第1話③
--その日は、留里は浅瀬で一人貝などを採っていた。
岩場の隙間にある様々な形の貝を、籐の籠に入れて浜辺を歩いていると、生暖かい海風が、留里の波瑠に結った長い髪をサラサラと攫う。
「ルリ様…今日も豊かな幸をお恵み下さり、ありがとうございます。」
呟き、胸に煌めく瑠璃の玉が括られた首飾りを握り祈りを捧げていた時だった。
ザアッと風が一際強く吹き、頭に巻いていた手拭いが解け宙に舞う。
「あっ…」
慌てて風の吹く方へ走って行き、飛ばされ木の枝に引っかかった手拭いを取ろうと手を伸ばした瞬間…
「えっ……」
岩場の影に、白い着物に紺の袴姿の海護達には馴染みのない、鮮やかな萌葱色の狩衣を纏った人間が倒れていたのだ。
「た、大陸の…人…」
恐る恐る近づくと、背中には刀傷のような傷があり、着物と周囲の海水は鮮血で染まっていた。
「や、やだ…このままじゃこの人の血で、海が穢れちゃう…でも…」
大陸の人間は不浄の血を持つ為、触れてはならない。
それが、代々受け継がれてきた掟。
だから、清め塩を撒き、遺体が自然に流れていくのを見守る。
その教えを実行しようと、袂から清め塩を出そうとした時だった。
「は、はは…うえ……」
「えっ?!」
青白い顔に彫られた薄い小さな唇がゆっくり動き、僅かに開かれた瞳を見た瞬間、留里の胸がドキりと波打つ。
「(綺麗な…瑠璃色…)」
濡れた栗色の髪の毛、青白いが美しい肌、何より…吸い込まれそうな美しい瑠璃色の瞳に見つめられた瞬間、留里は浜を蹴っていた。
「早く!肩に捕まって下さい!!」
「うっ……」
一切躊躇う事なく、留里は萌葱色の着物を着た人間を肩に背負うと、近くの小屋に連れ込み、うつ伏せに寝かせると、火を起こして、備え付けられた衣や薬等を用意し、濡れた萌葱色の着物を脱がせたら…
「お、男の…人…」
美しい見た目から女性だとばかり思っていた人物の裸体は、細身ではあったが張りのある筋肉を蓄えた男性のもので、まだ生娘の留里は僅かに頬を赤らめたが、手当てだからと言い聞かせて何とか海護の衣に着替えさせると、血のついた衣は自らのものも含め焼き払い、若者が落ち着き眠るまでそばで寝ずに火の番をしていたが、いつの間にか眠りに落ちていった…
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