第19話 三人で実戦訓練②~覚悟~

「よし!」


 投げ応えバッチリ。

 ……きょうえいも殺す気で金属製のボールを投げてきたわけだから、おあいこだよね!


 私の剛速球を正面から受けきれないと判断したのか、きょうえいの風の精霊たちはボールの側面を叩く。

 止めるのではなく――逸らすための動きだ。


 烈風の中で、普通のボールは直進できない。

 風の勢いに負け、軌道は逸れるはずだ。


 ……通常のボー・・・・・ルであれば・・・・・、だけどね!


 作成者きょうえい本人の方が、よく知っているだろう。

 私の投げたそれは、ただのボール・・・・・・ではない。


 金属球・・・だ。

 

 私に止めを刺すための金属球。


 それが奴の止めを刺すことになるなんて……皮肉だ。


 金属球は直進を続け――少年に当たる。

 甲高い音が、室内に響く。


「さよなら……きょうえい。地獄で元気でね……」


「死んでたまるかあぁぁぁぁ!」


 しぶとい。

 どうやら生きているようだ。





「僕の肩残ってる⁉」


 ……良かった! ちゃんとある!


 無くなったかと思うほどの衝撃。

 それでも生き残ることができたのは――


 咄嗟に生み出した金属塊のおかげだ。

 ボールがぶつかる箇所――今回は肩――に金属塊を差し込み、どうにか肩への直接的な防げたわけだけど――


 ……勢いまでは殺せないか!

 


 ボールの威力のままに、弾き飛ばされる。

 めちゃくちゃ痛い。


 ……こんな危険物を人に投げるなんて! つむじの外道!


 そのまま地面に転がされた僕は、訓練室内の建造物にぶつかって止まる。


 正面には僕の伸ばした土の塔がそびえ立ち、背後には建造物の壁。

 

 ……逃げ場がない。


 そんな僕の目の前につむじが降り立つ。


 多少のダメージはあるものの、空色の幼馴染は健在。

 僕の息の根くらいは、軽く止められそうだ。


「よし、つむじ! 訓練はこのぐらいにして――」


「きょうえい」


 いつもよりも声が低い。


 彼女の整った顔には……能面のような笑顔が張り付いている。


「怖い怖い怖い怖い」


「殺る気だったなら、殺られる覚悟もあったんだよね?」


「嫌あぁぁぁぁ! ほんの出来心だったんですうぅぅぅぅ!」


「じゃないと、私に金属球なんて投げてこないもんね?

 安心して……ちゃんと止めは刺しておいてあげるから」


 ……ダメだ! この子僕の話を聞く気がない!


 いや、まあ、わかっていたことだけど。

 この問答に大した意味はない。


 付き合いの長い僕はよーく分かっている。


 もう彼女の中で結論・・は出ているのだ。


 つむじがそのまま僕に止めを刺そうと、土の塔に背を向けて・・・・・歩いてくる。


 つまり――予定通りだ・・・・・

 


 ……油断したなつむじ! 狙うならここだ!


 僕への殺意に溺れたな! バカめ!


 それが彼女の一番の隙だということを、今ここで教えてやる!



「火光さん、今だ」


 僕の声が引き金となって、天井まで伸びた土の塔の内部・・に火の精霊たちが集まり始める。


「?」


 僕が何かしら呟いたことに、つむじは気付いたようで、周囲を警戒するように見回した。

 だけどその行動に意味はない。

 つむじには火の精霊の動きが見えない・・・・のだから、土の内部がどうなってるかなんて見えるはずがないのだ。



「何をする気⁉ きょうえい!」


「つむじも言ったじゃないか……」


「え?」


 土の塔が太陽のごとき熱量を持ち始めたことを、彼女は知らない。



「殺られる覚悟もあるんだもんね?」


 つむじの顔が青ざめる。

 大気の様子。

 気温の変化にでも気付いたのだろうか?


 でも遅い・・

 ……そうさ。今更気付いたってもう遅い。


「くらえつむじ! 死なば諸共だ!」


「くっ⁉」


 僕の叫びと同時に――土の塔は僕ら二人を巻き込んで、破裂したのであった。





「やられた!」


 爆発に吹き飛ばされたけれど、どうにか意識は残っている。


 辺り一面は――


 ……土煙に覆われてて、見えないね。


 体中砂まみれ。

 おまけに爆炎と爆風で、体中が痛い。


 制御していた風の精霊たちも、吹き飛ばされてしまったようだ。


 ……きょうえいは生きているだろうか?


 と考えて、首を振る。

 この事態は奴が引き起こしたもの。

 であれば、十中八九無事と考えていい。


「仕方ない。もう一度風の精霊を――」


 私の言葉は続けられない。


 ボンという音と共に、土煙を切り裂いて、私に拳が向かってきた・・・・・・・・からだ。





 土の塔を崩壊させつつ、私は土煙の中にいた。

 視界は土煙に覆われているがしかし――


火光かこうさん! 向かって一時の方向に右ストレート!」


「了解」



 黒白こくはく君の指示通りに動けば、問題ない。


 見えない・・・・中で振るった拳に、手応えはあり。

 そのまま指示通りに対象つむじを殴り飛ばす。


「今吹き飛ばした方向に真っ直ぐ進んで! 止めの蹴りだ!」


「これで……止め」


 土煙で見えない中、彼の精霊を用いたナビは正確無比。

 指示に身を任せて蹴りを放つと、私の足の上部・・に標的が当たった。





「しんか、容赦ないね!」


 最初の一撃は、私の腹部に突き刺さっていた。

 吐き気が止まらない。


 ……でも視界がない中、どうして攻撃が当たるの?


 わかっている……犯人は一人しかいない。


 ……きょうえいあのバカだね。


 自分自身を囮にして、私を倒そうとした幼馴染バカ


 奴が大気に舞う土の精霊を使って私の位置を把握し、指示を出している。

 でなければ視界の塞がった中、この精度の攻撃はあり得ない。


 痛みの中で、しんかが突っ込んでくるタイミングを計る。

 風の精霊には頼らない。

 頼ればそれを二人に察知される。


 私の最大限の警戒の中で――

 土煙が不自然に揺らぐ。


 放たれたのは――蹴り!


「今!」


 私は軽く飛んで、身を縮めた。





「勝った! 僕らの勝利だ!」


 ドーム状に展開している土煙のちょうど天頂部を浮遊しながら、僕は確信する。

 火光さんの最後の蹴りがつむじを捉えたのが見える。

 これで彼女は脱落。


 後はこの土煙を利用して、火光さんを倒すのみ!


 強烈な蹴りが直撃したつむじは、真上・・に飛ばされる。

 野球のファウルチップのように、打ち上げられた・・・・・・・彼女。


 その軌道は――


「はあ⁉ どうしてこっちに⁉」」


 僕に最短距離で向かう。


 咄嗟に回避しようとするも――間に合わない。


「食らええええ!」


「くっ⁉」


 天を突く拳を、腕で受ける。


「まさか……火光さんの蹴りを利用する・・・・・・・なんて」


「賭けだったけどね!」


 彼女の眼はギラギラと殺意に輝いている。


「どうして僕がここにいるってわかった⁉」


「きょうえいの事だからね……全体を見るために上を飛んでると思ったよ!」


 探す余裕はなかったはずなのに。


 ……僕自身の考えを読み切ったとでもいうのか⁉


 拳を受けた腕に、彼女の手が絡みついてくる。

 その様はまるで獲物を捕らえた蛇。


「よくも私を土砂まみれにしてくれたな‼」


 捕られた腕を視点にして、つむじの身体が空中でくるんと回る。

 僕の視界が彼女の背中を捕らえたかと思うと、僕の身体はひっくり返り――訓練室の天井が見える。


「お前も土に塗れろおぉぉぉ!」


「嫌じゃああぁぁぁぁ!」


 美しい背負い投げ。


 僕の体は空中から流星のような軌跡を描いて、地面へと叩きつけられたのであった。

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