思わぬ来客(1)
~水曜日の放課後・優希の家~
優希はいつも通り家に入ろうと鍵を手に取り、鍵穴に差し込む。
ただ不思議と鍵が空いた音はしなかった。
「もしかして今日1日鍵閉め忘れたまま学校行ってたのかな?」
閉め忘れたものだと思いドアノブに手をかけてドアを開けた瞬間、久しぶりに聞く声がした。
「お帰り、優希。前に直接会ったのは春休みの時だったから丁度2ヶ月と言ったところかな。元気にしてた?」
目の前にいたのはお母さんだった。
「流石に急すぎない?一言連絡入れてくれればもうちょっと早く帰ってきたのに。」
別に家に来るのは問題ないのだが、連絡もなしに突然来るのは流石にどうなのだろうか?
「ごめんね~急遽ここの近くのスタジオで撮影があったから丁度いいし、掃除してるかの抜き打ちチェックでもしようかとしたんだけど…綺麗で驚いたわ。」
お母さんは昔の優希がどれだけ掃除が苦手を痛いほどよくわかっているからこそ、この綺麗さには驚きを隠せなかったのであろう。
「なんか整理の仕方とか、家具の配置的に優希のやりそうな感じじゃないんだけど…もしかして彼女できたの?」
もはや家に来た人全員に言われる定型文である。
(そんなに皆僕に彼女出来ると思ってるの?)
「彼女なんて居ないよ?ちょっと前に友達と勉強会やった後に片付けを手伝ってもらったんだよ。」
(うちのお母さんは僕が住んでた町をでて一人暮らしをした理由も勿論知ってるし、その影響で人と関わることがあまり得意でないことも知ってるはずなのにな。)
本当のことを言うと色々と追及してきそうな気がするので少し嘘をついて何とかするしかない。
「そうだったのね。それにしても流石私の子ね、きちんと自炊もしてるし作り置きもしているのね偉いわ。」
一通りまともな生活をしていることを確認することができたからか安心したようだった。
「今日は急に上がらせてもらったし、夜は作らせて貰うわよ。でも、優希の作ったご飯も食べてみたいな。」
という訳で何故か今キッチンに2人で立っているのである。
2人で立っていても全くもって窮屈でないキッチンなのでいつも通り作業ができるのが幸いではあるが。
「この家にしてやっぱり良かったわ。キッチンも広いし調理器具も充実してるし。」
お母さんはキッチンには料理研究家ということもあってこだわりが強い。そんな彼女がこうやって褒めていると言うことは相当設備がいいのだろう。
お母さんは豚汁、優希はハンバーグを作ることにした。
優希がハンバーグを選んだのはもう桜のせいで作り慣れているのと、材料があったからである。
(今日は奇跡的にも春宮さんが夜ご飯要らないと言ってくれて助かった…もし来てたらまた大変なことになってた気がするな。)
後にこれがまたフラグとなってしまうのであったのだが、今の優希には知る由もなかった。
「流石料理を仕事にしていることはあるね。すごい見栄えがいいし、美味しいし。」
やっぱりお母さんには勝てる気が微塵もしないし、勝負にもならない気がした。
「優希も大分と自炊になれたのね。昔より手際もいいし、全然悪くないというか上手くなったわね。」
自分も料理が上手くなっていたらしい。全く気づかなかったけど。
こうして夜は案外早く過ぎ去って言ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます