旅の終わり
その日、アケニア王国の王都アニアは壊滅的な被害に見舞われた。
多くのものは何が起きたのかも分からず、ただただ崩れ去った街を眺めるのみ。
アケニア王国の象徴とも言える城は瓦礫の山となり、よく分からない化け物は気がつけばどこかへ吹っ飛ばされていた。
そんな中、ある程度の事情をしるアリイとセリーヌは捉えた反逆者の1人を尋問していた。
街の中にまだ反逆者達が潜んでいるかもしれない。しかし、見分ける術を持たないアリイ達にとって最も重要な要素である。
「........はっ、あいつらは死んだのか。だが随分と大きな痛手を負わせたらしいな。王族は皆殺しとなり、復興にも随分な時間がかかるだろう」
「何が目的なのかも聞かなければならぬが、それよりも先に他の仲間の数や場所を聞かなければな。素直に吐けば痛い目を見る必要は無いぞ?」
「ハハッ!!安心するといい。既に同胞達は死んだ。巨大な魔人が出たんだろ?あれ、どうやって作ったと思う?」
城を破壊した魔人は、今までとは比べ物にならないほどに大きかった。人間一人を魔人にしただけではあんなことにはならないだろう。
となれば、どんな手段を使ったのか。
アリイはいち早くその答えに気がつく。
皮膚の代わりとも言えるぐらいに蔓延っていた腕や顔。そしてこの言葉から、答えを導き出すのは簡単だ。
「まさか、同胞達を魔人に変えて練り上げたのか」
「正解。街の中で混乱を起こすのは、私の役目だった。まさか、シエール皇国の勇者が来ているとは思ってなかったし、こんなことになるとも思ってなかったがな。強すぎだ」
「真実のようですね........本当にあの魔人は多くの人を犠牲に作り上げられたようです」
セリーヌが魔法まで使って確認したということは、少なくとも彼女にとってそれが真実。
幹部であるというとこを加味すれば、その全てが間違ってないだろう。
「急いで街の中を駆け巡る必要はなさそうだな」
「そのようですね。では、なぜこのような事を引き起こしたのですか?」
「フハハッ!!なぜ?そんなことも分からないのか?この国は大陸の中央に位置し、そこまで大きな国では無いながらも大国と同等の軍事力を持っている。我々の脅威であることは間違いないだろう?」
「ふむ。つまり、この国が前線となる前に奇襲を仕掛けることによって、相手に対策を建てさせず崩壊を招いたと?」
「そうさ!!巨大な魔人が生まれた時点で、私達の勝ちなんだよこれは。王亡き国に秩序はない。更に言えば騎士団長やらその他の偉いヤツらも死んでいるだろう。統率を失った烏合の衆相手に戦争をしかけて、負けると思うか?」
「人間、三人寄ればリーダーが生まれる。新たな統率者が生まれるだけでは無いのか?」
自分達の作戦が成功して機嫌がいいのか、ペラペラと話を続ける幹部。
アリイとセリーヌは内心穏やかでは無いながらも、務めて冷静に話を続けた。
彼女かこれほどにまで口が軽いのは、話しても問題ない内容だからだ。既に知られても取り返しがつかないから話している。
しかし、その話を聞かなければ、アリイ達は今後の動きを決められない。だから、この場で今すぐにでも殺したい気持ちを押し殺しているのだ。
「そう。人々は王が死ねば新たな王を作り出す。たった一人になるまでな。だが、王が不在の間は混乱を招く。私達はこのときをずっと待っていた。いやまぁ、私の仕事はちょっと違ったんだがな」
「そのお仕事とは?」
「本来ならこの役割は別のやつがやるはずだったんだが、お前たちが現れた。だから、私達は計画を変更した。少なくとも少しでも足止めをして時間を稼ぐ必要があるからね。都合がいいことに、その素体も手元にあった」
「エバランス帝国の勇者か」
「正解。戦闘力だけで言えばかなりのものだ。本来は前線で魔人にさせるつもりだったんだが、その役割は別のヤツに変わった」
つまり、前線でも魔人の被害が多く出ているのだろう。戦場で急に背中を刺されることはもちろん、その可能性を示唆するだけで現場は疑心暗鬼に苛まれる。
魔王軍が相手のように人間と見た目が違うならばともかく、同じ人間の中にも敵がいるとなれば前線で戦う兵士たちはゆっくり休むことすら出来ないだろう。
戦争において休息は最も大事な要素のひとつ。疲れた体にムチを打って剣を振ろうとも、その剣が人を殺す力を持たなければ意味が無い。
実にいやらしいやり方だ。アリイはそんな戦法を取ったことがないが、やってみる価値があるかもしれないと思うほどには。
(これが人間の戦い方か。随分と精神的な攻撃をしてくるな。前線にいようとも、心が休まる時はない。そして心が休まなければ、すり減った心に押しつぶされて死ぬ。巧妙かつ大胆。そして対策のしょうがない。持ち物検査をしたからと言って、後ろから剣を突き刺される可能性は消えないのだからな)
「策略謀略が好きな人間が好みそうな戦法ですね。厄介です」
「言うてあんたも人間だろ?聖女セリーヌ」
「えぇ。ですが、私はそんなものお構い無しに全部吹き飛ばせばいいと思うタイプですから。殴れば全部解決します」
「えぇ........聖女の割に脳筋過ぎないか?」
「それが私です。文句があるなら聖なる拳でも食らってみますか?今のあなたの立場をよく考えてから発言しなさい」
殴れば全部解決!!と言い切る脳筋セリーヌに、思わず囚われの身でありながらあきれ果てる幹部。
この時ばかりはアリイも同じ気持ちだったので、セリーヌの味方に着くことはしなかった。
「しかし、纏めるものがいれば何とかなるのも事実。できる限り早急に対策を練る必要がある」
「アリイ様がやるのですか?」
「いや、我は簡単な提案だけして先に進もう。まだ最前線で堪えているものたちのためにもな」
「はっ!!ハハッ!!アハハハハハっ!!耐える?誰が?何を?言っただろう?!王が新たに生まれる間は隙だらけ。我らが魔王様がその隙を逃すはずも無い!!」
「「........」」
「よく考えても見ろ。なぜ魔王軍は大国を壊せるだけの力がありながら、今の戦線を停滞させている?相手は所詮そこら辺の中小国だぞ?」
「それは────」
「セリーヌよ。ここで前線のもの達が頑張っているからという回答はやめておけ。それは、現実的では無い」
セリーヌの言葉を遮ったアリイ。セリーヌがアリイの方を見ると、苦虫を幾つも噛み潰したような顔をしていた。
アリイは答えに辿り着いたのだ。そして、今すぐにでも手を打たなければならない。
「随分とのんびりとした旅路だったが、セリーヌよ。ここで旅路は終わりだ」
「........へ?」
「今すぐにでもこの街にいる偉い者たちを集めるぞ。でなければ、この国が滅ぶ。そして、この国が滅ぶということは、我らも死ぬ。さすれば、人類は完全に滅びの道を辿る」
「ど、どういう事ですか?」
戦争の経験が浅いセリーヌはまだ答えに辿り着いていない。
アリイはそんなセリーヌに答えを教えた。
「生かされていたのだ。本来ならば力で蹂躙できるところをあえて膠着させ、この国アケニア王国の内部を掌握し、この事件を起こす機会を待ったのだ。戦争とは実際に目にするまで実感できぬもの。彼らは平和という隙を狙われ、自衛を怠った」
「........」
「もっと簡単に言おう。つまるところ、既に魔王軍はこの国アケニア王国の近くにまで進軍してきている。今すぐにでも戦いの準備をしなければ、蹂躙されるだけとなり、我らも下手をすれば死ぬぞ」
それは、絶望的な答えであった。
後書き。
この章はこれにておしまいです。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。
次章は最終章となります。まぁ、大体予想が付く(白目)。
それではお楽しみに‼︎
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