともだ…ち。


「え」

「…え?」

「…とも、だ…ち…」


米田くんの口から溢れた言葉に俺は宇宙に放り出されたような感覚を味わないがら「友達」という言葉を繰り返す。そんな俺の様子に米田くんは慌てた声を上げ、両手を横に振った。


「ぁっ! あ、あ、え、いや、あ、いや、うん。ごめん、調子乗った、いやほんとご、ごめん」


慌てふためき、顔を青にも赤にもして、アワアワと手を動かす米田くんは何処かおもしろおかしかった。

それにこの謝罪は俺に取って必要のない事。嫌だったから相槌を打たなかったわけじゃない。


「別に嫌だったとかそう言うことじゃないよ」


俺は親指と人差し指を擦りながら語る。


「俺、ずっと森の奥でじっちゃんと2人で暮らしてて、友達とかよく分かんなくてさ。でもじっちゃんに友達は絶対に作った方がいいって言われてさ、じゃあどうしようかなって悩んでたんだ。友達ってどこから友達なのか分かんなかったからさ。なのにこう、会ってすぐでも友達って言ってもらえるんだって、友達ってそんな感じでなれるんだーって…びっくりしただけなんだ」


そんな独白。


「うわぁすっごい気になる話あったけど、でも友達に関してだけ直ぐに言いたいんだけどいいかな」

「うん、なに」

「…友達は作るものじゃなくて成るもんだよ」


米田くんは真っ直ぐ俺の目を見て言った。


「なる、もの」

「そう。まぁ確かに作ろうとしない事には縁やキッカケって中々現れないから、そういう意識も間違いじゃないと思う。でも、人のなりとか、こうやって話してて、自分自身がこれからも仲良くしたいって人との縁は、少なくとも自分にとっての友達なんだ」


俺はその話を聞いて目から鱗だった。

なんというか、そんな簡単な話なのかと言う驚き。いやそんなはずはなくないか? もっと難しい話な気がすると言う、感覚的な否定。猜疑心と実情として友達と語る米田くん。

天秤をかければ米田くんに軍牌が高々と上がる。


「そっか……。友達って、そんな簡単なんだ…」

「まぁ、相手の本心度外視した話だけどね。要は友達関係を小難しく考えるなっ! って事。この言葉は親友の受け売りなんだ」


え、なんだそれ。


「し、親友!? と、友達の上にまだあるの!?」

「なんだろう、森の奥で育った的な話を前提にしたらなんか納得いくなぁこの反応」


米田くんはどこかお守りをする親のような微笑みを浮かべていた。


「親友、は、まぁ、友達の進化版みたいなのかな」

「進化…版!! かっこいいすごそう!」

「すごいよ親友になるとー。相手の考えてる事とか読めてきちゃう。…でも……親友との関係性って言語化難しいんだよね…。本当に心の底から仲がいいって感じとしか僕は言えない」

「んー…じゃあとりあえずどうやったらなれるの」


親友の条件。今さっき友達関係を小難しく考えるなと助言をもらったというのに全然聞いてしまった。

しまったと思って米田くんの様子を伺ったが、どちらかといえばその質問に少し考え込んでいた。


「……んー。まぁそうだねぇ、友達みたいになりたくて成るんじゃないんだよね親友ってのは。なんだろ…いやほんと気づいたらなってる感じ」

「ほうほう」

「だから、言うなれば長い年月を一緒にしても尚仲がいい関係の人、信頼できる人が親友って位置付けに繰り上がるって感じ…だと思う。うん、自分で言っててなんだけどよくわかんない」


ふへへと顔をちょっと俺から逸らして頬を描く米田くん。


でも、言わんとしてることはよく分かった。


「一朝一夕では出来ない関係なんだね」

「そうそうそれ。一朝一…」


そんな俺の要約に強く頷く米田くんの言葉尻は段々と怪訝そうなものに変わった。


「てかあれだよね、華園くん。微妙に言葉への理解力あるよね。この前まで森の奥で暮らしてたんでしょ? なんか不思議」


そう言われて確かに、と思った。俺はこの語彙や言語の操り方をどこで学んだのだろうか。知識だってどこか偏ってる感覚がある。そんな謎。

けれどそれは直ぐに解明できた。


「……あ、いや、じっちゃんが見た目にそぐわず饒舌でさ、博識なのもあってなんか歪な形で覚えたって感じがする」

「ぁー…なるぅほど…? それなら、そういう事なのかな。だとしたら知識がチグハグと言うかキリハリされた感じなのも理解できるな」


それから少し談笑して俺たちは教室に戻る事になった。


「あ、おかえりー! 昇也ー! 健二ー!」

「「すっごい恥ずかしい、やめて蘇我さん」」


ハモるくらいに恥ずかしい。なんだこれ公開処刑か?

ただでさえ注目を浴びるだろう教室に入る行為に緊張しているというに、こうも目立たせられると心臓がギュンっと縮んでしまう。

今にも死にそうだ。

視線がすご……あぁ、でも直ぐに視線が落ち着いた。

よかった…。


「お、米田おつかれ。看病ありがとうな」

「あ、いえ全然。…じゃあ、戻ります」

「…華園はこっちに」

「え、俺ですか」


橋田先生に呼ばれ、米田くんについていく足を止める。


「華園昇也くん、こっちに」

「あ、はい」


なんだろう、体調崩したからお叱り…?

チームワークを乱した的な…? ことはないか。

ないよな、少なくとも先生は普通の顔をしている。


そんな危ぶむ俺の意に反して、橋田先生は言った。


「はいこれ」

「…これは…」

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