第4話 精霊繋装


 変だ。


 男の子との攻防。

 彼の身のこなしから、相当な鍛錬を積んできたことは分かる。


 それでも躱されたの・・・・・はおかしい。


 特に死角からの初撃。

 まるで見えているかの様な反応だった。

 なんなら私の拳の軌道を利用し、攻撃へと繋げてきた。


 あの不意を突いた一撃を躱されたとなると……攻撃を当てられる気がしない。


 かと思えば、正面からの攻撃は惜しいところまでいく。

 

 なぜ?

 

 じっと彼とその周囲を見つめていて気付いた・・・・


「なるほど……そういうこと」





 彼女火光さんの動きが変わる。


 精霊たちが形作るのは――


火球・・か!」


 彼女の周囲に直径10㎝程の、火で出来たボールが出現する。


 数が異常に多い。

 百は優に超えているだろう。


「行って」


 彼女の合図と同時に、僕へと放たれる。


 でも――

 これなら処理できる・・・・・


 四方八方から迫る火球。


 しかし軌道は全て・・・・・読めている・・・・・


 躱せるものは躱し、厳しいと判断したものは火球・・をぶつけて処理する。



「貴方は器用」


「褒めてもらえて嬉しいよ」


 結構限界だけどね!

 火球を処理した僕に、彼女は重ねて語りかける。


「まさか――風の精霊を蜘蛛の巣の様に配置するなんて」


 どうやら、今の攻防で僕の手品がばれてしまったらしい。




 すごい。


 私は感動していた。

 男の子が連れている精霊たちの数は少ない。

 けれどその不利を工夫で補い、私に付いてくる。


 風の精霊の扱い方もそうだ。


 精霊たちを蜘蛛の巣状に配置する。

 この風の糸は触れた敵の動きを感知する、センサーのような働きをしている。

 その上この巣は敵に触れると、速度を減衰・・させる方向に風を吹かせる仕組になっているようだ。


 言葉にすると単純。

 けれど彼の緻密にして繊細な制御は――なんて美しいのだろう。


 本気で勝つという意気込み。


 私にこれほどの熱量はあるだろうか。


「貴方の心意気、嬉しく思う。

 貴方に敬意を」


 彼の実直に私は応えられているか。


 否だ。


 恐怖・・を握りつぶす。


 使う気のなかった・・・・・・・・奥の手。


 それを、彼――黒白こくはく君の本気に応えるために私は使おう。





「10分間逃げればよかったかな……」


 非常に泣きたい。

 既に圧倒的な火の精霊たちが更に増えていく・・・・・・・

 まるで彼女火光さんの思いに応えるかのように。


「来て。『比翼連理』」


 彼女のその一言と共に、世界が赤く塗りつぶされる。


 その中心には彼女と一振りの大剣・・・・・・


 剣の装飾はシンプルだが、目立つのはその刀身の太さと厚み。

 剣身は通常の剣の倍以上の幅を持ち、小柄な火光さんが隠れられそうだ。


 精霊器もとい精霊繋装せいれいけいそう

 精霊に愛された証。

 あの大剣は間違いなくそれだ。


 彼女の赤みがかっていた黒髪と瞳は、最早灼熱の紅に染まっている。


「お願い――死なないで」


 これまでとは比較にならない火の精霊たち。

 それらが彼女の足元へと集まっている。


 精霊は加速用。

 方向は正面。

 おそらく来るのは――


「斬撃!」


 読み通り。

 故の・・読み間違い。


 僕の胴を真っ二つにせんと刃が迫る。


 躱せない⁉


 彼女の速度に身体が付いていかない。


「死んで――たまるかあぁぁぁぁぁぁ!」


 彼女の一撃を防ぐために、彼女の刃と僕の体との間に金属の塊・・・・を作り出す。


「耐えろ!」


 バキン!


 音を立てて砕かれた金属ごと僕は吹き飛ばされる。




「くそ!」


 勝ち目はない。

 

 精霊繋装「比翼連理」によって、打たれ続ける。


 そして彼女は――僕が吹き飛ばされる先に現れ・・・・ては斬りかかるの繰り返し。


「わかっているのに⁉」

 

 金属すら砕ける一撃は、着実に僕へとダメージを蓄積していく。


 負けるのか――僕は。




 気付けば僕は地面に転がっていた。

 火光さんの斬撃は止み、静寂が場を満たす。

 

「まだ……終わってない」


 だって僕は、死んでないんだから。


「ど――」


 彼女が僕に声をかけている。

 でも……何も聞こえない。


 朦朧とした意識の中、ただわかっていたのは――

 

「僕は入学して王になる」


 自身の野望のみ。


 そうして僕の意識は、完全な闇の中へと落ちていく。

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