第14話 クライストパーティー

「お~い!こっちだよ」



「あ、皆!もう着いたよ~降りても大丈夫」



 そこを見ると酒場の前に4人の人が立っている。バシリアが降りたので、自分も降りることにした。彼らがバシリアの仲間なのか。一旦様子を見ないと。



「にしても思ったより早かったな、そこの人は誰?」



 後ろに結んだ、首元までくる赤い髪が情熱的で、緑色の瞳が綺麗な、陽気溢れる男はバシリアにそう尋ねる。



「この子は、辺境伯が言ってた増援だよ。名前はスメラギ。あ、スメラギ、この子はね、ラブレって言うんだ。うちのパーティーで突撃を担当している」



『えっと、名前は皇彼方。よろしく』



「スメラギ?変な名前だな、俺はラブレ。訳あって今は冒険者をしている。よろしくな!」



「何だ、自己紹介か?」



 ラブレの隣にいた、暗い青色の髪の、穏やかで落ち着きのある雰囲気の垂れ目の男が話す。腰の帯に剣を付けているが、剣士なのか?



「僕はクライスト。このパーティーのリーダーだ。君が増援だね。よろしく」



『あ、ああ』



「次は私のようだな、私はシュヴァーベン。見ての通り盾使いだ。ここでは主に防御を担当している。何か聞きたいことがあればいつでも聞くように」



 シュヴァーベン。漆黒の髪が目立つその男は背が高く、同じく漆黒の鎧と巨大な盾から強い印象を受ける。その声はとても低く、聞く側を落ち着かせる力があるものだった。



「え、と……最後は、私のようですね。私はエリーヌ。ここでは魔法使いをやっています。基本的に魔法はその全般を扱えるので、必要な時はいつでも言ってくださいね。よろしくお願いします!」



 エリーヌは肩までくる金髪の髪をポニーテールに結んだ、純真無垢さが感じられる女の子だった。白いローブと木の杖、魔法使いって、皆ローブが大好きなようだ。その可憐な声は、どこか優しさに溢れていて、聞いていると心が癒される気がするものだった。こんな子まで冒険者をやるのか?



「そして私、バシリアがパーティーの斥候担当。こうして5人が揃って、クライストパーティーなんだ。どう?それっぽくない?」



『まあ……確かに』



 今初めて会ったばかりだから何とも言えないが、この5人のパーティーからはどこかしら強さが感じられる。互いへの信頼、ということだろうか。このグループの中に満ちている雰囲気がそれを私に感じさせる。そして今の時点で彼らに私への敵意はないようなので、安心する。



「ねえ、それより皆、聞いて?スメラギって召喚術士だって!すごくない?」



「ほお……今の時代に、珍しいな」



「あん?召喚術士?なんだそりゃ」



「ラブレ、知らないのか?それ魔法使いの一種だぞ?にしても珍しいな。実際に目にするのは初めてかも」



「ええ?召喚術士?本当ですか!?信じられない……私も学校で学ぶ時に聞いたのが全部です。え、と、もしよければ見せてくれませんか?」



 どうやらエリーヌは私の能力に大変興味を持っているらしい。目を輝かせながら私に近寄る。



「いや、それは後で、今は先を急ごう。途中で人と合流する予定なんだ」



 私が兵士を召喚しようとすると、クライストはそう言い皆の足を急がせる。



『うん?パーティーって、これで全部じゃないのか?』



「ああ、僕たちのパーティーはこれで全員だけど、もっと増援が欲しくてね。ギルドの方へ話をしておいたんだ。それで冒険者2人が手を貸してくれそうなので、現地で合流することになったんだ。行こう」



 どうやら威力偵察にはなるべく多い戦力が欲しいようだ。しかし冒険者2人か。どんな人だろう。



「あ、それにバシリア。ミンキーは今回連れて行かないことにしよう」



「ええ?何で?」



 バシリアはクライストのその言葉に驚いたようだ。その疑問にシュヴァーベンが答える。



「今回の任務はモンスターの巣らしき洞窟の中を偵察すること。馬は活躍しづらい環境だ。それに洞窟の外に置いてもな、馬を不安に晒すだけになるはずだ。ならばこの街に置いた方が良いだろう」



「そう言えば、確かに……」



 バシリアはそれに納得したようだ。



「分かった。この酒場に預けておくから、ちょっと待ってて。ミンキー、皆に挨拶」



「ヒヒーン」



 サラマンカはそれに気付いたのか、どこか悲しげに鳴く。



「それじゃ皆、行こう」



 そうして、私の新しい旅が始まった。




『……』



 何時間歩いたのだろうか。私はふと気になることがあるので、口を開ける。



『で、具体的にどんな任務なんだ?』



 辺境伯は威力偵察と言ったが、具体的にどんな任務だろうか。



「まあ、言葉通り偵察任務だ。最近、南の方から襲撃が激しくなって、軍が偵察をしたけど、モンスターの巣みたいな洞窟を発見したようだ。それで僕たちがそこに入って、本当にモンスターの巣があるのか確かめる。そしてそれを辺境伯に報告するんだ。攻撃が目的じゃないから、戦闘は必要最低限のみで十分だよ」



 クライストは歩きながら丁寧に説明してくれる。情報を得るためにも、もう少し質問をしてみよう。



『そうか、ありがとう。で、君たちは何でここでそんな戦いをしているんだ?冒険者は冒険をするんじゃないのか?』



「それは……」



 その時、シュヴァーベンが口を開ける。



「君はよく分かってないようだな。私が説明しよう。まずこれを覚えておけ。『平時には冒険者、戦時には傭兵』。私たちも普段は冒険者として活動しているが、最近は世の中が物騒になってな。冒険の依頼は減って、傭兵の仕事が増えたんだ。だから今はこんなに傭兵みたいな仕事をしている訳だ」



『あ、そういうことか』



 普段は冒険者として動くが、今は傭兵の需要が増えたのでそちらの仕事をしていると。だからこんな任務を遂行するのか。



「まあ、だから僕たちは冒険者を名乗っているけど、今は実質的に傭兵と変わらないよ。最近は境界領域から襲撃が増えているし、仕方ないかも」



 クライストは少し苦笑いながらそう語る。



『モンスターの襲撃って、そんなに大変なのか?街で見る限り負傷者も多かったようだけど』



「まあ、確かにそうですね……セベウはまだ大丈夫な方なんですけど、周りの村や軍の要塞は深刻な状態らしいです。特にセベウの南の方向から、モンスターの群れが周期的に攻めてきて、ほぼ全ての村が破壊されたとか……」



 モンスターって何のことなのだろう。聞いた通りだと物凄い戦闘力を有しているようだ。



(うん?おかしいな……)



 前にネイアから聞いたことを思い出す。確かその村には昔から襲撃があったけど、今は気にしなくていいと言ったが、それと何か関係があるのか?



「にしても、何でモンスターがそんなに攻めて来るのだろう。あ、そう言えばお前ら聞いたか?魔女の噂」



 ラブレが急に口に出したその言葉で、胸がぞっとする。



「あ~それね?私もさっきギルドで聞いたよ。面白かったね」



『魔女って、どういう……?』



「何だ。聞いてことねえのか?俺もさっき酒場で聞いたけどな。セベウの西の方向の、境界領域


の奥に、魔女たちの村があるらしい。あ!もしかしてあいつらのせいじゃないか?南のモンスターの襲撃って」



「ええ!?本当ですか……!やだ、怖い……」



『まあ。か、可能性としてはゼロではないな』



「その噂、僕も聞いたけど、信じるには根拠が足りないんじゃないかな。それに教会の発表でもないし、信じても騙されるだけかも」



「私もクライストと同じ考えだ。この辺で人を騙すための悪質的な噂が広まるのはよくあることだ。魔女は、魔女狩りの専門集団、教会が直接調べて発表したことでないと、信じられない」



「まあ、そうかもな。それで何人かがメアイスに向かったそうだけど、どうなることやら」



(……何人かがメアイスに?もしかしてあの剣士たちか?気になるな)



『メアイス?そこは何だ?』



「お前、メアイスも知らないのか?ここら辺で一番大きい都市なのに?」



『ごめん、世間に疎くて、私』



「メアイス、セベウから東南部にある、おおよそ数万人が暮らす都市なんだ。セベウに来るほとんどの人々が途中に寄る大都市。多分あの冒険者たちってそこの教会に報告しに行ったんだろう。魔女のことをね」



『そうか。なら教会が調査を始め、真偽を調べるのか』



「まあ、ね。まあ、何とかなるでしょう。本当なのかも知らないし」



 ここの皆はあの噂に対して興味を持っていないようだ。にしても、彼らって魔女のことをどう思っているのだろう。肝心なところを忘れていた。それどころか、この世界の人々は魔女をどう思っているのかを調べようと思ったのが、てっきり忘れていた。まず彼らに聞いてみるか。



『……ねえ、皆は、魔女のことどう思っている?』



「「……?」」



 その時、場の雰囲気が急に変わる。険しく、警戒を感じられるそれを肌にし、私は危機感を覚える。



(やばい、質問が直接的だったかもだ)



『あ、いや、これは……』



「何当たり前のことを聞くんだ?魔女は全部打ち倒す。当然だろう?」



『え?』



 ラブレのその言葉で、私の意識がふと止まる。



「まあ、そうだよね~この世界の悪いこと、そのほとんどが彼らのせいなんだから」



 バシリアがそう話す。



「私も、教会で聞きました。世界に存在する悪の根源は魔女って、だから魔女を全部なくせば、世界に悪は全部消えるって、神父がそう言ったから、多分本当なんです」



『教会で……?』



「それが本当なのかは知らないが、魔女たちが世界の秩序を乱すのは確かだ。世界をより良くするためには、彼女らは排除するしかない。それが私の考えだ」



「まあ、僕はそれに興味ないけど、魔女って見たこともないし。皆がそう言うならそうじゃないかな。それより自分たちのことに集中しないと。僕たちは冒険者だから」



『そ、そうか……』



 驚いた。魔女に対してあまり縁のないように見える彼らから、あんなに敵対的な発言が出るとは。にしても、何で魔女はそんなに敵対されるのだろう。悪の根源とか、いくら何でも言い過ぎではないだろうか。



『じゃ、何で魔女ってそんなに危険視されるんだ?何か悪いことでもしたのか?』



「スメラギさんって、大厄災のことを知らないんですか?」



 大厄災、エリーヌの口から出たその言葉は、初めて耳にするものだった。



『大厄災って?』



「え?知らないんだ。じゃ私が説明してあげますね。それは、今より約一千年も前のこと。始まりの魔女、ベルナディエがこの世界を滅ぼそうとし、世界中が大混乱に落ちました。それを人々は呪いの戦いと言います」



『一千年前、始まりの魔女ベルナディエに、呪いの戦いか』



 いきなりこの世界の歴史に触れることになった。念のために覚えておこう。



「ええ、はっきりとした史料は残されていないんですけど、世界を恨んでいた彼女が、悪魔との契約で黒魔法を手に入れたとされています。そしてそれを用いて彼女は世界を呪うことになり、世界は混沌に落ちたようです。それを帝国が止めようとして起きたのが、呪いの戦い」



『ふむ。そうか。それでどうなった?』



「帝国というか、世界は絶滅寸前の危機に追い込まれたと思われています。皇帝も死んでしまって、たくさんの人々の命が絶えました。しかし神官エレスが、神の力を借りて魔女の軍勢を滅ぼすのに成功したんです」



『え、神官が?』



「はい。そして、西にある、ベルナディエが力を入れた根源の地。そこでの最後の戦いを以て、ベルナディエは死し、彼女に力を与えた悪魔はこの世界から逃げ出し、呪いの戦いは終わったのですが……」



『ですが?』



「死ぬ前に、ベルナディエが自分の能力を暴走させ、全世界に彼女の呪いが蔓延することになりました。それが大厄災。疫病から始め、大地震と飢饉、大洪水まで……今としては、少なくとも当時の全人類の約九割が命を失ったと推測されています」



『約九割が死んだと?すごいな』



「ええ、しかし、神官エレスが、神の力を授かって大厄災を祓いました。それで人類はようやく生き延びることに成功したんです」



『エレスって、本当にただの神官?いや、そもそも神官ってそれほど強いのか』



「神官は、色んな制限はあるけど、神の力のごく一部を一時的に行使できます。それは今も同じ。とにかく、エレスは大厄災を祓い、帝国のなくなったこの西大陸で雄一神を崇める、今の正教を確立して初代教皇になりました。それが正教の始まりです。ちなみにこの時を基準に、今の歴、聖歴が始まりました」



『教皇になったのか。なら魔女たちは?』



「はい。呪いの戦いの際、ベルナディエは自分の力を分け与えて、たくさんの魔女を養成したのですが、ベルナディエの死後、彼女らは世界中に離れ離れになり、各地に身を潜むことになったようです。そしてそんな彼らを見つけて滅ぼすために、初代教皇エレスが魔女狩りを唱え、一千年に至る魔女狩りが始まったのです」



『魔女は、前に人類を滅ぼそうとして、今も嫌悪されるのか』



「ええ。だって、大厄災で人類を滅ぼそうとした存在の、末裔ですから」



 ベルナディエと大厄災。そしてその末裔である、魔女。彼女らが憎まれる理由は、何となく分かりそうだ。



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