第8話 報酬
8.報酬
鏡に向かって髪の毛に櫛を通すニールに肩に触れていて欲しいと言われた
「ところで今回の報酬はどうするの?」
「報酬がでるのか、僕にも分け前をもらえるってこと?」
「何言っているの、あなたがブンゲ倒したんじゃない」
「寂しいな、僕たちの初めての共同作業なのに。君にとって僕はその程度だったんだね」
「からかわないで、真面目な話よ。村長も私も見たとおりブンゲにとどめを刺したのはウメでしょう。ウメに報酬の権利があるんだよ」
鏡に映るニールは真剣そのものだった
「全部ニールに上げるよ。居候の宿代とこの国の言語を教えてもらう授業料の足しにしてもらえば・・・」
ニールは櫛を落として絶句した。やはりさっきの行動はニールに恐怖を与えたのだろう。この国の文化ではどう振る舞うのか分からないが、美女と一つ屋根の下で何もない訳はない。冷静に考えればこの国で生活するにはニールに頼るのが一番有効だが、そもそもニールにとって僕は異星人なのである。無理強いはできない。やはりギブズ村長に頼んでこの村で住み込みのできる仕事を探そう。この風呂にいつもは入れるならばそれでいい
「もらえないよ」
神妙な面持ちでニールは答える
「遠慮するなって、さっき調子に乗ったお詫びと、命の恩人への御礼だ。懐に収めてくれ」
ニールは首を振る
「そんな大金を独り占めしたら、命が幾つあっても足りないよ」
報酬が考えている以上に高額であることに気付かされた
「もしかしたら、ニールと仲良く温泉ごと吹っ飛ばされる可能性があったわけ?」
ニールの顔が緩んだ
「それはないよ、村長や村人にウメがブンゲ倒したところを見ているし・・・」
ニールから説明を受けた、フリダラを帝都まで運べば、国王から討伐の報償が出るそうだ。それよりフリダラが換金されて高額で引き取られる。フリダラは溶解されて色々な用途があるらしい。用途の方が興味があったが、話の腰を折るわけにも行かずその点は問わなかった。
冒険者達の業務形態を察した。ニールが痛む足でフリダラを抱えた事情が分かった。
フリダラは9日間放置すると魔物が再生される。再生させないためには溶解処理が必要である。小さいものはこの集落でも溶解できるがブンゲ程大きいものになると帝都でないと処理ができない。
アルベェが封印された後、この国で最大数の魔物を統率しているのは弟子のローゼである。ローゼはブンゲ奪取に動く可能性が極めて高い。幸いローゼの拠点がこの村から遠く、最短でも襲撃は6日目以降になる予想という。どうやらこの惑星には電話を初めとする無線通信は発明されていないようである。
帝都にはこの村から通常の行程で2日掛かる。伝令が明日にもブンゲを討ち取ったことを国王に伝え、輸送のための護衛部隊を派遣する。つまり4日後には護衛部隊に護られてこの村を出発することになる。そう考えるとローゼ魔物部隊の接触は帝都付近と想定される。帝都に近ければ帝都の軍隊の援護も期待できる。
報酬の問題で内輪もめするのは得策でないことは明らかだ。単独で動いていたブンゲがローゼの配下になることは厄介だ。次は今回のようなマグレは起きない
「どうだろうニール。ブンゲを倒したのは君のパーティとして、帝都までメンバーに加えてもらうことを提案したいのだが、リーダーのラザはこの提案を受け入れてくれるだろうか?」
ニールは微笑んだ
「いい提案だと思う。ラザは気さくな人だから多分了承してくれると思う」
(でも、おかしいだろう。このパーティには3人も魔女がいるって)
続けて報酬分配の提案をした。僕の案は報酬を7等分して
・ラザ
・ハイゼ
・ディラ
・ニール
・自分(ウメサン)
・この村に寄付
・パーティの運営費
に与える。
ニールは驚いた表情で
「私はその提案で異存がないけど、ウメはそれでいいの?」
僕は笑って
「全部ニールにあげてもいいんだけど、それじゃ困るんだろう?」
ニールは力強く頷くと、自分の荷物のところにいった。手には脇差しを持って戻って来た。
「これ、お父さんの形見なの。私、攻撃魔法が使えないから、これしか攻撃手段がないの。これ、帝都に着くまでウメが持っていて欲しい」
(これで帝都に戻るまで護って欲しいということだろうか?)
脇差しを渡されると、ニールは抱きついてきた。引き寄せる手は強く、全身は震えている
「ケクレ(日本語訳:怖い)」
発音の後に意味が遅れてくるので、緊張度が薄められる。この言葉が最初に覚えたこの国の言葉になった。
ニールにとってローゼは自分の故郷を滅ぼすことに直接加担した仇である。そして、彼女には直接倒す手段がないのだ
「大丈夫、僕はニールを置いて逃げたりしない」
ニールは泣いている。恐怖と怒りニールの涙に宿すことを計り知ることはできない。
ニールの涙が止まるまで、抱き合ったまま優しく髪を撫でた。
<つづく>
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