断章1 牢獄にて



「うぅ……ここは?」



 目を開けると、そこは地下の牢獄だった。光は入って来なく、かがり火だけが周りを照らしている。私は椅子に縛られているようで、手足が動かない。



「やっと目が覚めましたか」



 私の目の前には、さっき私を倒したシスターが立っていた。



「え?って、お前……!これは何だ」



 拘束されていることに戸惑いつつも、はっきり疑問を口にする。



「拘束です。神父から言われたので椅子に縛っておいただけ」



「……は?おい、今すぐ解けよ。私が誰か知っているか?フシティアン辺境伯の騎士だぞ。いくら教会とは言え、こんな風に……」



 そう。私は騎士、いくら教会の権威が高いとは言え、こんなに強引に拘束できるような者でないはず。



「とっくに調べました。ピエール司祭が殺されたのと、魔女の軍勢に討伐軍が破られたって、本当だったんですね」



「……あ?」



「教会の情報網で既に確かめたということです。なにせ、この聖堂はこの辺の教会の中心地、ここら辺にはメアイスを中心に情報網が展開されているんですよ。セベウに派遣した情報員が情報を送ったので、大体のことは分かりました」



「それで、私と何の関係が……」



「そこからはこの神父に言わせてもらおう。シェパード卿」



 そう言い、階段を降りてクロード神父が姿を現す。



「は?神父、今すぐこの拘束を……」



「君、嘘をついたな?」



「ああ?何を言っているのか……」



「情報員からの報告も届き、調査をする最中だ。シェパード卿。君は部下たちに嘘をついて戦場から逃げたようではないか。まあ、私の情報が正しいとは思うが、ここでもう一度言ってその精度を確かめてもらおう」



「……!?」



「昨日、セベウで大火災が生じ、多数の人々が死に絶えたようだな。その際に魔女が牢獄から脱出し、ピエール司祭の首を刎ねて逃げ出したと。それに困惑した辺境伯が兵力を整え、既に調べた魔女の巣に向かったが、負けてしまい、自らも捕虜になってしまったと。いやはや、物好きな私でも、さすがにこれは驚かざるを得ないな。まさかあの辺境伯が負けてしまうとは」



「どうやって、そこまで知ったんだ……」



 戦闘が起きてまだそこまで時間は経ってないのに、教会は既にそこまで調べたのか。まさかこれ程の情報力があるとは思いもしなかった。



「教会の情報力は、神父にすぎない私が言うのもあれだが、かなりのものだ。で、今まで言ったことに偽のものはあるか?積極的な協力を頼む。じゃないと、悪い何かが起こるかもだ」



「……君の言った通りだ」



「そうか。協力に感謝する。そして、ここからなのだが、シェパード卿、君は何で増援を要求しなかったんだ?」



「あ?何を言っているのか……」



「調べた限りだと、確か君は戦闘の際に歩兵の指揮を担ったはず。君は自分の部下たちに増援を要請すると言って戦場を後にした。それは本当か?ちなみにセベウに逃げ切れた兵士たちから調べたものだ」



 胸がゾッとする。そこまで調べたのか。



「それは……」



「確か君はメアイスの衛兵に言ったはず。辺境伯からの指示で東に向かわねばならないと。東に行って増援を要請するつもりだったのか?」



「あ、ああ、そうだ」



「しかし、おかしいな。ここメアイスや、周辺の要塞都市で増援を要請しても十分なはず。距離的に考えるとそっちの方が迅速な対応を期待できたはずだ。何で船まで使って東の方に行こうとしのだ?」



「そ、れは、」



 本来はただ逃げたくて適当に言ったのだが、そのせいで追い詰まれるとは。ここで上手く言えないと、私が戦闘から逃げてきたのがばれるかもだ。



「それは、ここら辺の兵力だけでは足りないと考えたからだ。魔女の軍勢は強い。彼らを打ち破るには、国王の支援が必要だと判断したのみだ」



 実は違うけど、この辺なら上手く言えたのではないだろうか。クロード神父は、それを聞いてじっと考える。



「そうか。分かった。まあ、それもありとしてはありか。なら、」



 やって解いてくれるのか?そう希望を持って返事を待つと、クロードが淡々と言い出す。



「上部の指示が来るまで待ちたまえ。君を開放しろと指示が出たら、身の拘束を解除しよう」



「なに?」



「君はあの戦闘で生き残った唯一の騎士だ。得られるものが他にあるはず。君の開放は一介の神父にすぎない私が決められるもんではないだろう。一旦報告を上げるとしよう」



 そう言い、クロードが階段を登ろうとする。



「おい!何で私が……!」



 そう叫ぶと、シスター・ルイスが私にその手の槍を向ける。



「静かに」



「ちっ……!」



「シスター・ルイス。引き続き彼の監視を頼む。私はその間にロミニオの方に連絡を取る。……まったく、こういうのは元々司教がやることだが、セスペデス閣下は何でこういう時に席を外しているのか……主任司祭ごときには荷が重いということだ」



 そうやってクロード司祭が上に向かい、地下には主人を捨てた元騎士と、一人のシスターだけが残されるのみだった。



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