第4話 だれかさんがみつけた

 4.だれかさんがみつけた


 だれかさんが

 だれかさんがみつけた

 小さい秋

 小さい秋みつけた


 ニールが驚いた顔で僕を見ている

「僕の故郷の歌、ニールの故郷の歌に似ているね」

 湯船から上がって頭を洗い、鏡に映る自分の顔を見た。随分無精髭が伸びている。紐に繋がれた短刀があった、きっと髭を剃るのに使う道具だろう。石鹸を泡立てて顔に埋めていく。

 鏡に美しい姿が映る。

 その美しい腕は僕の左肩に手を当てると隣に座る。

「その短刀、私の村で造ったんだよ」

「刀鍛冶の村か」

「炭を焼く匂いが村の思い出、空気はきれいじゃなかった」

 追憶を語るニールの顔は穏やかだ。


 ニールの父は山砂鉄を採掘する鉱夫でニールの母は鍛冶村の出身だった。鍛冶村は鍛冶職人の技術だけでなく、魔力に優れた血統。父の血統は鉱脈を見つけ出す能力に長けている。魔力はさほど強くないが知能が高い。相手の言葉を読む能力は双方に持ち合わせていない。2人の血統が合わさって生まれたのではないかという。

 

 この国では民族性が強く、単民族で種族を残すのが主流で、ニールのような混血は珍しいという。もっとも発情期と賢者期があるならば、他民族と積極的に交流することはないのかも知れない。

 

 民族の違いは髪の毛の色に反映されるらしく、ニールと父は黒、黒髪は知能の高い血統だが、紫色の髪がこの世界では最も高い知能を有しているという。母は青だったが、襲撃の一件依頼全て白髪になったという。

 

 アルベェ封印後も配下の残党が男女見境なく青髪を襲ったので、この国における青髪はは20人程度しか残っていない状況と聞いた。生き残った者は髪を隠すか髪を染めて難を逃れている。

 

 ニールの復讐に対する執念は理解できると考えた。そんなことを考えていると手元が狂って顔を切ってしまった。折角なので回復魔法を試してみようと思った。回想を止めて心配そうにこちらを覗き込むニールに回復魔法を試すことを勧めた。

 

 ニールに先程の般若心経を教えると、慣れない口調で言葉を真似た。


 あっさり傷が戻った。戻ったのは傷だけではなかったが。

 ニールは飛び上がって喜んだ

「密教って効果があるんだ」

 背中に心地よい感触があった。ニールが背中に抱きついて泣いている。繁殖期ではないニールには特別な出来事ではないだろうが、四六時中繁殖期の僕には我慢の限界だった。しかしニールを失えばこの国での会話の手段を失ってしまう。あの地獄のような3日間がよみがえる。ニールを背負ったまま湯船に飛び込んだ。


 溺れかけたニールの顔を水面の上に上げると、左右に首を振ってこの上ない笑顔を返した

「さっきのお返し?」

 小川で季節外れの水浴びした事を言っているのだろうか、凄く楽しそうだ。

 しかし言わねばならない

「ニール。僕の故郷の星は発情期と賢者期がないんだ」

 真剣な告白にもニールは笑顔のままだった

「”にんしょ”みたいなんだ」

「にんしょ?なんだいそれは」

 ニールは僕の鼻を軽く人差し指で触れて

「ずっと、発情期の動物。帝都に戻る道で出会えると思うよ」

 ニールは僕と一緒に帝都に戻るらしい

「僕はこんな状態で一緒にいたら繁殖期のようにニールを押し倒してしまうかもしれない」

 ニールは僕の頬に両手を添えると顔を近づけてきた

「ニール・・・」

 そのまま唇を重ねた。制御が利かない。そのままニールの背中に手を回し強く引き寄せた。ニールの舌が生き物のように口の中に滑り込む。ニールの腰に手を回そうとしたとき異変に気付いた。

 性欲が吸い取られている。自分が口づけだけで、事を終えた賢者のようになっていることに気付いた。

<つづく>

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