第25話 クラス役員決定戦③~意外な結束と五色遣い~

「よし、これで女子たちは討ち取った! 残るは火光かこうさんだ!」


「まさか男子全員で組んでくるなんて……」


 つむじの奮闘は素晴らしかった。

 でも、良くも悪くも・・・・・・彼女は見切りが早い・・・・・・

 自身の戦力と、僕らの戦力を見極め、厳しいと判断すれば直ぐに降参を選ぶ。

 

 彼女らしいと言えば彼女らしい。


 こちらにも2,3人犠牲者が出てるけど、それも想定内。


 戦力はまだ残っている。




黒白こくはく君……たち?」


「来たね! 火光さん!」


 つむじがギブアップしたのとほぼ同時に、紅蓮の少女が中央広場へとやってくる。


 女子陣を先に倒せたことによって、僕らは彼女だけに集中することができる。


 ……さあ、真剣勝負だ!





「さて、負け組はこっちこっち! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」


「火光さんに1000」


「お客さん、それじゃあ儲けが出ないよ?」


「……ちなみに海風うみかぜさん。一番儲けられるのは?」


「大穴は卑怯者のきょうえいだね」


「じゃあ、黒白に……5」


「お客さん手堅いねえ」


「手堅いねじゃないよ! このバカ!」



 中央広場には、黒白君を中心に8人程の男の子たち。

 外縁には彼らに負けたのか、すでに脱落したクラスメイト達たちがやいのやいのと元気に見学している。


 つむじは負けたはずなのに楽しそうだ。


「火光さん頑張れえぇぇぇぇ!」


「愛してるわあぁぁぁぁ!」


「黒白君をボコボコにしてぇぇぇぇ!」


「何で⁉ 嫌だよ、されたくないよ!」


 期待されているみたいだから頑張ろう。

 

 そんなやりとりをしながらも、黒白君たちの視線は私から外れない。

 じっと私の出方をうかがっている。


 火の精霊を足元へ――


「いまだ! ! 標的の足元に向かって撃て!」


「「了解!」」


 指示と同時に、


「⁉」


 水の塊が私の足元を襲う。


 ……速い。


 そして私の動きを――


「読まれた?」


 水から逃れるように、力の限り走る。


 ……炎を出力する時間が足りない。


 それならと、土を踏む。


 ……爆発がなくとも、私の身体能力なら――

 

 跳躍。

 いつもの爆発の飛翔とは比べるべくもないが、すれすれで水が通り過ぎていく。


 ……よし。躱した!


「風は――」

 

 問題なく扱える。


 次は、

「火――」


「青組! 火光さんの周囲に撃ち込め!」


 いざ火の精霊を集めようとすると、再び水の攻撃。


 ……私の土俵火の精霊で、勝負をさせない気だ。


「黒白君……厄介」


「ふふふ……誉め言葉と受け取っておこう」


 撃ち込むタイミングが絶妙だ。

 火の精霊を集め始めるに、水撃をぶつけてくる。


「っ⁉」


 風の精霊の制御が切れ、濡れた土を踏むと同時に、


「よし、茶組! 槍だ!

 白組! 上から火光さんを押さえつけるように!」


 土の槍がせり上がり、空中からは下降する風が迫る。


 火なら水で機先を制し――何もしなければ、水以外の属性攻撃。

 私の行動に合わせた、効率のいい戦い方だ。


「はあっ!」


 土の槍を蹴り砕き、下降気流には――


「風よ!」


 同様の風をぶつける。


 しかし――


「なっ⁉」

 

 移動しようとして、転倒してしまう・・・・・・・


 私の脚に、木の蔓・・・が巻き付いていた。


「邪魔!」


 ぶちぶちと力尽くで引き千切る。


 気付かなかった攻撃。

 

「本当に厄介」


 訓練の時から持っていた疑問が、形になる。


 黒白君は――全て5属性の精霊が見えるのではないか。 


 私の動きや思考を的確に読みながら、状況に合わせた精霊の選択。


 精霊の動きが、全て・・見えていなければできない対応の速さだ。


 更に言えば――彼には誰が扱・・・っている精霊なのか・・・・・・・・・すら細かく見えるのかもしれない。


 そして、彼に全ての精霊が見えるということは――全ての精霊を扱えるということ。


 私は火と風の2属性。

 3属性の適性持ちは「は組」にもいる。


 しかし、4属性持ちは噂に聞く程度。

 5属性に至っては、世界でも数えるほど・・・・・・・・・しかいないはずだ。



「黒白君……隠し事上手。

 私たちの仲なのに・・・・・・・・


 口を突いて出た愚痴に対して、


「えっ⁉ 何その言い方……

 皆止めて! 僕に殺意を向けないで⁉」


 吹き出る殺意。

 男子たちの勝利への渇望だろう。


 ……黒白君はここ役員決定戦まで私にそれを隠し通した。

 全ては勝つために。


 敵味方問わず、全ての精霊を感知することができる。

 その能力を使って、男子でチームを作るという判断。


 それも私たち女子に気付かれないように。


 自身の精霊量の不足を、人類種の数クラスメイトで補おうという発想力。

 

 戦略面では……完全に負けている。


「ひょっとして……部活動の見学は」


「そうさ! 全てはこのチームを作るためさ! 部活に所属する気はないよ!」


「「「はあぁぁぁぁぁぁ⁉」


 彼の告白に、男子たちの抗議の声が飛び交う。


「おい! お前を差し出してレギュラーを確約してもらったのにどうすんだ⁉」


「お前なんてまだマシだろ! こいつでひと稼ぎしようと思ってたのに!」


「よーし、君たちはもういらない! 火光さんに突っ込んでこい!」


 おそらく入学当初から、役員になるために計画してきたのだろう。

 黒白君は私に、見える精霊の種類を明言したことはない。


 ……道理で。


 精霊繋装「比翼連理」を、戦力として隠しているという発想はここから。

 自身も同様に隠していたからこそ。


 つまり、情報操作をしていたのだ。


 勝利のために。

 委員長になるために。


「このままいけば――」


 きっと削り倒される。





「青組、火光さんの足元を狙って水球! 白組、飛ぶはずだから合図したら吹き飛ばせ!」


「「「了解!」」」


「はっ!」


 水の球が足元へと飛んでいくのを、火光さんは再び持ち前の身体能力で飛んで躱す。

 だが狙い通り、彼女が集めようとした火の精霊たちは水によってかき消される。


「今だ!」


 彼女がいるのは空中。

 風の精霊も扱えていない。


 風の弾が、そんな火光さんに襲いかかる。


 ……これなら躱せないはずだ!


「っ⁉ はあぁぁぁぁ!」


 空中にいた火光さんが、その身を捻る。

 それと同時に、飛ぶには足りない風の精霊が彼女の脚へと纏われる。


 ……まさか――躱すことを考えていないのか⁉


 捻りが加わることによって、彼女の身体が回る。


 その行動の意味は――風を纏った蹴り。

 

 放たれた風を、その威力で以て紅蓮の少女は吹き飛ばす。


 ……火どころか、風の精霊でこのレベルか!


 一進一退の攻防。


 思っていたよりも余裕がない。


 少しでも赤の少女の動きを見切り損ねれば、彼女の炎が僕たちを燃やし尽くすだろう。


 ただし、条件は火光さんも同じ。

 応手を間違えれば――僕たちの攻撃がダメージとなるはず。


「おい黒白! そろそろこっちもきついぜ!」


「よし、皆! 風山君が限界みたいだから、囮に差し出そう」


「ウソウソウソ! 元気いっぱい!」


「元気いっぱいみたいだから、囮をやってもらおう!」


「どっちにしても囮じゃないか!」


 僕の細かい指示を、男子たちは正確に遂行してくれていた。

 いつも僕の命を狙っているとは思えない程の献身。

 日頃のやり取りからは信じられない程、繊細な精霊制御だ。


 ……そこまで火光さんの召使いになりたいのかなあ。


 味方ながらドン引きである。


 そんな変態たちのご主人様になるかもしれない、燃える少女はそんなこととは露知らず地を駆け続ける。


 今は互いに我慢の時。


 大技で決める気はない。

 少しでも隙を火光さんに晒せば、彼女は間違いなくそこをついてくる。


 僕たちが勝つには――


「そのまま大技を使わせないように!

 皆が得意の嫌がらせ攻撃だ!」


「「「こいつらと一緒にするな!」」」


 類は友を呼ぶという言葉を、この人たちは知らないんだろうか。




「来るよ、皆! 集中!」


 このままでは負けるのを悟ったのか、火光さんの動きが変わる。

 

 僕らを中心として、円を描く動きから――直線的にこちらに向かう動きへ。


 すべての攻撃嫌がらせを躱しきることは諦め、被弾を覚悟してでも一気に攻め切る方に舵を切る。


 膨大な火の精霊の顕現。

 水との相性など知らないとでも言わんばかりの、圧倒的な火力による蹂躙。


 だけど僕たちは――


「それを待っていたよ!」


「えっ⁉」


「茶組!」


 僕の言葉と同時に、土の精霊たちが動き始める。

 彼女が火の精霊を集めきる前に――


「今だ!」


「えっ⁉」


 火光さんの足元の土が沈む・・・・・・・

 事前に仕掛け、開くタイミングを待っていた穴だ。


 深さは決して深くない。

 けれど、炎を出すために一瞬動きを止めた火光さんの体勢を崩すには――十分。


 ……このチャンス――逃さないよ!


「白! 茶! 振り絞れ! 全力の一撃をぶつけろ!」


 発生するのは、無数の風の弾と土の鎚。


「くっ⁉」


「遅い!」


 火光さんは攻撃のために準備した火の精霊を、防御に回そうとする。

 

 彼女の技術ならそれも可能だろう。

 だが、それでも――時間差は生じてしまう。


 僕らの放った攻撃は火光さんを強く殴打し、彼女を後方へと吹き飛ばした。



「よし!」


 少女は吹き飛ばされた勢いでゴロゴロ転がっていき、ようやく止まる。

 このままダウンしてくれれば――あとは皆が僕に勝利を譲ってくれる手筈だ。


「火光さん、今吹き飛ばしたのはこいつです!」


「風の犯人はこのバカです!」


「そもそも指示を出したのは黒白です!」


 戦後のことを考えてか、醜い責任の擦り付け合いが始まっている。

 ……こいつらは本当に僕に勝利を譲ってくれるんだろうか?


 怪しい。

 今の内に全滅させておいた方が良いかもしれない。

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