第24話 クラス役員決定戦②~男だけの処刑裁判~

 すべて作戦通りだ・・・・・・・・

 目前の結果――つむじの降参。

 

 これは僕の用意した1つ目の秘策の成果だ。




俺たち男子で協力するだと?」


「うん!」


 皆の声を代表して、縛り上げられている・・・・・・・・・・風山君が声をあげる。

 豊水ほうすいさんと仲が良い件で風山君の裁判が行われている放課後の教室は、女子たちの目を気にしてか男子生徒しかいない。


「まず、協力して欲しいなら俺を降ろせ!」


それ降ろすのは却下だが……協力できると思ってるのか?」


「勝ったやつしか役員になれないんだろ?」


黒白こくはく、お前の命を取るための協力ならしてやるぜ?」


 話になりそうなのは数人。

 残りは僕の命すら狙おうというバカばかりだ。


 ……やれやれ、仕方ない人たちだなあ。


「じゃあ――クラス役員になりたい人?」


 僕の質問にほぼ全員が手を挙げる。


「じゃあ、押火おしび君。どうしてなりたいの?」


「まあ、役員になれば進学とかに有利だからな……」


木継きつぎ君は?」


「俺は官僚志望だからな。今の内から国政に関わっておけば就職に活きるだろ」


 僕にとってクラス役員は、日域国の王になるための第一歩。

 

 しかし、実はクラス役員になるというだけでも押火君や木継君の言うようなメリットがある。

 生徒会長が央成学院の王だとすると、クラス役員は地方の首長。

 それなりの権限も持てるし、予算も付く。


 実務経験と権力をそれなりに得ることが可能なのだ。


 しかしそれも精々委員長と副委員長まで。

 他のクラス役職は名誉職と変わりない。


 故に男子で協力したところで、その恩恵にあずかれるのは、勝ち残った一人ないし二人にしか旨味がないというわけだ。


 だが、彼らは何も分かっていない。

 僕を殺すことを重視するあまり、大局が見えていない。


「黒白、お前だって役員になりたいんだろ?」


「もちろん、僕だって役員になりたいに決まってるさ。

 他の人たちを蹴落としてでもね。

 だからこそ・・・・・、男子で協力することには大きなメリットがあるんだよ」


「……どういうことだ?」


 一応話は聞いてくれるらしく、男子たちは僕の話に耳を傾ける。


 ここで大事になるのは役員の人数ゴールではなく――過程だ。


「皆、このクラスの中で最大の脅威となるのは誰だい?」


「そりゃあ、火光かこうさんだろ」


「あとは海風さんか?」


「その二人と仲良しを自称してるバカもだな」


 僕を敵視するのはともかく、名前くらいは出して欲しい。


「うん、そうだよね。あの二人・・・・は、このクラスの中ですら精霊の保有量が飛びぬけている。

 1対1で倒すのは難しいよね」


 精霊の保有量はもちろん、制御能力も授業や訓練を見ている限り、飛びぬけている。

 そんな二人とかち合ってしまえば、一瞬で焼肉かみじん切りにされるだろう。


「つまり何も考えずに、役員決定戦に臨んだ場合は――」


「火光さんと海風さんのどちらかが勝つってことか」


「その通り。順当にいけばあの二人になるよね。

 でも、僕たちで協力することができれば――」


「一人――あるいは二人とも蹴落とせる可能性が出て来ると?」


 誰が役員になるか議論する以前の問題。

 このままだと、男子は誰も役員になれない・・・・・・・・・

 だからこその協力要請だ。

 

「少なくとも、今よりは男子の生き残る可能性は高まると思う」


 故に男子で組んで、あの二人を皆で倒そうという作戦だ。


「……それで勝てるのか?」


 当然の疑問だが、


「勝てる……とは言い切れないね。

 僕らが協力して、やっと可能性が見えるくらいだと思う」


「そんなに差があるのか……」


 雲泥の差があるといってもいい。

 そういう意味で、僅かでも勝機を見出すことのできる僕らの協力の意味は大きい。



「仮に協力して二人を討ち取ったとして、その後はどうする?」


 木継君が鋭い指摘をする。

 官僚志望故の慎重さだろうか。


 繊細な精霊制御能力を持つ彼の仕事は、常に丁寧である。


 ちなみに風山君を縛り上げるロープを作ったのも彼だ。


「もし女子に生き残りがいるなら、その子たちを倒そう。

 最後は男子の生き残り同士で真剣勝負……をしてもいいけど、僕を役員にしてくれた方が良いと思うよ?」


「お前はあの二人と仲良くしてるだけじゃ飽き足らず、役員にまでなる気か⁉」


「この独占者! 俺たちに滅ぼされろ!」


「黒白、お前を処分して、俺たちだけでやってもいいんだぞ?」


 ……まずい。僕の策だけ乗っ取る気だ!


「で、でも、火光さんとつむじあの二人の戦い方をよく知る僕が抜けたら、勝てるものも勝てなくなるんじゃない?」


 ……どうして僕は、クラスメイト相手に命を懸けた交渉に臨んでいるのだろう。


「今、貴様を拷問して聞き出してしまえばいい」


「君らの中の倫理観はどこに行ったんだ⁉」


 ……初等学校からやり直せ! このバカども!


 でも彼らは、


わかってないね・・・・・・・


「どういう意味だ?」


「命乞いか?」


「聞いた上で処刑してやるよ」


 処刑前提なのは頭狂戦士バーサーカー入ってるとしか思えない。

 やれやれと首を振る。


「皆、僕が火光さんと仲良くなれた理由は何故だと思う? ああ勿論僕がイケメ――」


「皆無だな」


「失せろ不細工」


「馬鹿」


「雑魚。その辺の虫けらより雑魚」


「僕を罵倒しろとは言ってないんだけど⁉」


 ……絶対にこの男子カス共を使い潰してやる。


「……もしかして召使いになったことか?」


 吊るされながらも、風山君の頭は働いているようだ。

 既に処刑段階に入っているらしく、彼の浮いた足元には火の精霊たちが集められ始めている。


「確かにそれは一理あるな」


「俺も召使いにさえなっていれば!」


「むしろ下僕でもいい」


 その言葉に、ようやく男子バカ共は気付く。


 そう。

 僕がお近づきになれたのは、不本意ながら火光さんが勝者の契約・・を使って、僕を召使いにしたからだ。


 今回の役員決定戦もまた――自由に契約が使える。


 つまり真っ当な条件であれば、勝者は敗者から契約による特典を得ることができる。


「僕は勝って、火光さんの召使いを辞める契約をする。そうすれば――」


「「「火光さんの召使いになれるってことか⁉」


 ……どうしても召使いになりたいんだろうか。

 そこは友だちの方がいいんじゃないのか。


「まあ……それは火光さんが召使いを望むかどうか次第だけどね。

 ひょっとすると、役員決定戦で火光さんに活躍をアピールできたら――なれるかもしれないよ?」


「「「いいだろう……乗った!」」」


 こうして僕は勝つための手足捨て駒を得ることができたのだ。

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