蘇我ファミリー 1

「じゃあ早速クラス内でのチーム分けを発表する。何度も言うが2週間に一度の小テスト、そのチーム内で1人でも落とせば全員8.5割の点数を取るまで補修は続く」


再三と口酸っぱく話しながらホログラマー1型をつける先生。それと同時にこの50人を収める広い教室の横幅をめいいっぱいに埋めるサイズに拡大した映像。


「席の並びは縦6人、横9列、あまり4席。つまるところ綺麗な組分けではない。がこれが今日から君たちが共にするチームだ」

「ほんとに綺麗じゃなくて草」

「なんか歪すぎて微妙に覚えにくいよねぇ」

「ねー」

「そーだそーだなんだこの変なやつー」

「おい先生が1分かけて色分けしたんだぞ! 文句を言うな!」

「高々1分で威張るなー無能教師ー」

「そーだそーだー」

「てかくじ引きしたーい」

「そーだそーだー」

「クソガキどもが…」

「そーだそーだ」

「おい蔵山!!! 同調するなら的確に同調しろ! お前は先生の味方なのか批判する側なのか立場を明かせ!」

「くじ引きしたいです!」


傾くメガネ。少し気に食わないと言った顔のしかめ方をする橋田先生は大きくため息をつくとメガネを治し、息を大きく吸い込むと声を上げた。


「そんな言うんやったらお前らぁ! 今からくじ引きタイムや!! 先生批判して掴んだくじ引きやぞ、文句言うんなよ!!」


そんな怒声に似た一声は、この教室全体を少し沸かせた。少なくとも山田はうぉおおー! っと両手を上げて叫んでいる。下手な子供ですらやらない喜び方をしている気がする。

……にしても先生の口調、元々粗暴じゃないと言えばそうじゃないけど、かなり砕けたと言うか口調が変わった。なんかイントネーションの違いを感じる。


「……ふぅ。今共有アプリ保持者にくじ引きボタン送った。なので、ホログラマーを起動したら右上あたりに出てると思います。はい、順不同。いつでもひきなさい。青峯は華園の分も入れてある、引いてあげてほしい」

「いいですよ! 神なので!」

「こいつ天狗の生まれ変わりか?」


ーーー


「て事で第一回ちきちーきくじびーき大会を開催しまーす」

「おーい青峯ー、変なアレンジ入れてもお前がオリジナルにはならんからなぁー」

「はいじゃあ初めは昇也くんどうぞ〜」

「う、うん……。…けど、どうしたら…?」


ホログラマーは青峯さんが親、俺は操作できない。

それにくじ引きって夏祭りでするようなものなんじゃないのか。あのペリってするやつ。俺はそれしか知らない。


「あ、えっとね…」


そんな俺の首を傾けているような動きに青峯さんは手前に手のひらを突き出すと「手を前に突き出してー」と言いながらこっちを見た。


「…こう?」

「うんおっけっけー。そんで今ねくじ引きの入った箱に手を入れてるって思ってー」

「う、うん」

「じゃあ次は、ここが良いなって思ったら手を握って。それを合図に引くから」

「わかった」


と言った側から適当に掴む仕草をする。その躊躇いのない握り込みに思わずと青峯さんは「はやぁ!?」驚いていた。


「…いやぁ……なんというか、多分ね、この教室の人みんないい人っぽいからさ。まぁ…その、誰と当たっても後悔しなさそうだし気張らなくてもいいかなって」


そんな俺の見解に「厚い信頼がもう生まれてる…」と呟きながら一考すると。


「じゃあ、私もその一員として期待に応えれるように頑張んなきゃだ」


ふんすと鼻息を吐き出す勢いで頑張る顔をする青峯さん。意気込む手と体の仕草にミディアムボブの灰色髪、その毛先がふらりと揺らめいた。


「えーと、じゃあ昇也くんの番号を伝えます」

「はい、お願いしますっ」

「じゃかじゃんっじゃん! 16です!」

「お。俺の歳だ」

「え、そうなの? じゃあ4月生まれなんだ」

「そう、4月1日かな」

「へー! エイプリールフールじゃん!」

「…え、えい、エイプリールフール……?」

「………え?」

「え?」

「さっすが昇也、バカを通り越してもの知らなさすぎ」

「うっせぇ山田、机に顔面埋めるぞ」

「今のさっきで当たり強くない!? ねぇ!」

「いいねー! 男同士の喧嘩は熱い! いけいけ殺せ殺せー!」

「青峯さん!?」


山田はなんと言うかちょっとでも楽しそうだった。

口角が微妙に上がってるし、雑に扱われても落ち込んでない。むしろそれでいいみたいな感じ。変態かな。


「ちなみに私の誕生日は5月25日〜。それでー私の番号はー」


青峯さんは手を前に突き出し握ると、俺のくじを引く時と同じく、何か折り畳まれたものを開くようにして手を動かした。


「26……わぁ私ハタチ超えちゃった」

「お姉さんだ」

「私お姉さん!」

「鯖読みすぎだろ」


先生のツッコミにエヘヘと笑う青峯さん。

改めてよく見ると端正な顔立ちだ。まだ15だというのにどこか大人っぽい。それは多少の化粧のせいかとも思ったが、やっぱり綺麗な鼻立ちやクッキリとした目、輪郭から成熟している大人感がついてまわっている。


「でもあれかぁ、これじゃあ昇也くんとは離れちゃうな」

「うんだね…」

「離れ離れになっても話そうね…!」

「うん…!」

「おーい上京する親友との別れ際じゃねぇって。……後2人ー、はやくひけー」


そう催促されている2人は、一番前の出入り口付近の男の子と、一番後ろの窓際の席の女の子。


「席がダメなら…!」

「グループを一緒にするまでよ!!」


気合の入った声。

そして同時に。


「「そして番号でも勝つ!」」


発せられる言葉。


「うん、でもね君ら2人だけなの。正直もう終わりたいんだ、自分の手で引くか他人に引かれるか早く選べ」

「なぁんだじゃあもう決まったも同然じゃん」

「雷斗に負けてたまるかぁ…!」

「姉弟愛が深いのはいいが早くしろ」

「んー! 23!」

「ちなみに弟の雷斗くんは24ね」

「よしっ」

「……雷斗、番号交換しなさい」

「ねぇさん、番号が若いって事は1番に近いんですよ」

「……。なるほど、じゃあ要らないわ」


弟の雷斗と呼ばれた男の子は、お姉さん思いで優しい人なのかぁ。そう思って見てみればとても誇らしげで勝ったと言わんばかりに頬を弛ませている。

反対に姉は苦虫を石臼のようにすり潰して味わされていると言わんばかりに渋い顔をしていた。


腹の中では言い負かされたとわかっているが、聞き分けのいいようにしているのか。反対に弟は言い負かしたことと、番号で勝っている事、二つ合わせて勝ったことに喜んでいると言ったところ…か?

なんというか歪な兄弟喧嘩を見ている気がする。


「て事でチームリーダーである蘇我乃々愛率いる蘇我ファミリー結成よ!」

「うわキャラ濃ぉ」

「蘇我ファミリー!! 友達よりも仲が良さそう!」

「そうよ昇也! 今日からあなたも家族よ!」

「いえーい!」


くじ引きの番号に従い、後ろの廊下側の席に集まった5人。机をくっつけるとさっそく話は始まった。

みんなの表情は固くもなくゆるくもなく、平静の雰囲気。空気は少し蘇我さん? のキャラクター性に押されている節が強いが受け入れられないと言った空気はない。


「華園くんって適応力の塊ね。山田くんとか青峯さんとの会話聞いてたけど」

「それには同意見やわ。なんやろなぁあれ。別に無理してる感ないから多分ああいうキャラ濃い子にとっては嬉しい人材になりそうやな」

「確かに…。あ、じゃあ蘇我さん担当を華園くんにしよっか」

「それがええと思うわ」

「僕も賛成」


なんかいきなり周囲での会話が増えた。

ワチャワチャした会話。

家族というフレーズも相まって凄く楽しくなってきた…!


「まぁ蘇我ファミリーといえどもまだ会ってすぐ! だから自己紹介と能力紹介よ! ちなみに私は蘇我乃々愛! 蘇我、乃々愛ののあよ! 能力はラブリーマッスルね!」


背中あたりまで伸びている長髪。

綺麗な黒髪、幼顔でかわいいと言った印象を受ける。表情は今の所ずっと自信ありげで、ムフンっと我が強そうな感じだ。


そんな蘇我さんの能力紹介に1人。


「なんだろう、ラブリーとマッスルの両立が想像できない…。改名とかした感じなの…?

「健二、あんた今日の昼ごはんはなしよ!」

「うへぇ…」

「あと改名してないわ!


健二と呼ばれた白髪の少年は少しげっそりした顔をしていたが「イヤイヤ、なんでその通りにしようとしてんだ僕は」と首を横に振って正気に戻った。


「私の能力【ラブリーマッスル】は特殊怪力系ね! 効果は私の身体のエネルギー消費量が増幅する代わりに怪力を手に入れるというものよ! 燃費は超悪いわ! あと半径5m以内の人にも同じ効果を付与できるわね! 消費量の変動は生じない事が魅力かしら!」

「ラブリー要素そこなんやろなぁ多分」

「愛情って…こと?」

「そうちゃうかぁ? しらんけど」


古賀くんと米田くんは蘇我さんの能力名に納得がいったと言った風に話している。抄子と呼ばれた女の子は、肩まで伸びた茶髪をくるくると指先で遊びながら物思いに耽っている。


「……なるほどねぇ。じゃあ次私良い?」

「ええよー」

「どうぞ」


別に順番なんてない。

そう言った雰囲気で進む自己紹介。


「灰田抄子しょうこ。能力は現象系。主に振動を操る能力で最大、直径10m先を震動の発生源にできるわ。威力は最大で地割れを起こせる程度かな」

「終わり?」

「ええ」

「ほんじゃあ次俺行くわ」


金色の髪に黒色のメッシュ、猫のような瞳はセレモニーの時一緒になった西条さんと一緒だ。違うところの言えば目の色が西条さんが琥珀色だったのに対して古賀くんは翡翠色という点。


「古賀虎宇治こうじ。俺の能力は変身系と現象系。変身系は大型の虎に変化するやつ。大体変化後の身体能力の倍率は26倍、俊敏系の能力者に追いつけるくらいには早く動けるし並の怪力系よりも馬力がある。けど燃費が悪い。一回10分、クールタイムは30分」


んで。


「もう一つ、現象系。風を操る能力。ただ攻撃特化というより妨害系で、風圧だったり空気の塊を罠みたいに設置できるって感じやな。大きさは頑張ってこの教室くらい」

「……なるほど…」

「燃費は風系の例に漏れず悪い」

「……あれだね、古賀くんは銃火器って感じだね」

「そうやな、よくそう言われるわ」


灰田さん、すっごい考えてる。

相槌だったり見解を述べながらずっと机をみてる。すごいな。


「じゃあ次、僕かな。僕は米田健二けんじ。能力は回復系。ちょっと…僕のは特殊で、回復後に回復持続効果が付くんだ。回復力も高くて、腕の骨部分まで届いた傷も1分あれば治し切れる。あ、あと除菌作用というか病原体を吹き飛ばす効果もある。普段使いなら風邪予防にもなるよ」

「あらすごいわね健二! ちょっと私風邪を患う予感があるの! かけて!」

「え、あぁうん。どぞ」

「………。回復かけられソムリエとしては健二の回復はとても暖かいわね! ムースの中に放り込まれてる気分よ! 気持ちいいわね! ずっとしててほしいわ!」

「ずっとは無理…かな。てかもしかしてかけて欲しくて風邪ひく予感してるっていったの、蘇我さん」

「いえ! 本能的なものよ!」

「本能が言うなら違いないかな…」

「おい灰田。米田も適応力高そうだぞ」

「そうね…米田くんも蘇我さんにつけよっか」

「ハッピーセットね!」


そんな蘇我さんの発言に灰田さんは「付属のおもちゃは普通一個なんだけどね」と呟いた。


「「いやっおもちゃ扱いは酷くないかな!?」」

「そ、そうね。ごめんなさい、言葉が悪かったわ」

「いや強ち間違いでもないだろ。てか、後は華園だろ、能力紹介」

「あ、うん。ごめん。……俺は華園昇也。能力は……」


俺の能力。それは。


「みんなみたいに、能力の分類? みたいなの、知らないから言えないけど俺の能力は…えっと幻惑? 幻覚? 催眠? みたいな感じ」

「…相手に幻を見せたりするって事?」


灰田さんの考え。俺は少し違うと首を振る。


「んー、まぁ違わないんだけど、一応それも出来るけど、なんというか、基本は自分にかけてる」

「え…じ、自分に?」

「そう、自分に」


みんなすっごく不思議そうで、でも興味深げにこちらを覗く。


「僕初めて聞いたよ、幻惑系を自分にかけるって」

「使い方間違ってんのかと思ったけど普通に使えるとも言ってるし、使い方知らんわけでもなさそうよな」

「そうね…ちなみにどんな幻惑をかけてるの、自分に」

「赤裸々に語りなさい! 興味深いわ!」


催促される語り部。俺はどう言葉にしようか思い悩みつつ、でも正直に言い切った方が伝わると考えて思い切って言うことにした。


「は、恥ずかしいんだけど、えっと。まぁ幻惑というか催眠みたいな感じで。そん時の催眠が…その、自分は世界最強…? だったり、なんでもできる! みたいな万能感? を付与したり、部分的に使うときは例えば光の速さで動くって考えたり、恐怖を一切感じなくするとか、痛みを感じなくする……とか」

「え、ヤバなにそれすごくね」

「…光の速さで動くって考えたとき、本当に光の速さで動けるようになるの?」

「いや、そういう訳じゃない、かな。多分俺の肉体が追いつく限りって感じだと思う」

「つまり…肉体の限界、もしくはそれ以上を引き出す使い方…結構危ないというか使い所が限られそうだけど……。恐怖を感じなくしたり痛みを感じなくするってのが本当に痩せ我慢じゃないのなら使い所は要所にある………。ねぇ」

「えっ、はい」

「その光の速さで走った時に時間とか計測したことない? この木からあの木まで全力疾走するみたいな」


俺が住んでいたのは森の奥。正確な数字を測る機械なんてないわけで、数えるとしても自分の体内時計。けれどそれで言えばよくしていた。


「一応、ある、かな」

「どれくらい?」

「距離、が……えっと、ごめん。木が259本分ってことしかわからなくて…」

「木が259本分……。木をヒノキとして、一本の胸高直径を30センチにする。等間隔での配置と仮定。感覚幅は…木の成長が十全とする広さとして…えっと2.5m。なら…259本で…725.2m。約0.7km。…うん、大体距離は把握したわ。次は早さね」

「え、なにそれ凄い。え、灰田さん凄いかっこいいその頭の回転尊敬します師匠にさせてください」

「え、いや、やめてよ別に普通だから」

「いーや、灰田ぁ、お前は間違いなく頭がいい。俺も頭の回転は早くしたいし、師匠って呼ぶわ」

「し、師匠とか、私、全然、柄じゃないからっ!」

「抄子! あなたかわいいわね! 昼ごはんにプリン食べなさい!」

「蘇我さんのそれはなんなの!!」


顔と耳を真っ赤にして顔を伏せる灰田さん。蘇我さんはそんな灰田さんをどこか自慢げにみていた。


「それで! 速さは!」


伏せたままギャー! っと叫ぶ灰田さんの声はくぐもっている。


「速さは…いつも10秒くらい? ……あ、この前本気で計測したときは木とか岩の障害物降ってきたけどーー」

「降ってくるってどういう状況…?」


米田くんは不思議そうに想像していた。


「ーーそれも吹き飛ばしたりしながらで8秒とちょっとだった、かなぁ」

「…ねぇ、その速さで木とか岩に衝突して、怪我とかはなかったの」

「なかったなかった、無傷ですっ」

「…なるほどね…。にしても8秒ちょっとを8.2としても…毎秒88mでの移動。時速318km……」

「やっば。俺の立場ないやん」

「……ただの催眠ではなさそうだし…とんでもない怪力を付与できるだけじゃなくて脚力も凄い。…俊敏系に負けず劣らずで、恐らくレベル3手前の俊敏系じゃないとおいつけない…。加えて精神的な防衛本能を外せるし、そんな勢いで岩とか木にぶつかって無傷……何この能力本当に催眠で片付けられるの…」

「華園くん、凄い能力だね。僕ちょっと羨ましいかも」

「そ、そうですか…? へへ」


米田くんに褒められた。ちょっと嬉しい。


「流石よ昇也! 素晴らしい能力ね!」

「あ、ありがとう蘇我さんっ」


うん、褒められるのは誰とか関係なく嬉しいや!

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