みんなで飲もう!シルアウト!

年が明け、学校が始まった。冬休みがあっという間に過ぎたので名残惜しいという気持ちすらわかない。


いや嘘、さすがにちょっと名残惜しい。




学校が始まってしばらくした1月下旬のこと、朝から別クラスの友達2人が私のクラスに遊びに来た。




1人は天野 七瀬、ゲーム好きのボーイッシュガール。分け隔てなく誰にでもしゃべりかけるので人脈は広い。だがたまに空気が読めなかったりうざがられたりする。




もう1人は 糸井 輝、パソコンに強いまじめな男子。スパイのようなミステリアスなオーラを放ち、紳士のような対応をする、私にとってのド〇えもん的存在。


2人ともA組で私はC組だ。




「どうしたのさ、君たちからくるなんて珍しいじゃんか」


いつもは私からA組に遊びに行くので何か用があるに違いないと思った。


「それがさ、聞いてよあかねる、この学校にその、、危険物質が入ってるドリンクが売ってるらしいんだよ、、」


いつも明るくあっかねるーー!と言って話しかけてくる七瀬がこんな低い声で急に変なことを言い出すので何事かと不安になった。


「危険物質?なんだよそれ、、?」


そこは私が、と糸井が割り込んで話しかけてくる。


「そのドリンクの名前はシルアウトっていって、購買の横の自販機に200円で売られてるんですよね。それに含まれてるのは、、ざっくりいうと、、大麻ですね。」


私は眉と声をひそめて耳を疑いつつ聞き直した。


「、、、、大麻?」


「そうです、大麻です、その量は法律の範囲を守ってるらしいんですけどね。」


なんだそれ、、




めっちゃ気になるじゃん!!!




「ですよね!」


「だよね!」


好奇心しかないバカ3人衆の私たちはそのシルアウトを飲む計画を立てた。


「一応危険物質なので、1人でいきなり全部飲むのは怖いですよね」


「じゃあ何人かで分けて飲むとかどうよ!」


「食堂にある紙コップくすねてきてそれに分けて飲むのはどう?」


「いいですね、じゃあ食堂が開いてる昼休みに計画を実行しましょうか」


「りょーかーい!!」




2人が帰った後私ははっと気を取り直した。何してるんだろう私、、?


私は流されやすい。好奇心旺盛なバカな友達といると私もそうなってしまう。


だがバカな友達はいい。一緒にいて気が楽だし何より楽しい。




そんなこんなで昼休み、例の自販機前に集まった。


「じゃあ、本当に飲むんだね、、今から、、」


「決めてたもんね、私は覚悟できてるし」


新しいものに挑戦するのはドキドキする。今回の場合はその新しいものというのがだいぶ特殊なので余計に緊張して心臓が痛い。


そのドキドキをかき消すかのように柄でもなく大きな声で糸井が急に


「しまった!」


と叫んだので


どうしたのさ、と声をかけると、


「200円どう割り勘しよう??」


とだいぶ重要なことを聞いてきた。


「ほんとだ!3人だとややこしいじゃん、、」


「もう1人、、集める?」


でも誰を呼ぶっていうのさ、、と聞こうとした矢先、ちょうど前を通りかかった同学年のゲーム好き男子、中野に七瀬がすぐさま明るく声をかけに行き、この計画の仲間をゲットできた。


「あ、加瀬君だ!あいつもひきいれる?」


私はぴたっと動きを止めて七瀬の指さす方を見た。




加瀬 大也、私の元大親友の1人だ。


小6の時イツメンと言えるほどとても仲良かったのに中学になってクラスが離れたからだろうか、男女だからだろうか(そんなこと言ったら糸井はどうなるんだろう)最近全然しゃべっていない。




しかも彼は私が好きだった例の男子とも仲が良い。


そういったいろいろな事情が絡み合いなんとなく気まずいので、できるだけ関わりたくなかった。




「いや、いいや、もう4人で十分だよ、割り勘できるし」


「ふーん、じゃあいっか」


七瀬は特に何とも思っていないようだ。さすが空気が読めない代表なだけはある。


何かを察するどころか5人だと40円でいいのに、、と悔やんでるようだ。


「じゃあいただきますか、、」


糸井が少し緊張しつつ七瀬、中野君、私に声をかけた。


「「「「


       かんぱーい!!


                     」」」」




昼休みはまだ続いていたのでシルアウトの入った紙コップを片手に、そのまま糸井と2人でA組に向かった。七瀬はB組の友達の所へ遊びに行くらしい。


「あれ、糸井の席って三笠さんの隣なんだ~」


「なんでかよく隣になるんですよね、今3連続で隣です」


「ほんと!?それは面白いなぁ、、」




ちらっと隣の席を見ると、昼休みなのにノートを広げて勉強してる三笠さんがいた。


でもあまり集中できていないのか鉛筆を持ちながらぼーっと前を向いている。




それと、気のせいかもしれないが、、


彼女が一瞬こっちを横目で見ているように感じた。


私は人からどう思われているかをよく気にするので、人の視線に敏感なのだ。




少し音量が大きかったのだろうか、、?


邪魔になってはいけないなと思い音量をできるだけ下げて話を続ける。




「じゃあそろそろシルアウト飲みましょうか、、」


「量が守られているとはいえ、、ちょっと怖いなぁ、、幻覚とか見えたらどうしよう」


「たぶん大丈夫ですよ、リラックス効果があるので眠くはなるかもですが、その時はコーヒーで何とか午後の授業乗り切りましょう」


「そうだね、よし、飲むぞ、、それっ」


ごくん、エナジードリンクのような味が口に広がる。少しすーすーするかんじでほかのジュースと比べて飲みやすいように感じた。確かにリラックス効果もあるようだ。ココアのようにあったかいわけではないのだが、飲むとほっとした。




一気に飲み終えてなんともなかったね、と糸井と談笑しているとまた三笠さんからの視線を感じた。


なんでだろう、、普通に話していても声の小さい私が、声の音量をもっと聞こえにくいレベルまで下げているというのに。
















なんで、なんで、あいつがあの子と仲良さそうにしているの、、?


まさか、付き合っているの、、?


視界が暗くなった。


勉強どころじゃない。緊急事態だ。

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