初めての住宅の内見
藤泉都理
初めての住宅の内見
ふらりと入った不動産屋。
対応してくれたスタッフを見て、遊び心と好奇心が強く疼いた俺は、つい。
言ってしまったのだ。
お任せでお願いします。
(さあって。どこを案内してくれるのかな)
まずは徒歩圏内の不動産を紹介します。
ハスキーボイスで言われた俺は、素直についていった。
大剣を自由自在に操る歴戦の猛者、の、風貌と雰囲気のあるスタッフに。
言っておくが、冷やかしではない。
この人が紹介してくれる住居ならばきっと、俺は。
ふらりと不動産屋に入っては、目に付いたアパートやマンション、一軒家を指さしてここをお願いしますと言って、そこに住んでいたが、しっくりこないで退去する。
いつも適当に選んでは引っ越すを繰り返していたのだ。
住居に求めるものは何もないはずだった。
雨風を防げるところであればそれだけで十分だった、はずなのに。
(超狭いやん)
ここは本当に人が住むところ?
トイレもシャワー室も、壁がここは壁の住処じゃ人間はよそへ行けって威嚇してきているんですけど。
いや家具も電化製品も据え置かれているのは有難、いや、別に家具がなくても構わないのだけれども。ベッド以外、寝転んで手足を伸ばせるスペースがないのだけれども。
ぶつかるぶつかる。ここに住んでいたら絶対に痩せる痩せる。
不平不満が次から次へと噴出してくる。
のに。
おかしいなおかしいよ。
「近くに戦闘。あ。銭湯もありまして、商店街の中には、定食屋もあちらこちらにあって、温かく迎えてくれますよ。かくいう、わし。いえ、私もこの町に温かく迎えられた一人でして。救われています」
そのはにかみ笑顔に後押しされた俺は即決した。
超狭いくせに、ごちゃごちゃしているくせに、壁は威嚇してくるのに、安心するこのマンションに住む事を。
異世界に来て初めての仕事、初めてのお客様にこんなに感謝してもらえるなんて。
熱い握手を交わした、元異世界剣士であるスタッフは、お客様と共に滂沱と涙を流したのであった。
初めての住宅の内見 藤泉都理 @fujitori
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