第4話 戦果

『で、全員揃ったか』



 会館の中、会議室として任意に決めた部屋の中に人々が揃っている。部屋の中央にある長方形のテーブルを中心に、私の右にハウシェンが立っていて、左の方にはネイア、ベルキー、ゼフ、ヨイドが座っている。数百の人が帰って来たせいか、外は騒がしい。



『ハウシェン、後片付けは終わったか?』



「はっ。戦場の整理が終え、捕虜を含む全員が村に到着しました。捕虜たちの武装も解除し、現在一部の部隊が彼らを監視中です。死体は戦場に集めて置きました。死体や捕虜から回収した装備は村の広場に集積を終え、負傷者は治療を待機中です」



『死体の数は?』



「敵、味方を含め総計193体です。ちなみに軍馬の死体は180体でした。その他にも足を折ったり、傷を負った馬もありましたが、別に方法がないため安楽死させました」



『そう言えば、馬も死んだのか』



 忘れていたが最初に敵は騎馬突撃を敢行してきた。地が泥に変わって、白兵戦が始まってから馬もかなり死んだのだろう。まあ、馬がどうとか、今は別に良いか。



『分かった。では、あれだ。始めようか、会議を』



 そう。ここにこうして人を集めた理由は、今後についての議論をするためだ。一旦、最も至急な課題であった辺境伯の侵攻はどうにか止めることはできたが、今後何をどうするべきかに関しては、何も思いつくことがない。だから村人の中でも有識者のような人たちと、頼れるハウシェンを呼んだ。そう言えば、ハウシェン以外の士官たちは何をしているのだろう。



『ハウシェン、他の士官たちは?』



「彼らは現在それぞれの任務を遂行しています。エリーヌとバシリア少尉は捕虜の監視を、残りの者らは回収した装備の分類を指示しました」



 奴らも色々やることが多いんだな。そういうことに気が回らなくてもハウシェンが自分で処理してくれたのか。でも士官って自分なりの意見を出せた気がする。もし何人かここにいれば役に立つかもしれない。二人ぐらい呼んでみるか。



『二人ぐらい、ここに呼ぼうか。え、と……』



 捕虜を監視する者たちは呼ばない方が良いだろう。ならば、クライストとラブレの辺が良いか。目を閉じ、意識で話してみる。



(……クライスト、ラブレ、こっちに来るように)



((……了解))



 そう彼らの返事が脳内で響くと共に、二人が部屋に入って来る。



「……司令、何の用でしょうか」



「おい!司令!何か用か?」



 クライストの冷たく、冷静さが感じ取られるそれに対して、ラブレは陽気の溢れる声で元気よく返事をする。



『ああ、ここに座れ、指示は後でする』



 二人が私の右の方の席に座る。にしても、ハウシェンはさっきから私の横に立っているのみだ。それはなぜ?



『ハウシェン、君は座らないのか?』



「……立っていても問題ありません。そして、ここの椅子は私の体重に耐えられないと判断します」



 ああ、体重が重くて椅子が壊れるってことなのか?ハウシェンを見る。2メートル近くの、巨大な体躯。そしてかなり重そうなフルプレートアーマーを全身にまとっている。その鎧の中は見たことないが、かなりがっしりしているに違いない。具体的には知らないが彼女がかなり重いのは確かだ。椅子を見てみる。うん、壊れるかもだ。



『分かった。じゃあ始めるか』



 今は大事な話を始めないと。



『じゃあ、皆聞いてくれ。戦闘は終わったけど、これから何をすれば良いのか、目指すべき目標は何であるか、決まったことがないからな。村人の中でも知見のありそうな人たちをここに集めたんだ。今後のことについて議論するために』



 一人で何を決めようとしても、私としては彼らの事情にもそんなに詳しくないし、世界に対する知識もあまりない。その上でそれを補える経験も少ない。一旦多様な意見を聞いてみるのが大事かもだ。



「そうか……しかし、わしがそんなに役立つとは思えんが……」



「まあ、俺もそんなに頭が良い方ではねえが、聞かれたぐらいの返事はするぜ」



「僕なんかが、役に立つかな……」



 ヨイドやゼフ、ベルキーは少し不安そうな顔をしている。



「まあ、分かったぜ~できるかは知らんけど」



「……」



 豪快に返事するラブレとは違い、クライストは沈黙している。横目に彼を見ると冷静な目で、無表情に何かをじっくり考えているようだ。



『まあ、取り敢えず戦闘の結果から聞いておくか。ハウシェン、簡単に頼む』



「はっ。戦闘の結果について報告します。まず戦力として、我が軍が人間の兵士が121人、私を含む司令の召喚兵が156機で、総計277機でした。一方、敵の方は騎兵隊が201であり、歩兵はその数が定かではありません。最低でも数百はであったと推測します」



『……確かに歩兵がいくらだったかは分からないな、でも騎兵の場合はどうやって数を調べたんだ?』



「単に生き残りと死体の数を合わせただけです。で、被害についてですが、我が軍の人間の兵士は30人が死亡、召喚兵の方は66機が破壊され、合計96機の損失を受けました。敵の方は、騎兵の中で131人が死亡、歩兵の32人が死し、合計163人が死にました」



『そうか……うん?騎兵をそんなに殺したのか?』



 今思い返してみると、敵の騎兵は全員が死ぬ気で戦い、ものすごい戦闘力を振るっていた。そんな彼らを、そんなに殺したのか?少し信じられないな。



「はい。死体を調べたところ、騎兵の死体の中で50体近くには外傷がありませんでした。しかもそれらは土の中に埋もれていたので、泥で溺死したか、味方に踏まれて圧死したかと思われます」



『まあ、そういうことか。で、続きを』



「はっ。敵歩兵とは戦闘最後の時に接戦が起きたのですが、辺境伯の降参を見て、彼らの大半はそのまま逃げ出しました。調べたところ、我が軍は彼らの32人を殺害し、49人の捕虜を捕まえました。騎兵の方は、辺境伯を含み70人が降参して、捕虜の合計は119人です」



『捕虜って、今監視しているんだっけ』



「その通りです。しかし村には彼らを収容できる施設がないため、今は村の隅に集めて置きました」



 ハウシェンの報告はあの時何が起きたのかが上手くまとまっていて、内容が理解しやすい。彼女って戦闘だけでなく、色んなところに手が回る者のようだ。



『そうか、分かった。報告、ご苦労様』



 戦闘の結果の話はこれで十分だろう。



「にしても、そんなに死んだのか……気が重いな……」



 鎧をまとっているゼフは、暗い顔で下を見ながらそう呟く。



「わしとしは、想像もできぬ……睨み合いながら、刃で互いを傷つけるのか……」



「防衛隊も今かなりの被害を負ったぞ……しばらくは休憩を取らせなくてはならない」



 あの三人はそれぞれの感想を述べている。その時、さっきハウシェンが言ったのを思い出す。捕虜の処遇の問題か。



『まあ、それはともかく、皆に聞いておきたいことがある。119人の捕虜だけど、どうすれば良いと思う?』



 ハウシェンは彼らを排除すべきだと言ったが、それ以外の方法があるのだろうか。



「おお、降参した者たちのことか。けど、どうすれば良いのか、わしとしては……今までこの村に来た者たちはネイアが助けてあげた者のみだ。そうでない人をどうするべきかは、良く分からぬ」



「捕虜、か。確か難しい問題だな……こんなの、俺も初めてだ……手強かった連中だった。ただ放っておく訳にはいけない。しかも、この村においてはな。閉じ込めておくとか、その辺でどうだ?」



「僕も、ゼフさんの意見に賛同だ。今は閉じ込めておいた方が良いと思う」



 それが彼らの意見のようだ。にしても、閉じ込めておくのか。



『閉じ込めておくにしても、どこに?この村にそんな建物でもあるのか?』



 見た限りこの村に建物や敷地が足りないとは思えない。盆地の中にはまだ何も立ててない敷地がほとんどだったし。でも、あの人数を収容できる程の施設があるのだろうか。



「それは、ない、な……ここは見ての通り小屋がほとんどだし、100を超える人を一気に受け入れられる建物はない」



『なら建てなくてはいけないってことか』



「まあ、そうなるだろう。でも時間が必要なはずだ。人手も必要だし、簡単にできるもんじゃねえ」



 ゼフがそう言い出す。確かに、建物ってすぐに出来上がるものではないか。



「労働力が足りないなら、捕虜たちを動員すれば何とかなると思う」



 なんにせよ、彼らは捕虜を生かしておくことを前提に話を進めている。しかし、彼らをそんな苦労までして生かしておくことに、どんなメリットがあるのだろう。そう考える時だった。



「……司令。ここでもう一度言わせていただきます。降参した者たちは、今すぐ迅速に虐殺すべきだと進言します」



「な、なんだと……?」



「……!?」



 虐殺。それを耳にして彼らは驚き、動揺を隠せないようだ。その場の空気が凍り付いていく中、ハウシェンは淡々と己の意見を述べ続ける。

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