第21話 ショッピングモール前編~風紀を乱す者~

「しんかの誕生日プレゼント決定戦!」


「え? どういうこと?」


 役員決定戦を次週に控えた週末。

 僕とつむじの姿は、行きつけのショッピングモールにあった。


 ……おかしい。


 僕は「プレゼント選びを手伝って欲しい」と伝えたはずなんだけど――

 いつの間にか彼女の中では、勝負になっている。


「つむじ、こういう真剣な時に勝負するのは――」


「なんだ、自信ないの? それなら仕方ないなあ」


 私が選んであげるよと、自信満々の顔だ。


 イラっとする。


 ……プレゼントを選ぶ自信だって?


 あるかないかで言えば勿論――ない。ないともさ。

 それがあるなら、こんな幼馴染なんて頼っていない。

 

 でも。


 目の前の幼馴染の勝ち誇った顔。


 勝利を確信したその顔は、整った容姿と組み合わさることで、よりこちらの神経を逆なでする。

 

 ……絶対にこんな奴に負けるわけにはいかない。

 


「自信? もちろんあるさ! つむじと違って、僕は友だちが多いからね!」


「きょうえいに友だちっていたっけ?」


「酷い!」


 ……いつも僕の周りは友だちだらけじゃないか!


「は組」の男子連中を思い出す。


 お互いに利用しあい、命を狙い合う。

 そういう友人関係があってもいいはずだ!


「……なら、きょうえい。勝負でいいね!」


「いいよ! しんかへのプレゼントで勝負だ! 負けた方がお昼ご飯のおごりで!」


「その言葉……後悔しないでよ?」


 それはこちらのセリフだ。

 日頃の弁当の手間賃を、ここで清算させてやる!



 ショッピングモールには色々なお店が入っている。

 服飾店や書店、カフェや映画館など沢山のテナントが存在していて、歩いて回るだけでも一苦労だ。


 今はつむじと別行動中。

 各々でしんかのプレゼントを選び、合流して勝負する予定だ。


「それにしても……精霊が多いなあ」


 休日のせいか人も多く、そういう場所は精霊も多い。

 色とりどりの輝きは、まるでイルミネーションの様だ。

 

「よし! プレゼント選びで負けた時には、精霊のせいにしよう!」


 精霊たちの輝きに目が眩み、よく見えなかったってことで。

 

 ぶるるるる


「うん?」

 

 そんなことを考えていると、通信端末に連絡が入る。

 僕の幼馴染ライバルこと、つむじからだ。 


「負けるのを精霊のせいにしたら、精霊に嫌われるよ」


「どうして僕の呟きを知ってるのさ⁉」


 周囲を見回すけど、つむじはいない。


 ……モール内の風の精霊を操っているのか?


 不自然な動きはない。

 けれどつむじなら、精霊の動きを普段通りに見せかけることくらい、朝飯前のはず――


 ぶるるるる


「言っておくけど、精霊は利用してないよ」


「それはそれで怖いんだけど⁉」


 言葉にすらしていない僕の考え。

 それに返事をしているということはつまり――彼女に僕の思考が読まれているということだ。


 怖すぎる。

 妖怪みたいな幼馴染だ。


「さて――」


 ……どうするか。


 つむじに啖呵を切ったものの、何を買ったらいいかがわからない。

 

 火光かこうさんは真剣に選んでくれたら、なんでもいいって言ってくれたけど――

 喜んでもらえるものの方が、良いに決まっている。


 ゲーム機の置いてある店が目に入る。

 電化製品が置かれている店は精霊が寄り付かず、モール内では逆に目立っている。


「僕にプレゼントするなら、ゲーム機器なんだけどなあ……」


 ……女の子へのプレゼントとなるとさっぱりだ。

 

 それを補うためにつむじを誘ったのに……あのあんぽんたん!

 使えない幼馴染である。


 僕の通信端末は先程から延々と震え続けている。


 送られてきていたのは――


「画像? 何だろう?」


 開いてみると、そこには様々な服装の幼馴染。

 スタイルの良いつむじには、どれも似合っているけど――


 ……何を考えているんだ?


 ぶるるるる


「ウィニングラン中。どれが似合う?」


 ウィニングラン・・・・・・・――つまり奴はもうゴールし勝ったつもりのようだ。


 ……許せない!

 完全に煽られている。

 

「見ていろつむじ! 絶対にぎゃふんと言わせてやるからな!」


 僕の怒りのショッピングモール巡りは続く。




「おお、黒白こくはく! 何してんだ?」


 僕が遠巻き・・・に可愛らしい小物が置いているお店を見ていると、その中から一人の少年が出てくる。


 灰に緑がかった髪。

 そこそこ鍛えられた体格。


 野球部体験を共にした、風山かぜやま君だ。

 いつもの制服や、入部体験のジャージ姿ではなく私服姿。


 珍しい。


「あ、風山君! ちょうどよかった! 今君が出てきた・・・・お店はどん――」


 ……うん?

 ここまで話して、生じる違和感。

 妙だ。


 なぜ風山君はこの・・・・・・・・店から出てきた・・・・・・・



 僕の脳細胞が一瞬で活性化する。

 風山君は喜怒哀楽がはっきりとしていて、コミュニケーション能力の高さに定評がある人だ。

 野球部のピッチャー志望。


 そして――豊水さんといい感じ・・・・・・・・・


 僕が知っている彼の情報なんてこんなものだ。

 この段階豊水さんと仲が良いで彼を処分してしまってもいい気がするけど、僕たちは一応・・友だちだ。


 証拠が欲しい。

 もっと確たる証拠があれば、彼を処刑できる。

 常日頃からそう思っていた。

 

 そこにちょうど飛び込んできた新たな情報。


 彼は今、可愛らしい小物の・・・・・・・・お店から出てきた・・・・・・・・


 風山君やつが可愛らしい小物を持っている姿なんて、見たことない。


 そんな奴が――どうしてこんな可愛らしい小物を置いている店から出てくるのか。


 答えによっては、正義の鉄槌・・・・・を下さなければならない。



「どうした? 黒白?」


 罪人風山君は何も考えていないのだろう。


 今日ここで自分の寿命が切れる可能性があることに、彼は未だ気付いていない。


「ううん、なんでもないよ! こんな所で何をしてたの?」


「ああ、あいつ・・・が寄ろうって言いだしてさ」


 ……あいつ。


 そろそろ始末してもいいだろうか?


 ピタリと罪人の動きが止まる。

 ようやく自分が死地に立っていることに気付いたらしい。


 まだ証拠はない。

 確実に押さえて……仕留める!


 互いに動けずにいると、風山君の後ろから小柄な人影がやってくる。


「ゆうき、なんで先に行っちゃうの? あ、黒白君。やっほー」


「死ねえええええ!」


「やめろおおおお!」


 公共の場所ショッピングモールだからこそ、許してはいけない悪は始末しなければならない。 

 僕は風紀を乱す彼を……許すわけにはいかないのだ!

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