誰かの“いつか”

その世界はいつしか最愛の彼が話してくれたような、桜の花弁が舞い上がる美しい世界が広がっていた。

目の前にある桜の木の幹をそっと撫でてみた。




「ここは、様々な要因によって引き起こされる時空の歪み。

魂だけが肉体から分離し、時間の概念のない未知の世界だ。

一度入ると2度と現実世界へと戻れない。

そんな終焉を知らせる世界さ。

私はこれに”Psyche:ragnarok (サイク・ラグラノク) 魂の終焉”と名付けた。」




「サイくラく?サクラノクニ??」




「…桜の国、??」



「桜の木が咲いているから、桜の国って言うの?」



少年の目には一切の曇りがなかった。



「はは、桜の国か」

桜の花言葉は精神美。

本来、精神美は日本人の心の純粋さや美しさを表した言葉だが…


彼女は少年を見た。


歳は3.4あたり、私とは対照的な、茶色が少し混じった癖のないサラサラな髪。少し小さめな鼻と口。そしてあの純粋無垢なクリクリの目。



⭐︎

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「ねぇ、どんな味がするの、それ」

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遠い昔で出会った彼をふと思い出した。

だが彼と違うところは、その焦点が彼女を真っ直ぐ射通しているわけではないことだ。

彼女に一つの仮説が生まれた。



「君、私の顔が見える?」



彼は声のした私の方を、目を細めて眺めていた。



「ううん、ぼやぁっとしか見えない」



その仮説は確信へと変わった。彼は近視かそれまたは生まれつきの病気か…



「ずっと真っ黒な世界を彷徨っているの?」




「うん。全部真っ黒。なんにもみえない。」




「色のついた世界、見てみたいかい?」




「うん。見てみたい。」




その声には確かな意志が感じられた。


私は彼の目をそっと塞いだ。


そして彼に聞こえないように呟いた。



「ここは“サクラノクニ”

時空の狭間であり、魂の終焉。

だがこの世界では誰にも知られていない一つの秘密がある。彼が____私の夫、そして君の遠い未来の佐久楽くんが奇跡的に作り出した、魔法のような信じられないことさ。科学的根拠もない。

なんだと思う?

“魂の融合“さ。

人は魂があるからこそ人として生きていられる。つまり、魂を変形すれば鳥にも、魚にも何にでもなれると言うことだ。

ただこれには欠点がある。魂は作り出すことはできず、できるのは魂の一部を譲渡することだけだ。

これから私の魂の一部を君に渡す。

そして君に色を、世界に色を与える。


そして、十年、二十年後、遠い未来で、どうか私を救ってくれ。

ずっと待っているよ。


心から、愛してる。」

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サクラのヒミツ 鮎川 碧 @Kopf-Kino-1224

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