第39話 番外編1 打ち上げ後編~名前~
人生最良の日。
大げさかもしれないけど、今日はそうかもしれない。
命を懸けて戦ってくれた。
その感謝を私は決して忘れない。
打ち上げは初めて尽くしだ。
初めて教室の大画面でゲームをやった。
操作するのは難しかった。
左右の動きに思わず身体も動いてしまったり、自分が戦っているわけでもないのに思わず「痛い」と言ってしまったり。
そんな初心者の私を、皆温かく受け入れてくれて……楽しかった。
男子だけの混戦の時は――
「乱闘ルールだ!」
という一言を切っ掛けに、精霊を使っての
皆と一緒にケーキを食べた。
甘いものは元々嫌いじゃなかったけど、皆と食べるケーキは一層甘くて美味しかった。
ロシアンシューというゲームでは、黒白君が顔を真っ赤にしていて心配になったけどやはり楽しかった。
女の子たちとお話をした。
日常生活の話。
食べ物の話。
趣味の話。
好きな人の質問は難しかった。
でも皆のお話を聞くのは楽しかった。
つむじが少し困った表情をしてたのが可愛かった。
男の子たちとはあまり話せなかったけど、会の最後にお礼を言ったら――
「
「誰か、気に食わないやつでも暗殺しましょうか⁉」
「
と冗談を言っていて面白かった。
会の後片付けも終わり、夕方。
今日一日が幸せすぎて、終わってしまうのが少し寂しい。
本当に一生分の幸せを味わったんじゃないかと、少し不安になる。
「大袈裟だよ、しんか」
太陽のような笑顔。
彼女のその顔を見ていると、心が晴れていくのを感じる。
……叩かれるのは、少し痛いけど。
「これからも毎日私たち一緒でしょ?
明日はもっと楽しくなるし、明後日はもっともっと楽しいよ!」
「……うん」
彼女の軽やかな言葉。
その言葉通りになるのだろうか。
……なって欲しい。
そう考えてすぐに、
……いや、違う。
考え直す。
「そういえば……黒白君は?」
「ああきょうえいは……逃げてるよ」
彼女は、どこか遠いところを見るような表情だ。
よくよく見ると、教室内に男の子たちはいない。
男子全員で、鬼ごっこでもしているのかもしれない。
昨日の死闘もあったのに、本当に元気だ。
「まあ……ある意味鬼ごっこだね」
「ある意味?」
「1人を男子全員が追うってところが、普通とは違うけど」
それは――鬼ごっこなのだろうか?
黒白君たちの遊びは、斬新でよく分からない。
「きょうえいに、何か用でもあったの?」
……あるかないかで言えばある。
用という程の事でも、ないかもしれないが。
今日はいい日。
それは間違いない。
でも――もっといい日にしたい。
……どうしよう。
昨日生き延びたことで……私は貪欲になってしまったのかもしれない。
せっかく幸せな日だから。
もっと幸せな日に――最高に幸せな日にしたいのだ。
「つむじ、私……黒白君ともっと仲良くなりたい」
言葉の続きを待つ彼女の姿は、慈愛に満ちている。
まるで妹を見守る姉のようだ。
「だから……その……黒白君を名前で呼んでみたい」
緊張の中で告げた言葉は、私たちの間で響いて、
「――いいね! きょうえいも喜ぶと思うよ!」
返るのは、即答と弾けるような笑顔。
それににつられて、こちらも笑顔になる。
「どうする? 私で練習しとく?」
「それは……いい。
それより、黒白君の居場所を教えて欲しい」
「
……潜伏?
私の疑問を差し置いて、つむじは端末を取り出すと、すぐさま黒白君へと連絡を入れる。
指の動きが見えないくらい早い。
彼女がメッセージを送信すると、即座に返信が来た。
「ああ……なるほどね。
今、きょうえいは――」
「ありがとう、つむじ。私、行ってくる」
「いってらっしゃい!
頑張っておいで! 万が一断られたら、私が鉄槌を降してやるから!」
元気に手を振るつむじ。
私の大切な友だちは、可愛くて格好良い。
「あれ、火光さんどうしたの?」
黒白君は、塔の訓練室にいた。
黒髪は砂や土に塗れ、制服は所々くたびれている。
打ち上げで遊んだ日だけど、ひょっとすると訓練をしていたのかもしれない。
彼の生真面目さには頭が下がる。
「黒白君を探してた」
「まさか火光さん
……亡き者?
妙な勘違いをされている気がする。
「そうじゃない」
私の答えに対して、よかったと息をつく黒白君。
……鬼ごっこの新しい用語だろうか。
遊びの鬼ごっこや訓練にも本気で取り組んでいるのが、彼らの強さの秘訣なのかもしれない。
「じゃあ何か用かな?
居場所はつむじから聞いたの?」
「うん」
用は勿論ある。
でもなぜだろう。
彼の顔をまともに見ることができない。
「黒白君……これまでありがとう」
「やっぱり僕を――――!」
「これからもよろしく」
「……こちらこそ」
彼はいつの間にか警戒態勢を取っている。
私の緊張が彼へと伝わってしまったのかもしれない。
「えっと……」
言葉を口にしようとして、詰まる。
言いたいことはいくらでもあるはずなのに、言葉にできない自身がもどかしい。
彼には、お礼をいくら言っても言い足りないのだ。
一緒に楽しく過ごした。
助けてもらった。
沢山の感謝が私の中にある。
言い尽くせない程の気持ちが。
「……そんな黒白君にお願いがある」
結局私は、自身の欲求を優先した。
やりたいことを、望む様に。
だって、折角生き延びたのだから。
私の鼓動がより早まる。
魔人と戦った時とは、違う種類の胸の高鳴り。
「私たちは友だち?」
「比翼連理」を解放した時に結んだ契約。
でもそんなものがなくてもきっと――彼は友だちだと言ってくれたはずだ。
「うん! もちろんだよ!」
躊躇いもなく――迷いもない答え。
そんな彼の気持ちがとても嬉しい。
「つむじと私も友だち」
「うん、仲いいよね!」
我ながらたどたどしい。
だけど――今日をもっといい日にしたいから。
勇気を出して思いを伝える。
「……私も
彼の顔を見るのが怖い。
……断られたらどうしよう。
少しの沈黙。
顔をあげると、黒白君の顔は真っ赤になっていた。
「も、もちろんいいに決まってるよ!」
……良かった。
安心が私を満たす。
彼の――きょうえいの顔は恥ずかしくて見られないけど。
それと――
「私のこともしんかって呼んで欲しい」
「ええ⁉」
彼の表情は驚きを形作る。
……これはダメだっただろうか?
不安に駆られる。
ダメにしても、嫌では……ないであって欲しいけど。
「い……いいよ! 良いに決まってるよ!」
嬉しい。
「それじゃあ、教室に戻ろうか! ……しんか!」
「うん。戻ろう……きょうえい」
本当に嬉しい。
嬉しさ余って彼の手を引く。
魔人と戦った時よりも熱い私の手。
ああ本当に……今日は最高の日だ。
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