第42話 番外編2 誕生日プレゼント③~しんかの買い物~
「えっ⁉ しんか調理器具持ってないの?」
「うん」
僕とつむじの選んだ服を着たしんかと話しながら、三人でショッピングモールを回るうちに、彼女がどんな生活を送っているのかが少しずつ明らかになる。
彼女は最低限の生活必需品は所有していて、衣服類は生活に困らない程度は所持しているらしい。
……ただし。
調理器具の類は、炊飯器すら持っていなかった。
「ご飯とかはどうしてたの?」
「夜は寮の食堂」
「朝昼は?」
「……パン」
つむじが矢継ぎ早に質問していく。
「栄養は?」
「錠剤」
……極端すぎる。
効率重視なのは、悪い事ではないとはいえ、それにも限度はあるだろうに。
でも、それならと僕の幼馴染は続ける。
「きょうえいの手作りご飯は美味しかったんじゃない?」
「うん。すごく」
「しんかのためならいくらでも作るよ!」
……こんな風に褒めてもらえるなら、いくらでも作りたいなあ。
そう思ってしまう辺り、我ながらチョロい。
僕の言葉に、赤の少女の頬も緩んでいる。
「ありがとう……私にも、料理とか家事とか
「もちろん!」
……とは言うものの、さすがに毎日女子寮を行き来するわけにはいかないけどね!
寮の場所は学院内にある。
そこに僕が通い詰めるとなると目立つに違いない。
しんかの部屋に僕が入り浸っていると噂が流れれば
……さすがにまだ死にたくない。
そんな他愛もない事を考えながら、僕にとって使いやすい調理器具や家事の道具などを紹介していくと、しんかは片っ端から購入していく。
「えっと、しんか大丈夫なの?」
「? きょうえいのおすすめなら買う」
しんかの言葉に、つむじはニヤリと笑って、
「それならしんか! これおすすめだよ!」
「つむじのは不安」
「酷くない⁉」
断られる。
つむじに家事は期待できないことを、しんかは本能で理解しているらしい。
素晴らしい嗅覚だ。
「結構買ってるけどお金は大丈夫なの?」
「私は特待生」
……そうだ。しんかは学年主席だった。
央成学院は国立の機関。
在籍し、国の代表として活動することを前提として、給金も出ている。
僕もつむじも、他の「は組」の面々も。
毎月給金を貰って、様々な活動に従事している。
その上で、学年主席――特待生ともなれば、貰える額は
こうして仲良くしていると、つい忘れてしまいそうになるけど、彼女は勉強も実技も好成績の才色兼備少女だった。
「きょうえいも見習わなきゃね!」
ここぞとばかりに僕をからかうつむじ。
彼女も日頃の言動のせいで想像がつきにくいけど、赤の少女に負けず劣らず文武両道だ。
……おそらくだが――
「つむじこそ、しんかの性格を見習わないとね!」
互いににらみ合う。
そんな僕らに、しんかは尋ねる。
「きょうえいはどうして家事ができるの?」
「僕は一人暮らし歴が長いからね」
中等学校時代から、ずっと一人暮らしをしているし。
「独り身歴の方が長いけどね!」
余計な茶々が入る。
……本当に残念だ。
しんかがいなければ、この場で名誉をかけた決闘を挑んでいたのに。
「二人ともゲームは好き?」
生活用具を粗方揃えた後、しんかがこんなことを言い始めた。
誕生会でやったゲームが、気に入ったのかもしれない。
「僕は好きだよ」
「私も!」
「それなら私も買う」
しんかは
一ヶ月ほどの付き合いだけど、彼女の成長は胸に来るものがある。
「しんか……大きくなって」
幼馴染に至っては実際に泣いている。
「つむじに育てられてない」
「もう、照れちゃって!」
うりうりと赤の少女の柔らかそうな頬を、空色の少女が人差し指でつつく。
女の子二人の気の置けないやり取りは僕の心の癒しだ。
というかそもそもの話。
ゾワリ
そこまで考えて、急に湧き出す危機感。
少女たちとここまで楽しく過ごしてきてしまったが――この現場を見られていたら、僕に未来はない。
風の精霊で、周囲の気配を探る。
……良かった。
今のところ
「きょうえい、何してるの? 行くよ!」
「きょうえい?」
「……ああ、ごめんよ」
女子二人の呼びかけに不安を抱きながら、僕は二人についていく。
ショッピングモールの中は人が多い。
僕の生存のためにも、警戒しながら進まなければならない。
……もしも
そんな覚悟を胸に、僕らの買い物は進んでいくのであった。
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