運命

______________時はさらに十年後





ピピピッピピピピピッ



プシュープシュー



1人の女性を囲むように機械音が鳴り響く。

何本もの太いチューブと、何十もの液晶画面。それぞれがことなるアルファベットの羅列を映し出している。

そしてその中心には、映画でしか出てこないような大きな鉄でできた扉。何かの儀式のような、悪魔か何かを召喚するようなそんな重々しい雰囲気を醸し出している。



「博士本当に行くんですか。」


そう声をかけるのは彼女の何千もいる部下の中の選ばれた一番助手。

才能、センス、知識、発想、その全てを兼ね揃えた逸材だ。

そしてこの部屋に入ることを唯一許可された人でもある。



「うん。私達の人類の永遠のテーマであった”タイム・トラベル”が今実行されようとしているのだからね。」



博士と呼ばれる彼女は、この研究の最高責任者であり、今最も世界で注目されている女性科学者、佐久楽.M博士だ。



「しかしっ、」



「そう、私達の研究は未完成だ。」 



助手が言い終わる前に彼女は淡々と言った。



「タイムトラベルは時空の歪みを必然的に引き起こし、過去と現在、そして現在と未来を繋ぐことで始まる。

ただ________前最高責任者のように、肉体が耐えきれず、時空の歪みに閉じ込められ、現実世界へと戻ってこれなくなることがある。」




彼女は薬指にあるダイヤモンドをそっと撫でた。そして何かを思い出すかのように、しばらく目を瞑った。




プシュープシュー



機械音が静寂のうちに鳴り響く。





「博士、」



「君達には申し訳ないと思っているよ。」



そう言って彼女は扉の横にあるダイヤルを三回右に回転させた。




一回の回転は過去に。

二回の回転は未来に。

三回の回転は_________




「博士!まさか、、」



「そう、私は意図的に時空の狭間へ行く。」


その目にはまるでこれが自分の義務のように、強く、変わらない意志が感じられた。




「やめてください。あなたならわかるでしょう。自殺行為ですよ。今まで何のために研究をしてきたと言うのですか。」



そんな必死な、最も信頼における助手の言葉に、彼女の心を動かすことはできなかった。


彼女は黙ったままだった。




「”人類の世界を変える“と言っていたじゃないですか。そんなあなたの姿に憧れて、私はっ、」




「そうさ、世界を変えに行くんだ。

そのために、まず彼に色を、色ある世界を教えに行くんだ。」 



唐突に彼女の助手は理解をした。

彼女が今まで誰のために、何のために、研究をしてきたか。

世界を変えるための、そのきっかけとなった人を救いに行くのだと。



「この話はいつかしよう。私の部屋の一番上の棚にあるノートに、全てが記されているから。」



「頼んだよ。未来の最高責任者くん」



彼女はそう残し、慣れた手でパスワードを入れた。鉄の壁が鈍い音を立てながら、ゆっくりゆっくりと開いていく。



隙間から光が、風が、流れてくる。

過去が、未来が交差する。


彼女がこれを見るのは二回目だ。



その隙間に引き寄せられるように、一歩一歩踏み出した。


この瞬間をずっと待っていたかのように、春風のような軽やかさを持って、時空の狭間に飛び込んだ。




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