第27話 クラス役員決定戦⑤~1対1~

「どう……くる?」


 私の炎の波が、黒白こくはく君たちを飲み込む。

 立ち上る煙と蒸気。


 ……確実に当たった――はず。


 けれど――彼らを倒せた気はしない。


「念には念を」


 先程と同じように、火の精霊を集め始める。


 黒と白の煙によって、視界は塞がれているが、


「『比翼連理』、もう一度――」


 撃つよという私の言葉は続かない。


 ぼこ


 くぐもった音が、耳に届く。


 それも、


「っ⁉」


 私の足元からだ。


 ……危険!


 跳躍の前準備として、足に力を入れた瞬間――地面自体が大きく崩れる・・・・・・


「なっ⁉」


 穴の大きさは先程の比ではない。

 私が丸々入ってしまうほどの深い穴だ。


 そして中には、大量の水が満ちている・・・・・・・


「くっ……飛べない」


 水によって弱められたのか、飛翔できる程の爆発は起きない。

 

 ごぼごぼと、水の溜まった落とし穴へと落ちていく。





「し、死ぬかと思った……」


 ……放課後男子だけで訓練していて良かった。ホントに。


 緊急時の防御方法。


 具体的な指示なし・・・・・・・・で、反射的に防御と罠を張る訓練をしていた甲斐があった。


 土の精霊に働きかけ、火光かこうさんの足元の土を回収し、僕たちの前方にドームを形成。

 それを水で濡らし固めながら、風で冷やす。

 彼女の足元の土は、表層のみで中は空洞。


 つまり落とし穴と土の盾を、同時に発動したというわけだ。


 この一連の動きをひたすら訓練した甲斐もあって、どうにか僕らは生きている。


 生死の境目――あの一瞬で行えなければ、僕たちは今頃全員、炭にされていただろう。


 でも――


「悪い、俺は脱落だ」


「ああ――俺もだ」


「あんなのに勝てるわけねえ」


 今の攻撃を防ぎきった代償も大きい。


 風山君も含め、男子は僕以外・・・全員脱落。

 そのため、追い討ちをかけることができない。


 精霊繋装「比翼連理」。

 その炎の強さは、僕たちの想定をはるかに超えていたのだ。


 訓練以上の精霊たちの酷使によって、クラスメイト僕の盾たちは限界を迎えてしまったらしい。


「仕方ないね……皆ゆっくり休むと良いよ」


「ま、精々頑張れよ」


「負けんなよな!」

 

 脱落組はそんなことを言いながら、広場の端にいるつむじ・・・の元へと向かうと、

 

「へいらっしゃい! 誰に賭ける?」


「「「火光かこうさんで!」」」


「この裏切り者どもがあぁぁぁぁぁ!」


 ……君たちには、仲間を信じる気持ちはないのかい⁉


黒白こくはく……間違ってるぞ」


「な、何が?」


 風山君が精霊通信で、僕の言葉を否定する。


 ひょっとすると、火光さんに賭けることで僕に奮起させるとか、そういう狙いがあるのかもしれない。

 

「火光さんに1000P」


「俺もだ」


「黒白が死ぬのに2000P」


 後ろのやり取りも……きっと僕のやる気を――


「俺たちは契約相手であって、仲間じゃない」


「わかってたよバカ野郎!」


 絶対にこいつら男子たちを損させてやる!

 絶対にだ!



 でも――奴らバカどもの予想は正しい。


 女王火光さんの輝きを見てしまえば、僕の勝ちを予想する人なんてほぼ・・いないだろう。


 彼女の落ちた穴から、水が沸騰するようなけたたましい音が聞こえたかと思うと――

 

 大爆発が起きる。


「「「うわあぁぁぁぁ⁉」」」


 外縁に待機していたクラスメイトたちにまで届く土。


 爆風によって、吹き飛ばされた土だ。


 穴があった・・・場所の中心には、「比翼連理」を両手で持った紅蓮の少女。


 その輝きに陰りはなく、多少汚れてはいるものの、ダメージもなさそうだ。


「まだ……やる?」

 

 ……見立てが甘かった。


 こんなことなら、女子陣とも交渉しておけばよかった。


 男子と違って、交渉材料がなかったのが悔やまれる。


 火光さん以外のクラスメイトを全員抱き込んでおけば、まだ彼女の「比翼連理」に対応できたかもしれない。


「はいよ、きょうえいがボロ負けに2000Pね! 毎度あり!」


 ……せめて、向こうで商売している幼馴染でもいれば!



 しかし後悔は今更だ。

 それに、今後悔したところで、もちろん僕の答えは決まっている・・・・・・


「もちろんやるよ! 真剣勝負だ! 火光さん!」


「わかってた」


 僕の答えに、彼女は嬉しそうに微笑む。

 火の精霊に包まれた灼熱の微笑みは、この世のものとは思えないほど美しい。


「1年『は組』――黒白きょうえい! 役職なし!」


「……1年『は組』――火光しんか。役職なし」



「「いざ、尋常に勝負!」」


 こうして僕たちの1対1サシの勝負が始まった。




 

「え?」


 黒白君の初手に、私は虚を突かれる。


 彼は私の懐に飛び・・・・・・込んできた・・・・・


「接近戦⁉」


「その通りさ!」

 

 ……私の火の精霊たちは、すぐにでも攻撃態勢に移ることができるのに⁉


 黒白君の拳が、私の顔に向けて放たれる。


「させない!」


「ぐっ⁉」


 即座に爆発を踏んで、私は後方に飛ぶ・・・・・


 思い出すのは、二人でやった訓練。

 あの訓練通りなら・・・・・・、距離を取ってしまえば、私が勝つ!


 しかし、


「嘘⁉」


 短時間で二度目の驚愕。


 黒白君が私を追い・・・・・・・・かけてきている・・・・・・・


「機動力ではこちらが上のはず……」


「それはどうかな?」


 ……私にぴったりと・・・・・付いてきて・・・・・、再び拳を繰り出してくる⁉


 何が、どうなってるの?





 ……受けられた⁉


 僕の拳を、火光さんは拳で迎え撃つ。


そういう・・・・こと」


「え、まさか――」


「私の移動方法」


 ……もうわかったというのか⁉


 僕がどうにか彼女に追いつけている理由。


 僕は火光さんと似た移動・・・・・・・・・方法を使っている・・・・・・・・


 すなわち――爆発を踏んで・・・・・・空中を駆けている・・・・・・・・


あの時訓練の時から、練習してたの?」


「そうさ!」


 訓練の時に試せた・・・・・・・・


 失敗はしたけれど、可能性はあると思った。

 それだけで十分。


 できないのなら……確実に負けるのだから。


 これは負けないための最低限。

 炎の少女に、機動力で負けないことだ。


 驚きに見開いた目を、彼女は細める。


「嬉しい」


「な……何で⁉」


おそろい・・・・


 少女がはにかむ。

 その可愛らしさに胸が高鳴る。


「よ、余裕のつもりかい⁉」

 

 ……危なかった。

 これが戦闘中じゃなければ、告白してフラれていたかもしれない。


「ふっ!」


「うわ⁉ あぶな⁉」


 僕の頭を狙った「比翼連理」の一閃に対して、首を傾けて躱す。

 耳に残る嫌な風切り音。


 油断は禁物。

 こんなのを貰ったら、生首になっちゃう!





「おい、おそろいとか聞こえたぞ⁉」


「火光さん、そんな奴、頭と体を切り離してやってください!」


「うわ! 惜しい!」


 私の賭けに参加しているクラスメイトたちから、歓声があがる。

 空中で繰り広げられる二人の攻防は、目で追うのがやっとだ。


「火光様! どうせ勝つならやつをボコボコにしてください!」


「できれば三途の川を渡らせる程度で!」


 それにしても――


 ……きょうえい幼馴染の不人気ぶりは笑えてくるなあ。


 男子からどれだけ恨みを買ってるんだろう。


 日頃の行いかな?


 爆音が響くたびに、二人の位置が変わる。

 

 彼らを取り巻く風の精霊の動きは、とても綺麗だ。

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