第35話 対魔人⑥~比翼連理の神髄~
……惜しいことをした。
放った炎は灼熱。
受ける二人は満身創痍。
導き出される結果は必死。
前途ある者たちの未来を奪う気はなかった。
……だが仕方あるまい。
こうでもせねば、あの二人は
あとは比翼連理を回収して、拙の役割は終わりだ。
煙が晴れる。
そこには――
「何?」
紅蓮の火柱。
それが二本。
拙の視界に入るは、
世界を焼き尽くす炎。
炎すら焼き尽くす炎だ。
その中心に人影が二つ。
小僧と小娘の二人だ。
火の精霊たちが、二人と寄り添っている。
二人を見て感ずる違和感もまた二つ。
先ずあるのは容姿。
その変容だ。
小僧の変化は顕著。
真っ黒だった髪色は、華やかな紅に染まり――
その瞳の色は
精霊量の不足は見られず――火の精霊が
小娘の変化は少ない。
元より髪と瞳は紅。
故に外見の変化は少ない。
ただ心持――覚悟の在り方は雲泥。
瞳には希望の
次なる変化は堂々にして明白。
炎の大剣たる比翼連理。
その別離。
巨大な刃を持つ両刃が――片刃の打刀へ。
刀身は
美しき刃文に白銀の刃。
峰は火の精霊に呼応するかのような赤。
「見事」
絶体絶命……その窮地にして
神々しく――
「成し得ることを成し……拙に挑むか」
「『比連』……私の
「比翼連理」の片割れ。
名を「比連」。
私の持つ打刀の名だ。
二刀一対にして、二振りが集うことで、一振りの炎の大剣「比翼連理」となる。
その真価は――共にいたいと願う相手との共有と相乗。
この状態になって初めて気付く。
父が「比翼連理」の真価を発揮できなかったのは必然だ。
父が共にいたいと願った母は……私を生んですぐに亡くなっていたのだから。
「黒白君……ありがとう」
穏やかな心持ちだ。
「比連」を通じて、
私と一緒にいたい――その気持ちに顔が綻ぶ。
「私も黒白君と一緒にいたいよ」
思いは伝わり、力は溢れる。
ああ――今なら。
今なら何でもできる気がする。
身を飛ばす。
抑えられない気持ちが後押しとなって、魔人へと飛び出していく。
「速いな」
小娘と
示しを合わせる素振はなし。
しかして双方共に……拙の視界から消える。
虫の知らせ。
死の気配を感じて、身を空中へと投げ出す。
一拍子後に――刃が拙の在った位置にて重なる。
音が立つのは、互いに刃を振り切った故だろう。
火の精霊の保有量の爆発的な増加。
それは彼奴等の質を上げる。
動きに。加速に。制御に。
時の経過が一動作を過去と為し、糧とする。
「目では追えぬか」
全方位への火炎。
己を中心とした炎の
その
拙の炎が
「容易く防ぐか」
だが
視覚には頼らず、精霊にて二人の動きを捕捉する。
その精霊による感覚が、彼奴等の次の動きを感知。
「拙を中心とした鏡写しか!」
対称的な動き。
……此れを受け切るには、大剣では合わぬ。
取り出すは刀。
本数は二。
左右対称の二振りを、此方も対称に受ける。
「こんなものか!」
比翼連理を解放――結構。
相互共有による相乗――結構。
一撃の速さに重さ――申し分なし。
「その程度で拙に勝とうなど!」
二人共に弾き飛ばす。
比翼連理の意志の疎通。
基にした動きの共有。
そんなものは初歩の初歩。
刀に
期待故の失望。
……つまらぬ立ち合いならば価値はない。
「もっと細かく――もっと繊細に」
私自身の動きは、彼と比べて無駄が多い。
修正――修正――修正だ。
無駄が削ぎ落され、少しずつ彼へと近づいていく。
彼の影を追いかけて、追いかけて――
「重なった……!」
それでも足りない。
でもそれは――私じゃない。
新しい私はここから。
私の始まりはここからだ。
「勇敢だなあ」
大胆にして不敵。
新たなことを躊躇わない勇姿。
僕と
1歩のストライドが伸び、加速の規模が増大していく。
直線を駆ける距離が長く……速い。
「置いていかれてたまるか!」
火光さんは爆発の威力を上げた。
対する僕は回数を増やす。
彼女の描く紅い直線に対して、短い直線を何本も繋ぎ足すように。
不規則に――小刻みに。
上下左右が不明になっても駆け続け
彼女がいるから……迷わない。
「拙ながら――」
己の甘さに嗤う。
最早別物だ。
小娘は流星。
最短距離を駆ける赤光が接近する。
それに対する小僧は、常なる加速の重ね。
空中へ描く様はさながら稲妻。
同じ基礎から分岐した個性。
火の精霊の位置把握ができたとて――
両人の動きには間に合わぬ。
比連と翼理による一撃を覚悟した刹那――
拙を二つの
「何⁉」
……何故斬らぬ?
その解が拙の下方に在る。
二刀は
「拙を見てすらおらぬか!」
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