思わぬ来客(2)
夜は更け、時計は20時近くをさしていた。
「もうこんな時間なのね。私は明日も近くのスタジオで撮影あるし、そろそろ帰らせてもらうわね。今日は久しぶりに会えてよかったわ。」
お母さんはそう言うと玄関に向かって歩いていった。
その時、「ガシャッ」と家のドアの鍵が開く音がした。
(この流れまさか…あの子タイミングどれだけ悪いの?)
優希は別に親に桜が来ているという事実を隠したい訳では無いのだが、何かと説明するのが面倒だから隠し通せた方が楽なのだ。
ドアが開くとお母さんと桜の目が合ったように見えて次の瞬間には
「あっ…ごめんなさい部屋間違えましたー!」
と言って急いでその場から逃げ去っていった。
(マジですか?まだ前の勉強会の時から1ヶ月も経ってないのにまたこうなるの…?これから「バッドタイミングの春宮さん」とでも言おうかな。って今はそんなことを考えるよりも…)
「あの子って誰なの?でもどこかで見たことあるような…」
流石にこういう状況になってしまったら聞かれるのは当然のことであろう。
(そう言えば春宮さん前にお母さんの料理教室受けてたって言ってたような…そうかそれを口実にすれば上手くごまかせるかも。)
「あの子は春宮桜さんで、確か前に料理教室受けたことあるって言ってたよ?その時に僕のこと聞いたらしくて学校で声かけられてからたまに簡単な料理教えてるよ。」
「あっ、桜ちゃんね!確か数年前に来てたから見たことあった気がしたのね。あの子ったら最初は包丁もまともに持てなくて上下反対にしてたり、一つ一つの工程が全て危なかったりしたしヒヤッとさせられたけど可愛かったわね。」
事実からいい感じにお母さんを納得させるような理由を生み出すことができて安堵した一方、何故今日春宮さんがうちに来たのかは分からないままであった。
「そうだ私暫くはここの近くの撮影だから駅の近くのホテルに泊まってるのよ。だから次桜さんが来る時には私も一緒に教えましょうか?」
ハイテンションになっている理由がわからなかったがしばらくして優希は思い出す。
(そういえばうちは両親とも可愛いものに目が無いんだったわ。春宮さんのこと気に入ったんだろうな。)
流石に断るわけにもいかず渋々了承をしたが、一応春宮さんと話し合うことができるように次にくるのは今週の土曜日という体にしておいた。
「そうしたらまた来週の土曜日にお邪魔するわね。」
そう言ってお母さんは優希の家を後にしたのであった。
「ふぅー、これは明日春宮さんが来た時に相談するしかないか。でも彼女思った以上に料理できなそうだな。」
包丁の上下を間違える人なんてまさか居ないだろうと思っていたが故に驚きもかなり大きかった優希は大きな溜息を吐いたのであった。
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一方その頃の桜は…
「私って本当タイミング悪いわね。まさか杏子さんがいるとは思ってなかったから走って逃げてきてしまったわ。」
本人もタイミングの悪さは自覚しているようであった。
自分の部屋で夜長い間いるのはもうしばらくぶりだったので少し落ち着かない感じがしたのであった。
「少し前からずっと優希君と夜ご飯食べて話すことが毎日の日課みたいなことだったから今日は不思議ですね。」
(私はこのままでいいんでしょうか…?
私は毎週優希君の部屋を掃除を手伝ったり、生活習慣を矯正したりしていますが、最近は優希君自身が成長していますし…いずれは私はただ単に優希君のお荷物になってしまって迷惑をかけるだけになってしまいますよね……)
「私はどうしたらいいのでしょうか?」
悩みで頭がいっぱいになってしまった桜なのであった。
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