第22話 ショッピングモール後編~プレゼント勝負とは~

豊水ほうすいさん、こんにちは! 今日はデートかな?」


「ううん。今日は野球部の道具の買い物に来ただけだよ」


 風山君罪人と取っ組み合いながら、豊水さんに尋ねる。


「体格では俺が勝っているはずなのに……どこからそんなパワーが⁉」


 メキメキと両腕が音を立てる。


「今日」ということは、日頃から豊水さんと風山君こいつ仲良く買い物デートに来ているのだろう。


 ……羨ま――許せない。


 精霊たちは、人の心を映し出す。

 心が乱れれば、精霊たちの挙動も乱れるし、成長すれば同様に成長する。


 精霊と人は鏡写しの関係でもあり、相互関係でもある。


 それはすなわち――嫉妬心すらも精霊たちの糧となるということだ。

 僕の怒りは精霊たちへと伝播し、精霊たちの力が僕へと流れ込む。


 ……ありがとう。精霊たちのおかげで、僕は世界を救えるよ……。


「嘘だろ……まだパワーが上がるのか……」


 社会秩序と僕の心の健康のために、風山君は早く消さなければならない。

 

 彼を血祭りにあげようとして――豊水さんが目に入る。


「二人とも仲いいね!」


「言ってる場合かあぁぁぁぁ! かなた! 助けろ!」


 彼女は僕たちのやり取りを楽しそうに見ていた。

 



 ……もしかして――今がチャンス?


 風山君の処刑を続行しながらも、そんな考えが僕の中で生まれる。


 豊水さんなら、火光さんが貰って嬉しいプレゼントに心当たりがあるかもしれない。

 なくても……プレゼント選びのヒントくらいにはなる可能性が十分にある。


 そうと決まると、即行動。

 組み合った手を離す。


 罪人の処刑は後回し・・・だ。


「豊水さんなら、誕生日プレゼントはどんなものが欲しい?」


「え? 黒白こくはく君が私にくれるの?」


 ……ごめん。それは考えてない。

 隣にいる処刑予定の風山君が生きていたら、是非彼から搾り取って欲しい。


「冗談だよ、冗談!

 うーん、どんな相手から貰うかにもよるけど……

 強いて言うなら、普段使いできる小物とかは嬉しいかも?」


 豊水さんの意見を端末にメモする。

 ……普段使いできる小物ね。


「誰にあげるのかわからないが、気持ちがこもっていればいいんじゃないか?

 大事なのは、あげようって気持ちだろ?」


 執行猶予期間中の風山君もいいことを言う。

 生き残るために必死の形相だ。


 一応役には立ったわけだし――今日・・僕がとどめを刺すのは、やめてあげてもいいかもしれない。


「なら、私のプレゼントは気持ちを込めてちょうだいね! ゆうき!」


「やめろ、かなた! これ以上俺を追い込まないでくれえぇぇぇぇぇ!」


 にこにこ笑っている豊水さんの笑顔は可愛らしい。

 風山君の命の灯を、吹き消したくなるくらい魅力的だ。


 そんな彼女の魅力に反比例して、彼を生かして帰す理由は、わかりやすく目減りする。


「おい、俺、アドバイスしたよな? な? 

 何か言えよ黒白!」


 こうしてショッピングモールには、風山君の叫びが響き渡ったのであった。




 豊水さん(とついでに風山君)とはその場で別れる。

 プレゼント選びのヒントも貰えたし、デート(仮)の邪魔をするのは忍びない。


 風山君への恩返しとして、クラス男子の精霊通信グループにきちんと「風山君、豊水さん、ショッピングモールでデート」と報告しておく。


 ……日用品の小物か……どんなのが良いんだろう?


 そんなことを考えながら、僕のプレゼント探しの旅は続く。




「いい勝負だったよ」


「そうだね。中々の名勝負だった」


 汗を拭く仕草をするつむじ。

 午前の時間をすべて費やした僕たちは今、奢りを賭けてショッピングモールのフードコートに来ている。


 中々の接戦だった。

 それは認めよう。

 つむじの選んだプレゼントも、火光さんのことをちゃんと考えていて、素晴らしい代物だった。


 それでも――


「「勝ったのは僕(私)だけどね!」


 真剣に探した結果……僕らは互いに勝ちを譲れない状況に陥っていた。


「僕が何時間プレゼント選びに使ったと思ってるんだ!」


「時間よりも大切なのは、気に入ってもらえるかだから!

 それだと私の方が――」


「はあ⁉ それはあげてみないと分からないでしょ⁉」


「「ぐぬぬ!」」


 不毛な時間を過ごす僕ら。


 にらみ合いの状況の中、彼女は表情をふと緩める。


「……まあ、最近はお弁当も作ってもらってるしね。きょうえいの成長も見られたし、今日くらいは奢ってあげるよ」


 つむじから折れるのは珍しい。

 少し上から目線なのは気になるけど――それで奢ってもらえるのなら安いものだ。


 

 

「どう? 召使いを引退してクラス代表になれそう?」


「正直、難しそうだね……強敵だらけだよ」


 昼食を食べながら、暗に火光さんに勝てるかを聞いてきたつむじに対して、本音を話す。


 プレゼントは真剣に選んだし、火光さんには楽しく学校生活を過ごして欲しい。


 そういう彼女を思う気持ちもあるけれど――負けるつもりも更々ない。


 本気の火光さんやつむじを倒してこそ、クラスの代表になる意味があるのだから。


 火光さんは速度もさることながら、精霊の保有量が圧倒的。

 彼女に対抗するにはそこをどうにかしなければならない。

「比翼連理」を抜くかどうかも加味して――


「無理ではないんだ」


 火光さん対策に思考が飛んだ僕を、つむじの言葉が引き戻す。


 無理ではない・・・・・・


 僕の考えを、目の前の幼馴染は的確に表現している。

  

 ひょっとすると、僕がどんな戦略を取ろうとしているのかすら――彼女には見透かされているのかもしれない。


「強い相手だからって諦める理由はないからね! ほら『窮鼠猫を嚙む』とも言うし!」


「楽しみだね……ねず――きょうえい」


「今、僕の事を『ねずみ』って言おうとした?」



 つむじはにっこりと笑う。


 ……まあいいさ!


 僕は勝つ。相手が誰であろうと――役員決定戦で勝ってみせる!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る