津木花咲姫の突撃! 知流君家のご内見!

束白心吏

本編

「私達の愛の巣をつくりませんか!」


 新年を迎え早数ヶ月。今年度高3の俺達は、志望校にも合格して、自由登校となったこの頃。俺の恋人はそんなことを言いながら突然家にやってきた。


「取り敢えず、誰の入れ知恵で?」

「私の! 優秀な頭脳が弾き出しましたね!」


 うん。ガチ優秀故に否定しづらい言い方やめーや。

 取り敢えず家にお招きして――居間に通してお茶を出せば、先の続きと言わんばかりに彼女の口は回り出す。


「私達は来年度……数か月後には大学生です」

「近い大学に入れてよかったよなぁ」

「お陰で私は知流ともる君のお家から通えますから一石二鳥ですよね」

津木華つきはなさん家はもっと近いですがね?」

「え? 突き放さないからもっと近くに寄れ?」

「確かに突き放さないけどそんなことは言ってないね!?」


 というか既視感のあるボケなんですがね?

 某ヒト型決戦兵器で巨大な生物と戦う作品の父親みたいなポーズをしながら、咲姫さきは話を締め括らんと言葉を紡ぐ。


「まあそんな訳で、来年度から私が住むお家の見学――つまり内見ですね! やりましょう!」

「内見ですね! じゃないね。見学も何も何度も来てるし知ってるよね」

「いいえ。まだ知流君の部屋にあるエッチな本――じゃなくて、知流君の性典バイブルを見つけてないので内見の余地はあります!」

「内見の余地って何!? というか本音を隠しきれてないからね!?」


 ツッコミどころが多すぎてどっから言えばいいのやら……あと俺まだ未成年だからそういうのは持ってません! あ、そういえば成人年齢変わったから成人か。しかし成人雑誌とかって買えるんかね?


「……というか、咲姫は何度も俺ん家来てるし、俺の部屋に泊まることもあるよな?」

「ありますね。しかし知流君の部屋を探索したことはないですよ?」

「てっきりもう探索してるもんかと」

「酷い! そんなに私は無遠慮な人間に見えますか!」

「うん。割と」


 身内だけの場所だととことんダメダメになるというか……学校だと優等生で通ってるけど、俺の家ではこんな。プライベートゾーンがゼロになる。内弁慶? とはまた少し違うが、ニュアンス的には似たような感じだと思ってる。

 それを無遠慮と言うと言葉が強い気がするが……咲姫は悲しそうな顔をして顔を少し背ける。


「酷く傷つきました……賠償を要求します」

「内容によるなぁ」

「では今日からずっと同じ布団で寝ましょう」

「却下」

「じゃあ知流君の部屋の探索でいいです」

「最初からそれが目的だよね?」


 いや別にいいけど……見られて困るものはないし。

 そんなことを知って知らずか、咲姫は一転、瞳をキラキラさせてという表現がぴったり合うくらいに元気になり、「ではレッツ探索ー!」とあっという間にリビングを飛び出した。


「……」


 俺は自分用に出したお茶を飲む。

 これ飲んだら様子見に行こ。


■■■■


「突撃! 知流君家のご内見!」

「お昼は一緒に作るんじゃなかったの?」

「知流君も結構知ってますよね。若干古いネタ」

「ふ、古いかなぁ?」


 そりゃあもうひと昔以上前にはなるんだろうけど……最近の流行の入れ替わり速度を踏まえるとまあ古いに入るかー。


「お昼は一緒に作りましょう! その前に知流君の部屋の探索です」

「と言っても、結構雑多だぞ? 何を探すか目的は決めた方がいいと……いや、まあいっか」

「? 探すはもちろん知流君の性癖が分かる本やそれに類する物ですね!」

「もはや隠す気すらなくなってきてるね!?」

「でもこれくらい清々しい方が知流君的にはいいですよね?」

「隠されるよりかはね! ――だけど、俺の性癖ねぇ」


 自分で言うのもアレだけど、部屋にあるものからそういうのが見つかるかどうかは俺も分からない。

 俺の部屋は衝動的に買ったものが多くある。将棋盤とか咲姫が来るようになるまで埃を被ってたし、一回二回読んだだけで本棚に眠ってる漫画や、ジャケ買いしたCDも多くある。「あ、これいいな」とティンときたものを衝動買いするって悪癖の集大成がこの部屋なのだ。


「知ってましたけど、知流君って多趣味なのにお部屋奇麗ですよね」


 本棚をつーっと指先でなぞりながら咲姫はいう。


「そりゃあ奇麗な方が落ち着くしな」

「埃一つないじゃないですか」

「昨日掃除したばっかだからなぁ」

「そういうところ少し感心しませんけど、好きですよ」


 何故に。なお週一で掃除するようにしてる。

 次いで咲姫はクローゼットを開いた。


「ここは知流君の服しか入ってなさそうですね。大半シャツですけど」

「シャツは結構一目ぼれが多いんだよなぁ」

「やっぱ捨てていいですか?」

「なんで!?」


 突然の手のひら返しに思わず叫んでしまった。

 いかん。平日昼間とはいえ近所迷惑になる。少し冷静になろう。

 驚き荒ぶった心を落ち着けるために一度深呼吸をすると、咲姫は俺の方に向き直って「いいですか?」と真剣な様子で語り始める。


「私は知流君が大好きです」

「俺も咲姫が大好きです」

「――許します!」

「まるで意味がわかりませんがね!?」

「知流君が普段言わない『大好き』を聴けたので、知流君の浮気が発覚しても万事許せそうです」

「しないし浮気はしてたら俺自身が俺を許せないし許さんでいいです。あと普段なら照れるけど、想いを伝えられたらこちらも伝え返すのが礼儀ってもんだろ?」

「そんな礼儀は聞いたことないですね――ではなく。まあ私は知流君にぞっこんラブな訳です」

「ほいほい」

「そしてそんな殿方から一目ぼれなんて言葉が私以外のモノに使われたら嫉妬の炎に駆られるのもさだめ……」

「むせそう……じゃなくて、それはすまん」


 言い方考えなかった俺も悪いなこれ。


「分かればよろしい。だけど傷ついたので賠償を求めていいでしょうか」

「なんか既視感あるんですが……まあさっきのは俺が悪いし、何でもとは言えないけど、出来る範囲でなら」

「む、手ごわい……ですがまあいいでしょう。というわけで性癖を教えてください」

「うん。というわけでじゃないな」


 確かにそれ目的で俺の部屋を内見(と言う名の探索)をしてた訳だけども。


「あれ、駄目でした?」


 困った様子でそう聞いてくる咲姫に、俺は首を横に振ってそれを否定する。


「違う。んー、性癖ってよく分からないんだよなぁ」

「え? 巨乳好きとか年下好きとか、そんな感じでいいんですよ?」

「それだと……好きになったものが好き、が一番適当かな」

「む、言い逃れですか」

「そうなるよなぁ」


 正直、これは本当だからなぁ。だけど説明しづらいというか、言語化がとても難しいんだ。

 そんな俺の困惑が伝わったのか、「別に信じてない訳じゃないですよ」とフォローが飛んできた。


「ただ、それとは別に隠してるんじゃないかと疑ってるだけで」

「隠してないって」

「むぅ……でも、恋人としては少し怖いんですからね? いつか私より知流君のお眼鏡に合う人が着て乗り換えられるんじゃないかって」

「そりゃあない」


 少し食い気味過ぎたせいか、咲姫から疑われるような視線を受けるけど……ここは断言させてもらおう。


「俺は咲姫が好きだし、俺もそう言う目で咲姫を見ることはある。今だって平静を装えてるかは怪しいけど、心臓がすげー早鐘打ってるんだぜ?」


 俺は咲姫の手を少しだけ強引に心臓に当てさせる。

 服越しとはいえ、突っ立てる今でもドクドクと音が聞こえるんだ。咲姫にもそれが伝わったのか「……とっても早い」と小さく呟いた。


「言葉じゃ、上手く伝えられないけどさ、咲姫の好きなところは沢山あるんだ。真面目なところに反して、家じゃ結構ダラダラに溶けてるところとか、少し抜けてるところとか――っ!」


 不意に突然、口元を手で塞がれる。心なしか咲姫の顔は先程までより赤みを帯びているようにも見える。


「……伝わってますよ。伝わりました。知流君の言葉なら、尚更です」


 そう言って咲姫は口を塞ぐのをやめて俺に抱き着き、胸元に頭をぐりぐりしてくる。


「ズルいです。知流君はズルすぎます」

「咲姫も十分ズルいって」

「なら、似た者同士ってことですね」

「違いない」


 そう言って笑いあっていると、「ぐぅ~」と腹の音がなった。

 時計を見ればそろそろ正午も近い。


「ふふ。お昼、そろそろ作りましょうか」

「……だな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

津木花咲姫の突撃! 知流君家のご内見! 束白心吏 @ShiYu050766

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ