恋なのか、照れなのか

★過去編


三笠 氷河に関する話です。


皆さん気になってるであろう、彼女と茜の出会いの話その1です。







私が茜ちゃんに初めて会ったのは中1の春ごろ。




そこそこ話すクラスメイトの男子と朝偶然バス停で会ったのでせっかくだし一緒に学校へ行こうとしていた時だった。




***


「あっれぇ?和達さんじゃん!」




いつも明るいテンションのこの犬みたいな男子は余計にテンションが上がっているようだった。


和達さん?誰だろう?このかんじで話しかけるってことはだいぶ仲良さそうだなぁ


彼は内部生らしいので内部生の友達かもしれない。




「やっほ~うざいぬ、彼女?」




和達さんが私の方を見た。


視線が合った。第一印象は明るそうな人、だった。




「んなわけあるか、てか知ってるんちゃう?この人のこと?」




「、、?有名人?名前聞いたらわかるかも?」




「だってよ、自己紹介しなよ」












「、、、、三笠 氷河」




名前だけでいいでしょどうせ関わらないんだから、とでも言わんばかりに雑にあいさつをした。


あぁ、第一印象最悪だろうな。


「三笠さん、、?知らないなぁ、、」




「え、知らんの?最近英検2級うかった天才やで」




自慢したわけじゃないんだが、英検受けた?何級~?とかいう問いに正直に答えたらあっという間にこの騒ぎだ。


中1の、特に英会話スクールに通っているわけでも、留学経験があるわけでもない、「ただの一般人」がとったから、ちょっと騒いでいるのだろう。


これごときでそんなに騒ぐなんて。


馬鹿馬鹿し、、




「、、え!!すごいじゃん!!!!頑張ったんだね!!」






私の腐った思考を切り裂くかのような電撃がビビッと頭を駆け巡った。




素直に驚いてべた褒めしてくれる人なんて、そうそういない。




あー氷河ちゃんならね、みたいなかんじでとられて、社交辞令みたいにすごいすごいと無表情で言われたり、たまに嫉妬に狂った視線を受けたりはする。


今回の騒ぎの場合も、みんな流石に無表情じゃないけど、社交辞令ってかんじが否めなかった。




だから、、こんな風に心の底から褒めてくれる子は、、初めてだった。




人間不信気味になっていた私は、思わず涙がでそうになった。




ただこうやって心の底から、褒めてほしかっただけ。ただそれだけなのに、なんで、、、、、




なんで、今までこういう人に会えなかったんだろう。




慣れていないからかな、なんでだろう、すごく動悸が。


呼吸があらくなる。顔が少しほてっているような。




ぎゅっ。




しかも手まで握られた。私の両手を彼女の両手がサンドウィッチみたいにはさむ。


彼女の目は小学生のよう。彼女の目は純粋無垢だった。


本当に、心の底から褒めてくれているんだって、伝わってきた。




あっ、動悸がっ。


急にバクバクしだした。まともに彼女の顔を見れず、ふいっとななめ下に目線をずらしてしまう。


でも彼女は見つめることをやめない。じっと見つめてくる。




あぁ、!まぶしい、!




私にはまぶしすぎる、その目で見られると自分の心の汚さを実感しちゃって嫌になる。




何々何!!??なんなの??痛いっ心臓がっ、なに、何者なのっこの人っ!?








そんな顔されたら私、私じゃなくなっちゃいそう。




呼吸があらいのに気づいたのだろうか、はっと彼女は気を取り直し、


「だ、だいじょうぶ?」


と心配そうに聞いてくる。




「、、、っ!だ、だい、じょうぶ、、」




まだ、息が整わない。


なんで、なんで急にこんなに呼吸しにくくなったの、、?


走った後ってわけじゃないのに。


一旦落ち着こうと思って下を見る。




「で、でもさ、、」




「、、な、何、、?」


彼女がさっきよりも、また一段と心配そうな顔をして言った。








「 顔、、、真っ赤だよ?」










そう教えてくれた数秒後に、彼女は他の友達に呼ばれて私の目の前から立ち去っていた。        




あっという間の、ちょっとした時間の、他人から見たらなんともないような、ただの待ち時間だったけど。


私にとっては、


いつもとは違う世界線での出来事のように、




時がゆっくりと溶けていくように感じられた。




*** 


彼女と別れた後、しばらく私は衝撃とどきどきで息があらかったが、うざいぬ、と呼ばれてたさっきのクラスメイトの男子に落ち着く深呼吸の仕方を教えてもらって、なんとかなった。




「冷静になって考えてみると、さっきの状態はだいぶおかしいと思うんだよね。」


うざいぬ、と呼ぶことにしよう。そのうざいぬに相談してみる。


「確かに、三笠さんが緊張しててめっちゃ意外やったわ、顔ほんまに真っ赤やったし」




「んー、、さっきのは緊張とかじゃない気がする、、」




私は普段、基本冷たく人に当たるが、それは緊張しているからじゃなくて信用していないから。


緊張なんてそうそうしない。舞台には慣れている。人前にも慣れている。




「それ以外の顔が赤くなる原因、かぁ、、」


「怒っているわけでもないのに、初対面の女子に対して、顔が真っ赤になった。これってさ、、」




「、、、」


「、、、」


「照れてたってこと?」


「えぇ、私が、、?」


「一目惚れ?」


「え」


「恋?」


「え゛」




まさか、、いや、まさかまさか。




キャリアウーマンになることしか考えてなくて、恋愛なんてしたこともない、そもそも異性にすら好意を持ったことのないような私が、、そんな私の初恋が、、






 同性への一目惚れから始まる、、?


(いや、一目惚れとは違う気もするけど、、)




なんて現実離れした話だろう、あるわけ、、あるわけない。


でもそうじゃないと、説明がつかない、、ど、どういうこと、、?


本当にこれは恋なのか、調べないと、、。




「やっぱりね」


「え、?」


「あの人なら、何かしら衝撃を与えてくれると思ったよ」


「もしかして、うz、あ、思い出した、宇崎君も、、」


「待って、名前忘れてたの、、?」


「うん、冗談抜きで、その、、人に興味なくて、、」


「せめてしゃべってるときくらい名前覚えといてほしいかも~さすがにショック」


「わかった、きをつける」




そんなことをしゃべったり考えたりしているとちょうど学校についた。


「んじゃ、またあとで」


「はーい」






***


その後しばらく朝の出来事のことを考えてぼーっとしていたら気がついた。


あ、うz、、宇崎君に、聞き忘れていた。重要そうなことを。








私が聞きたかったのは、、




もしかして、宇崎君も、彼女ーー和達 茜ーーに何か影響を与えられたのか


ということだ。




もしそうだとしたら、彼女は複数人にものすごく影響を与えていることになる。






彼女は、、何者なのだろうか。








彼女に対するあの感情は、、






本当に、恋、なんだろうか。















やっぱり。彼女はすごい。




和達 茜。彼女には感謝しかない。


彼女のおかげでこの学校に俺がいる。


実はそういっても過言じゃない。




さぁ次は三笠さん。あんたの番だ。




和達 茜は、人を変えることができる。


その人がそうありたいと願う方向へ、導いてくれる。




彼女は、そういう人だ。




俺は小学校時代の、あの日の自分に、思いを馳せた。



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