第37話 番外編1 打ち上げ前編~クラス役員決定戦の結果~

「ふふふ……はっはっは!」


 役員決定戦も終わり、その帰り道――高笑いをする存在があった。


 仁王立ち。

 そして、心からの笑み。

 嬉しさのあまり、勝手に溢れてしまっているのだろう。


 役員決定戦で着ていた体育着を着替え、長袖黒セーラー型冬季制服に身を包む姿は清楚にして可憐。

 肩口までの長さの髪は空色で、彼女が笑うたびに揺れる。


 ただ傍から見ると――気味が悪い。


 ……理由わけを聞くべきだろうか。


 だけど聞きたくない。

 こちらをチラチラ見ているのが、猶更聞く気を損なわせる。


 そんな彼女に話しかける影が1つ。

 

つむじ・・・、どうしたの?」


 火光かこうさんだ。


 彼女も又、長袖黒セーラー型制服に着替えている。

 所々に激戦とその手当ての後はあるものの、彼女の可愛らしさは損なわない。


 友人想い。

 空気を読む。

 大いに良いことだと思う。


 ただ紅蓮の少女彼女失敗ミスは――

 つむじが構って欲しいだけだというのを、分かっていなかった点のみ。


「しんか、よくぞ聞いてくれたね!

 これを見て欲しい!」


 手元の通信端末を僕たち・・・にかざす。

 ふんぞり返った拍子に、胸元の白い紐リボンが凛と揺れる。


「役員決定戦の結果予想をしていたのさ!」


「ああ――誰が勝つかってやつ?」


 負け抜けたクラスメイトで、誰が役員になるかを予想するゲームが開かれていたのは、もちろん知っている。


 賞品はPポイント

 参加料をクラスメイトから集め、勝者へと分配する形となっているらしい。


 その結果が彼女の端末の画面に出ている。

 

「そうそれ! 二人のおかげで稼が・・・・・・・・・せてもらったよ・・・・・・・

 ふふふふ――はっはっはっは!」


 つむじは笑いが止まらない様子だ。


「怖いからやめなよ」


 放課後一人で不気味に笑う少女。

 学校の七不思議にありそうだ。

 幼馴染でなければ通報していたかもしれない。


 けれどこいつつむじの最も怖ろしい点は――役員決定戦の結果を見事に当てたことだ。


 つむじの洞察力の高さに舌を巻く。

 いや、正直もっと役に立つ使い方をしろよと思わないでもないけど。

 

「つむじ……私たちが引き分ける・・・・・こと、わかってたの?」


 互角……すなわち引き分け。

 

 その結果を当てたというのか……この幼馴染は。


 精霊繋装「比翼連理」。

 その片割れである「比連」と「翼理」を互いに握り合った僕らの戦いは熾烈を極めた。

 

 実力が拮抗する中、最後は二人共動けなくなり――クラス役員決定戦は終了。


 クラス委員長の権限は、僕と火光さん二人ともが保持することとなった。


 ……まさか「比翼連理」を分かち合ったように、クラス役員も分かち合うことになるなんて。


 少し悔しい思いはある。


 まあ……「比翼連理」の半身である「翼理」を使って、ようやく届いた結果なので、僕が勝ったとしても納得はいかなかったかもしれない。


 そういう意味では、個人的にこの結果には満足している。


 おかげで僕の「日域国の王になる」という夢も途絶えていない。




 それにしても――


「はあ⁉ どうしてこんなに貰えてるのさ⁉」


 掲げられたつむじの通信端末。

 そこには大量のPポイントが加算されている。

 いや、これだけあれば学院生活3年間、優雅に過ごせるだろってくらいのポイント量だ。


「この結果の予想を当てたのが私一人だったからね!

 ふっははははははは!」


「なるほど……」


 予想を当てたつむじはさて置き――クラスメイトたちがどう賭けたのかは少し気になる。


「ちなみに、賭けの内訳は?」


「ええっと――」


 火光さんが実力的に抜けているのは、クラスメイトたちもわかっていたはずだ。

 そうなると、火光さんの勝利に賭けた人も多いだろう。

 しかし、男子も一応協力関係にあったわけだし、僕にも多少賭けてくれた人が――


「うん。しんかの勝ちが22票で、引き分けが私の1票」


 クラスメイトは25人。僕と火光さんは戦っていたわけだから――


「誰も僕の勝ちを予想していないじゃないか⁉ どうなってるんだ!」


 ……それって賭けは成立してないんじゃないの⁉


「おかげで倍率がえらいことになったよ」


 その向かい風の中、僕が引き分けることに賭けてくれたつむじ。

 ひょっとすると、彼女だけは僕の実力を信じてくれていたのかもしれない。


「つむじ……信じてくれてありがとう」


「うん……私、信じてたよ」


 女神のような微笑み。

 先程のバカ笑いが嘘のような上品さだ。

 永遠にそのままでいて欲しい。


しんかは優しいから・・・・・・・・・、卑怯なきょうえいにも手加減してくれると思ってたよ!」


 僕への信頼なんて皆無だった。





「このバカ幼馴染!

 そこは長年の付き合いから、僕に賭けるべきところだろ⁉」


「日頃の行いを考えて、きょうえいに賭けるバカがどこにいるのさ!」


 取っ組み合う黒白こくはく君とつむじに、役員決定戦の疲れは見えない。


 魔人を倒せて、その上、クラス役員にまでなることができた。

 私の戦果としては上々といっていいだろう。


 ……「比翼連理」も解放することができたし。



「いたたたた! すみませんつむじ様!」


「私に歯向かうからだ!」


 二人の取っ組み合いは佳境を迎えている。


 空色の少女が黒髪の少年を圧倒しているのは、見えなくても疲労が残っているからか。


 気の置けないやり取りをできる二人の関係性が少し羨ましい。



「くそう……覚えてろつむじ!」


「そんな口をきいていいのかな、きょうえい君」


 つむじが意味ありげに再び端末を彼へと見せつける。

 にんまりとした笑顔。


「はっ⁉ まさか……」


 黒白君はそれを見て、何かに気付いたような表情をする。


「つむじ……賭けのポイントを何に使う気?」


「ようやく気付いたかね」


 無い髭を撫でるような仕草。


 稼いだポイントの使い道。

 そこに二人の共通の理解があるらしい。


「ははあ! つむじ様!」


「苦しゅうない、苦しゅうない」


 具体的な言葉はなくても、少しのやり取りで相手の考えがわかる辺り、付き合いの長さを感じさせる。


「しんか! きょうえい!」


 春風のような笑顔。

 そんなつむじから紡がれる言葉。


「このポイントを使って、明日皆で打ち上げをしよう・・・・・・・・!」


「よっしゃあぁぁぁぁぁ!」


「……打ち上げ?」


 こうして私たちは――クラス役員決定戦の打ち上げをすることになったのだった。





「つむじ! ということはお代は⁉」


「もちろん私が持ちましょう!」


 それでこそ僕の幼馴染だ!

 初めて幼馴染であったことを感謝しているかもしれない。


 折角の賭けで勝ったポイント。

 それを皆の打ち上げに使うなんて――


「つむじ! この太っ腹!」


「きょうえい、それ以上太っ腹って言ったら自腹ね!」

 

 ……褒めてるのに⁉


「黒白君……それは良くない」


 火光さんにも注意をされる。

 言葉をちゃんと選んだ方がよさそうだ。


「よっ! つむじ! 悪代官!」


「ふふふ……ちこう寄れちこう寄れ」


「悪代官は良いんだ……」


 そんな僕たちのアホなやり取りをよそに、火光さんは可愛らしく首を傾げる。


「打ち上げってどんなことするの?」


「ジャンクなお菓子や飲み物を好き放題食べて、どんちゃん騒ぎするんだよ!」


 概ね間違ってないけれど、おそらくつむじの狙いは――

 同時に僕の端末が震える。

 連絡はやはり目の前の幼馴染から。


 彼女の考えていること・・・・・・・はもちろんわかっている。

 とりあえず……クラスメイトたちにも全体連絡だ!


 火光さんには内緒の・・・連絡。


 明日何よりも火光さんに喜んで欲しい。

 そんな思いで火光さんを見ていて、ふとつむじとも目が合う。

 お互いに頷き合って、僕らは明日の準備に移るのであった。

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