第5話 祖国と違う文化

 5.祖国と違う文化


「人からも吸引できた」

 ニールは微笑んでいる。しかしこれは恋愛の顔ではない。この星の恋愛事情はどうなっているのだろうか?

 この星と性欲と魔術は相関があるのかもしれない

「ニール、もしかしてInmoの時以外は性欲を魔術の燃料にしているってこと?」

 ニールは考え込んでいる

「確かにInmoの時は魔法が使えない。ウメの言う“性欲”というのがよく分からない」

「もしかして、ニールはInmoの時以外は恋愛対象として異性を意識していないとか」

 ニールはあごに手を当てて考えている

「恋愛対象?よく分からない言葉」

 日本の文化が全く当てはまらない。ニールが意図的に嘘を吐いているとも思えない

「例えば、いつも特定異性と一緒にいたいとか思うことはないかい?」

「ウメとは一緒に居たいよ」

 恋愛とは違う感じがする。それといつの間にか“ウメサン”から“ウメ”になっている

「僕の祖国では異性と一緒にお風呂に入ったり、唇を重ねたりすることは恋愛している相手にしかしないんだ」

「じゃあ、ニールとウメは恋愛だ」

 僕は頭を抱えてしまった

「でもね、でもね、ニール。僕の国ではそういうことをするのは1人だけが対象で、他の人にはしないんだよ。基本的に」

 ニールは笑った

「じゃあ、ウメ以外の人にはしないよ」

 上手く説明ができないのでもどかしい

「ニールは異性に身体を触られるの嫌じゃないの?」

「嫌よ」

 変な期待をした自分が恥ずかしい。湯船から見える青空は何万回も見た祖国の色と同じで僕の目に映っている。違う色ならば踏ん切りがついただろうに。それにしてもお腹が空いた

「ニールにも人の好き嫌いはあるだろう」

「あるよ」

「好きな人を触ったり、触れられたりしたいとは思わないの?」

「母親とか?」

「異性にそういう感情は起きないの?」

「自分の意思で積極的にはないかな」

 僕は遠くを見つめ深いため息をついた。やはり祖国の文化と大きく違う

「ニールは僕に見られて恥ずかしくないの?」

 ニールは不思議そうな顔をして

「全然恥ずかしくないよ」

 後々のこともあるし、正直に話すことにした

「僕のいた祖国では、ほぼ大多数が自分の裸は異性の恋愛対象にしか見せないんだ。恋愛をするとその人のためだけに時間を使うし、その人だけを思う。その人が別の人に思いが流れれば嫉妬するし、さっきみたいな口づけは恋愛対象でないとしないんだ」

 ニールは優しく微笑んだ

「由樹さんとはたくさんの時間を共有したのね」

 ニールが頭脳明晰なのに驚いた

「祖国に帰りたいの?」

 僕は笑った

「帰りたいが、多分無理だろう」

 今回の移動は考えられる仕組みとして、量子テレポーテーションだが、この星が魔法の世界なので自分の身体が奇跡的に再生された、地球に戻ったときに再生する仕組みは得られないと思う。シュレーディンガーの方程式で計算すると量子レベルでは1000光年先まで一瞬で移動は可能だが、人体が再生されるとは限らない。

 この星で生きることを考えることが最も適切な選択なのだ。たとえそれがニールの魔法の燃料を生産する人間牧場の家畜だとしても。

<つづく>

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