第2話①

「ふーん…ナルホドネ。」


 ーー就元と留里が婚姻を結んだと言う一報は、春の国は勿論、敵国である夏の国にまで知れ及んだ。


 側役の恒辛こうしんの持ってきた書簡に目を通していた夏の国の王『千景せんけい』は、それをポイと近くの文箱に投げ入れ、金輪の耳飾りを弄りながら言葉を続ける。


「昔から春は即位に際し必ず1人は王妃を連れ立つのが慣例だったが、就元は独りで玉座に着いた。よもや女嫌いの男色趣味かと思ったが、まさか地仙ちせんの娘を還俗させ妻にするとは、恐れ入ったネ。面白い。」


 クツクツと細い目を更に細め嗤う主人に、恒辛は別の書簡を持って側に向かう。


「些か骨を折りましたが、御命令通りご用意した祝いの品の目録です。」


「フム。」


 しゃらりと竹籤で誂えられた書簡の紐を解き中身を見て、千景は手にしていた扇で口元を押さえて、狐様の顔をニコリと緩ませる。


「サスガシン家始まって以来の神童と名高い忠臣。いつもワタシの願いを叶えてくれる。然りとて頭の硬い高官共を言いくるめを用意するとは…矢張りワタシは、就元と違い臣下に恵まれているナ。」


「勿体のうお言葉です。では、」


「うん。早々に春に贈っておれ。…嗚呼、これを見た就元の驚く顔が目に浮かぶ。愉快愉快。…早く会ってみたいものダ。なあ、恒辛?」


「左様でございますな。まあ、これをご覧になられた就元様が、千景様の言われる通りのお人となりであれば、万事は早く進むかと…」


「ああ…そうだネ…」


 呟き、千景は切り立った山肌に設けられた王宮の欄干から見える海に浮かぶ春の国を見つめながら、ポツリと呟く。


「早く会いたいヨ。春の瑠璃武者…」



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