第26話 クラス役員決定戦④~精霊繋装「比翼連理」~

「容赦がない」


 地面を転がりながら嬉しく・・・思う。

 入学試験はあくまで個人の力を測るための試験だった。

 

 そういう意味では――黒白君の本領チームを指揮する能力は発揮できない試験形式だった。


「俺のおかげで勝てたんだから、俺が火光かこうさんの――」


「はあ⁉ お前みたいな雑魚は――」


「やんの――」


 でも今は違う。

 彼は私に勝つために男子たちをまとめあげ、手段を選ばず挑んできた。

 

 躊躇わず。

 油断せず。

 倒しに来たのだ。


 男子たちも彼の指揮に応えて、私を抑え込んでいる。


 見事な戦術。


 ここまで綺麗にやられたのなら、満足かもしれない・・・・・・



 でも――


「こんな私で良いの?」


 地面を転がされ、天井を見上げる。


 夢のために本気で勝つという意志。

 燃え上がる炎のような彼の想い。


 それは入学試験の時から変わりない。

 

 黒白こくはく君は持てる力をすべて使った。


 足りない分を補いながら、遂に彼の刃が私を捉えたのだ。


 今日この日、私を倒すために……どれくらい私のことを考えてくれたのか。

 男子をまとめ上げるために……どれほど努力したのか。


「良いわけがない」


 このままで良いわけがない。

 私はそんな彼の想いに応えられていない。


 負けるかもしれないという焦りから出た隙を見透かされ――今、無様にも倒れている・・・・・


 でもそれがどうしたのだろう・・・・・・・・


「思い出せ……私」


 入学試験で意識を失うまで立ち向かってきた黒白君を。

 傷だらけになりながらも、立ち上がってきた彼を。


 不撓不屈。


 全てを絞り出して私に対抗している彼ら・・は――とても綺麗だと思う。


 を思い出す。

 私を逃がすために、戦った父。

 父の――お父さんの姿もまた……格好良かった。


 今の私は格好良いのか。

 

 答えは分かり切っている。



「っ⁉ 男子バカたち、警戒!」


「嘘だろ……」


「マジかよ……」


 身体の痛みを無視して私は立ち上がる。

 足元はふらつき、景色は少し揺れている。

 

 それでも黒白君たち彼らなら……父なら、この程度では倒れない。

 

「ふうぅぅぅ」


 大きく息を吐く。

 私を新しく始めよう。

 

 彼らの期待・・に応えよう。

 

「黒白君……行くよ・・・?」


「っ⁉」


 彼らの全力に相応しい私。


 私はそれを証明しなければならない。


「来て『比翼連理』!」





やっぱり・・・・そう来るか!」


「おい! 黒白、あれって……」


「まさか……」


 火光かこうさんの気配が、爆発的に膨れ上がる。

 

 僕の全力には全力で応えたい。


 そんな理由で「比翼連理」を抜いてきた彼女。


 なら、僕らが本気で勝ちに来ていることを知ったら、きっと抜いてくる・・・・・とは考えていた・・・・・・・


 それにしても――


「前よりすごくない⁉ 火光さん⁉」


 火の精霊たちは女王の顕現に喜び震え、世界そのものが深紅に染まる。





「あれが『比翼連理』……すごいね」


 海風つむじ胴元・・をやりながら、世界の高まりを感じる。


 すさまじいまでの存在感・・・


 紅蓮の少女の手に、似つかわしくない巨大な大剣が握られる。


 剣自体の装飾はシンプルだ。

 両刃の大剣。

 握りグリップガードにも無駄な装飾はない。


 只々剣身が大きく・・赤い・・

 

 普通の刀のはある剣身の幅。

 その巨大な両刃には、すべてを斬るという意志が感じられる。


 おそらくこの空間は今、火の精霊たちによって埋め尽くされているのだろう。


 ……残念ながら私には見えない・・・・・・・けど。


「良かったね……しんか」


 本気をぶつけたいと思える相手。

 それが私を降したきょうえいなのは気に食わない。

 でも、彼女が本気を出せる相手ができて良かったとも思う。


「羨ましいよ――きょうえい。

 ちゃんとしんかの思いに応えてあげなよ?」


 ……そして、ここからだ。


 ここからが私の大勝負の始まり・・・・・・・・・


「はい、らっしゃい! 誰に賭ける?」


 ……これで勝てば――一攫千金ゲットだぜ!





「青! 全力で火光さんに攻撃!」


「うおおおお!」


「今だけは美少女であることを忘れろ!」


「焼肉にはなりたくない!」


 紅に染まる火光さんと「比翼連理」の存在感に、僕たちは瞬時に臨戦態勢をとる。 


 水の精霊たちは波となり、彼女へと押し寄せるが――


「させない」


「なっ⁉」


「おい、全力だぞ⁉」


 火光さんが手をかざす。

 たったそれだけで、彼女に水が届かない。


 炎だ。

 灼熱の炎によって、迫る水すべてが蒸発しているのだ。


「笑えてきちゃうね」


 額の汗を拭う。


「比翼連理」を持つ火光さんを見るのは二度目。

 入学試験のあの日以来だ。


 なのに慣れない。

 目が離せない。


 赤の髪と眼は、灼熱の炎に煌々と照らされ、火の精霊たちは彼女が制御せずとも炎と・・・・・・・・なって顕現する・・・・・・・


 精霊の存在密度の高さ。

 今の彼女なら、少し戯れるだけで全てを焼き払うことが可能だろう。


 攻撃していた男子たちも、炎の女王の鮮烈な存在感に酔わされている。


「なんて綺麗なんだ」


「結婚して欲しい」


「黒白を差し出して軍門に下りたい」


 ……意外に余裕があるのかなあ。


 とりあえず二番目の奴は確実にここで戦死してもらおう。


「青、攻撃を止めるな!」


「「「了解!」」」


 再開した水の攻撃を、火光さんは棒立ちで受け止める。


「相性としては水の方が有利なはずなのに!」


 受けられている。


 相性差を一切苦にしない程の火力。

 僕が欲しくてやまない精霊量。


 彼女から無意識に溢れてくる火の精霊たちが、中央広場世界を満たしていく。


 赤の輝きが塔の壁に触れると、抗うように壁から水の精霊たち・・・・・・・・・が出てくる。


 ただ存在しているだけで、塔の壁を作動させる影響力。


 ……これが精霊繋装の力――火光さんの力か!


 まだ彼女は・・・・・何もしていない・・・・・・・・


 けど、この量の火の精霊たちを攻防に回されたら――


「いけない!」


 火光さんの前方に火の精霊たちが集まり始める。

 もはや守勢に回る必要はないと判断したのだろう。


「や、やばい、綺麗な火光さんどころか何も見えない!」


「マズいな」


 火の精霊が見える見えないに関わらず、危険な空気を彼らも感じ取っているようだ。

 青組の攻撃はすべて無効化され蒸発し続けている。



「どうする? 黒白」


 水が届かない以上、火光さんの火の精霊たちの収束を止める手段がない。


「茶、白、青!」


 僕の叫びと同時に――


 炎の激流が僕たちを飲み込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る